(解答例)
キラル中心炭素において立体反転がおきるから、 (R)-体の酢酸エステルを生じる。(構造式は自分で書いてみること。)
生成物の名称は、(R)-1-methylpentyl acetate
(解答例)
キラル中心炭素において立体反転がおきるから、 (S)-体のアルコールを生じる。(構造式は自分で書いてみること。)
生成物の名称は、(S)-secbutyl alcohol または、(S)-2-butanol
(解答例)
(構造式は自分で書いてみること。)
出発物質は、(S)-2-bromo-4-methylpentane
生成物は、(R)-4-methylpentane-2-thiol
生成物においては主官能基がチオールであるから、メルカプト基の位置番号が最小になるように番号をつけることが、他のアルキル基等の位置に優先される。従って 2-methylpentane-4-thiol ではない。
(解答例)
(自分で生成物の構造式を書いておくこと。)
生成物の名称は以下のとおり。
(a) 1-iodobutane
(b) 1-butanol
(c) 1-hexyne
(d) butylamine
(a)〜(c) では、それぞれ NaBr, KBr、LiBr が生じている。
また、(d) では HBr が生じている。そのため (d) は上記アミンの臭酸塩 butylammonium bromide でもよい。
(解答例)
(a) 負に荷電した (CH3)2N- の方が求核性が高い。また、(CH3)2N- は、 (CH3)2NH より塩基性も強いことも同じ反応性を支持する。(共役酸の pKa で20程度の差がある。)
(b) 第13族の元素であるホウ素は価電子を3つしか持たないので、(CH3)3B は孤立電子対を持たない。そのため Lewis 酸ではあるが、Lewis 塩基としては働かない。従って、求核性も持たない。
(c) 類似の構造を持っていて酸素と硫黄のみが違う化合物であるから、周期表において下の周期の元素である硫黄を含む H2S 方が求核性が高くなる。
(解答例)
1) 脱離基の性能
最も弱い塩基は一般に最もよい脱離基である。脱離基の共役酸が強酸であるほど、脱離性能がよいと言い換えてもよい。ここで示された脱離基 -OTs、-Br、-I はいずれも良い脱離基と考えて差し支えのないものであるが、その脱離性能の順序は、教科書 370ページのように、 -OTs > -Br > -I
の順である。(*)
2) 攻撃を受ける炭素のまわりの立体障害
SN2 反応では、脱離基の付け根の炭素が第1級である場合が、一番反応しやすく、次いで、第2級、第3級の順となる。
上記の要因を考え合わせると、SN2 反応に対する反応性が高い順から記すと、
CH3-OTs > CH3-OBr > (CH3)2CH-Cl > (CH3)3C-Cl
となる。
(解答例)
(反応機構、反応エネルギー図は自分自身でも描いてみること。)
教科書365ページ 図11.4のように、SN2 反応の遷移状態は、Nuδ-−CH3−Xδ- で示されるような分極した構造を持つため、遷移状態は溶媒の極性が高いほど溶媒和による安定化を受ける。従って、求核置換反応は非極性溶媒中では進行が遅い。逆に極性溶媒中では一般に求核置換反応は速くなる。
しかしながら、極性溶媒でもプロトン性の溶媒は、アニオンを強く溶媒和する。求核種および脱離した脱離基を安定化することになるから、遷移状態のみならず出発物(Nu- + R-X)および生成物(Nu-R + X-)のエネルギーも下がるから、活性化エネルギーは極性非プロトン性溶媒に比べると下がらない。
(解答例)
(出発物および生成物の立体に注意した構造を、自分自身で書いてみること。)
この反応では、求核種による炭素への攻撃が遅い原因として、
1) 求核攻撃をうける炭素が第3級であり、立体的に混み合っているため、求核種が近づきにくい。
2) 求核種の反応性が低い(教科書 11.5節、369ページ等を参照のこと)。アセテートイオンでも、(その共役酸である酢酸が弱酸であるため、塩基性が弱く、水酸化物イオン HO- に比べて)求核性が高くないが、さらに中性の酢酸は(その共役酸は CH3CO2H2+ である)(おそらく)中性の水と同程度に求核性が低い。
が挙げられる。そのため、脱離基が抜ける反応が先行して進行し、カルボカチオンを与える。すなわち、SN1 で反応が進行する。
カルボカチオン中間体は、教科書 376 ページ、図11.11 にも示されるように、(空になった p 軌道が他の結合の混成軌道と反発しあわないから)平面3配位の構造を取る。この面に対して求核攻撃が起きたとき、面が区別されなければ、生成物はキラル中心炭素の立体化学について、(R)-体と(S)-体を等量あたえ、ラセミ混合物となる。
実際には、教科書 11.8 節に詳細が記されているように、100% の SN1 で反応が進行するわけではなく、カルボカチオン中間体の近傍に X- が残ったイオン対を作るなど、求核攻撃における面の区別が残ることがある。これを、SN2 性を残しているという。そのような場合は、若干 (R)-体を過剰に含む混合物となり、完全な光学不活性とはならない。
(解答例)
100% の光学純度では [α]D = +53.6°であったものが、[α]D = +5.3°となっているのだから、この反応生成物の光学純度は 5.3/53.6 = 0.0988…である。従って、出発物質が反転して生じる立体化学の酢酸エステルは、10% だけ過剰に存在し、残り 90% はラセミ体混合物として存在している。
ここから先は問いの解答対象外ですが…
反転による立体化学の酢酸エステルの存在量は 55%(= 90/2 + 10)で、もう一方の反転を伴わない立体化学の酢酸エステルの存在量は 45%(= 90/2 − 10) である。e.e. = 55% − 45% = 10%
(解答例)
キラル炭素において、臭素は紙面手前にでている。立体配置は (S)-体である。
優先順位の高いほうから、Br-, Ph-, Et-, Me- の順であるから。
100% の SN1 で反応が進行すると、中間体として平面3配位のカルボカチオンを生成し、求核攻撃を受ける面を区別しない。そのため、完全なラセミ混合物となる。
(解答例)
(生じるカルボカチオンの構造を自分自身で書いてみること。)
CH3CH2Br は、第1級のカルボカチオンを与える。
H2C=CHCH(Br)CH3 は、アリル位で、かつ第2級のカルボカチオンを与える。
H2C=CHBr は、ビニル位のカルボカチオンを与える。
CH3CH(Br)CH3 は、第2級のカルボカチオンを与える。
3本のシグマ結合を持つカルボカチオンは sp2 混成し、空の p 軌道とこれに直交した平面内の3配位を持つ。この p 軌道に対し平行な炭素-水素結合をもつために、アルキル基は超共役効果により電子供与的に振舞う。(教科書 6.10 節を復習すること。)従って、カルボカチオンは第1級より、第2級、さらに第3級となるほど安定となる。一方でビニル位のカルボカチオンでは、中心炭素がやはり sp2 混成しているものの、p 軌道は隣接炭素との二重結合に使われており、1つの sp2 混成軌道が空となっている。この空の混成軌道と平行であるような π 結合性の軌道や、σ 結合は近傍に存在していない。そのためカルボカチオンを安定化するような要因がない。このため第1級のカルボカチオンより更に不安定である。
アリル位のカルボカチオンは隣接した炭素上の π 結合性の軌道が空の p 軌道と平行であるから共鳴効果により(すなわち、π 電子が流れ込んでくる効果により)カルボカチオンは安定となる。
従って、より安定なカルボカチオンを与えるものほど、SN1 反応の反応性が高いといえるから、
H2C=CHCH(Br)CH3 > CH3CH(Br)CH3 > CH3CH2Br > H2C=CHBr
の順となる。
(解答例)
(生じるカルボカチオンの構造を自分自身で書いてみること。)
いずれのブロモブテンからも同一の(互いに共鳴関係にある)カルボカチオンを生じる。
(解答例)
この反応は、脱離により十分に安定な(第3級カルボカチオンと同定度か、それより安定な)ベンジル位でかつ第2級のカルボカチオンを生じるから、SN1 反応であると考えることができる。
SN1 反応の律速(一連の段階の中で一番遅い反応)は、はじめのカルボカチオンを生じる段階であるから、生じたカルボカチオンが求核種と反応する段階が若干速くても遅くても、全体の反応の速さに影響を与えない。
上のように説明したが、実際には観測事実が先にありきであるから、求核種の種類によらず反応の速さが変化しないということが、それ以外の部分が律速段階であるはずだから、SN1 機構で進行していることを支持する、という順序である。
(解答例)
求核攻撃をうける炭素が第3級まで混み合ってくると、ほとんど SN2 反応は不可能となるが、この問題の基質はそれほど混み合っているわけではないから、SN2 で進行する可能性がある。
また、生じるカルボカチオンは、いずれも十分に安定なアリル位のカルボカチオンであるから、SN1 反応となる可能性もある。
(a) しかしこの反応においては、求核種 Cl- の求核能力はもともとさほど高くない(教科書 380ページ)上に、プロトン性溶媒によって陰イオンである求核種が強く溶媒されるため、更に反応性は落ちると予測される。従って、この反応では炭素への求核攻撃は遅くなると予想される。一方、脱離基は、水酸基のままでは十分な脱離性能を持たないが、酸性条件であるから、水酸基はプロトン化を受けて R-O+H2 となり、中性の水が脱離する反応である。水の共役酸 H3O+ は強酸であるから、この中性の水というのは非常に脱離性能が高い。以上の条件を検討すると、この反応は、SN1 で進行すると予測される。
(b) こちらの反応においては、非プロトン性溶媒中であるから陰イオンである求核種は特別な安定化(反応性の低下)を受けない。もともと、RS- は求核性がかなり高い(教科書 369ページ参照)。そのため、脱離基が抜ける反応より炭素への求核攻撃が速く進み、SN2 反応となると予測される。
(解答例)
(かならず考えられる生成物すべてについて構造式を書いてみること。)
(a) 主生成物は 2-methylpent-2-ene
副生成物は 2-methylpent-3-ene
(b) 主生成物は 2,3,5-trimethylhex-2-ene
副生成物は 2,3,5-trimethylhex-3-ene、および 2-isopropyl-4-methylpent-1-ene
(c) 主生成物は ethylidenecyclohexane
副生成物は vinylcyclohexane
(解答例)
(a) 1-bromo-3,6-dimethylheptane が良い。
2-bromo-3,6-dimethylheptane も、3,6-dimethylhept-1-ene を与えることができるが、主生成物としては 3,6-dimethylhept-2-ene を与える。
(b) 4-bromo-1,2-dimethylcyclopentane が良い。
1-bromo-2,3-dimethylcyclopentane も、3,4-dimethylcyclopentene を与えることができるが、主生成物としては 2,3-dimethylcyclopentene を与える。
(解答例)
(この解答例においてはNewman投影式は省略。必ず自分で書いてみること。)
2つのフェニル基がアンチとなるようにNewman投影式を書くと、この化合物においては、プロトン、臭素の組の両方がアンチ配座となっていることが判る。従って、この化合物からE2脱離で臭化水素が抜けると、(どちらの臭素が抜けても同じように)1-bromo-1,2-diphenylethene を与えるのだが、2つのフェニル基はトランスの幾何配置となる。(残る一方の臭素は、フェニル基より優先順位が高いから、これは(Z)-体である。)
(解答例)
(脱離のNewman投影式は省略。必ず自分で書いてみること。)
2-bromo-3-methylpentane は、E2脱離において、主生成物として3置換アルケンである 3-methylpent-2-ene を与え、少量の副生成物として1置換アルケンである 3-methylpent-1-ene を与える。
この問いでは、前者のみを考える。(また、後者は生成物において、幾何異性体を持たない。)
(2S,3R)-2-bromo-3-methylpentane は、次のリンク先に示されるような配座
(2S,3R)-2-bromo-3-methylpentane の3次元模型
より E2 脱離し、主生成物として、(Z)-3-methylpent-2-ene を与え
(解答例)
(ヒントにリンクした立体配座は、自分でも構造式で書いてみること。)
リンクした3次元模型の立体配座が最も安定な椅子型配座である。cis-体では、脱離基である -Br に対して2つの隣接炭素のいずれにもアンチ近平面をとることのできる水素が結合しているのに対し、この配座をとる限りtrans-体では、脱離基である -Br に対してアンチ近平面をとる隣接水素は存在しない。
従って、E2脱離は、cis-体は、trans-体よりずっと速く進行する。
(解答例)
(a) SN2
求核攻撃を受ける炭素は、第1級で立体障害は小さい。
また、求核種は塩基性は特に強くなく、また求核力も特に弱くない。従って、炭素への求核攻撃が優先して起きる。
(b) E2
脱離基が抜けたとして生じるカルボカチオンは第2級で、さほど安定性が大きくないのに対し、用いている水酸化カリウムは強塩基であるから、水素の引き抜きが優先して起きる。(一部、水酸化物イオンによる求核攻撃も生じると、SN2
反応によって 3-bromopentane を副生成物として与える可能性がある。)
(c) SN1
求核攻撃を受ける炭素は、第3級で、立体的にも混み合っており、中性の酢酸分子はさほど強い求核性を持たない。また、塩基としても当然弱い。従って、脱離基が抜けてカルボカチオンが生じる反応が優先して生じる。この後、塩基が隣接位の水素を引き抜けば E1 となるが、カルボカチオンへの酢酸の付加および酸素上からのプロトンの脱離により 1-methylcyclohexyl acetate を生じている。
(解答例)
(a) 第1級のハロゲン化アルキルである。カルボカチオンは安定ではないから、SN2 と E2 が候補となる。E2 反応が優先して起きるのは、強くてかさ高い塩基(t-BuO- など)を用いたときである。(かさ高い塩基では、炭素への攻撃について立体的に制限されるので、分子の表面近く、すなわち水素原子への攻撃(塩基としての反応)が優先して生じるようになる。)
(i)、(ii) ともかさ高い塩基ではない。SN2 が優先すると考えられる。
(i) ethyl methyl sulfide (命名法については、教科書 18 章参照)
(ii) ethanol
(b) 第3級のハロゲン化アルキルであるから、SN1 と E1 が候補となる。塩基性条件下では脱離生成物が優先し、中性条件下(や、アルコールからの場合など、酸性条件下)では、SN1 と E1 の両者が起きる。E2 反応では、位置選択性を考えなければならない。Zaitsev 則で示されるよう、より安定な多置換オレフィンを主生成物として生じるから、(i)、(ii) とも同じように
(i)(ii) 2-methylbut-2-ene が主生成物。2-methylbut-1-ene が副生成物。
(c) 第2級のハロゲン化アルキルである。第2級でも、ベンジル位やアリル位のようにカルボカチオンを安定化する要因が別途ある場合は、第3級のハロゲン化アルキルと同様の振る舞いとなるが、この基質の場合は当てはまらない。従って、SN2 と E2 が候補となる。第1級の場合にくらべて、炭素への求核攻撃は立体的な要因により、より起こりにくくなっているため、(a) のケースに比べて塩基による(水素に対する反応)脱離反応が起き易いはずである。従って、強塩基では脱離が優先される。(i) と (ii) を比べると、教科書 369ページに記述のあるよに、酸素より、周期表の下に位置する硫黄の方が一般的に求核性が高いことを考えると、(i) では SN2 が主として起こることがわかる。また、(ii) では教科書 395 ページに記述のあるように、水酸化物イオンが強塩基であることから主として E2 が起こるが、SN2 も副反応として生じることが考えられる。
(i) cyclohexyl methyl sulfide
(ii) cyclohexene が主、cyclohexanol が副。
(解答例)
(生成物、出発物の構造を自分自身で構造式に書き直すこと。)
生成物 ((1R,2S)-2-cyclohexyl-1-methyl-propyl acetate) は、2つのキラル中心炭素を持つが、原料において求核攻撃を受けて置換の起こる炭素のみ、立体化学が反転する。
出発物は、(1S,2S)-(2-bromo-1-methylpropyl)cyclohexane
これらの化合物の命名法において、主官能基が変化することにより炭素の位置番号がずれていることに注意。出発物は、酢酸のエステルであるから、アルコール性の酸素のついている根元の炭素を1番とする。生成物はハロゲン化アルキルとして命名するから、シクロへキサン環(アルキル基に比べて炭素数が多い)を母体となるように命名し、シクロヘキサンに結合しているアルキル基炭素は付け根を1番とする。
(解答例)
出発物 : (S)-3-chloro-4-methylpent-4-en-1-ol
生成物 : (R)-2-(2-hydroxyethyl)-3-methylbut-3-enenitrile
(解答例)
(かならず自分でNewman投影式等書いてみること。)
上にリンクしたような立体配座より E2 脱離が生じるので、生成物は
(E)-(2-methylbut-1-enyl)benzene
(解答例)
SN1 反応は、脱離基 X が X- として脱離することによりカルボカチオンを生じる段階が律速段階である。この段階は、はじめは中性分子 R-X で、反応後はイオン的な状態である。遷移状態は R-X の結合がイオン的に切れかけている状態。
R-X → [Rδ+…Xδ-]‡ → R+ + X-
SN2 反応は、R-X に対し求核種 Nu- が攻撃し、炭素原子を中心とした5配位型の遷移状態を経由し、脱離基 X- が抜ける。
Nu- + CR3-X → [(Nu…CR3…X)-]‡ → Nu-CR3 + X-
(a) SN1 反応は、溶媒の極性が高いほど加速される。
SN2 反応は、非プロトン性の極性溶媒中で加速される。しかしながら、プロトン性の極性溶媒中では、Nu- などのアニオンが強く溶媒和されて反応性が下がる。(= 遷移状態のみならず、出発物のエネルギーも安定化されるから、活性化エネルギーはさほど下がらない。)
(b) SN1 反応、SN2 反応ともによい脱離基ほど反応は加速される。より良い脱離基とは負電荷をイオン内で非局在化して安定化するようなものであるから、律速段階の生成物がエネルギー的には安定化を受けるから、Hammond の仮説により、生成物がより安定であるような系では遷移状態のエネルギーも下がりやすい。
(c) SN2 反応は、攻撃する求核試薬がより活性であるほど反応が速い。
しかしながら、SN1 反応においては求核試薬の攻撃は律速段階に含まれないから、全体の反応速度に対し、求核種の反応性は影響を与えない。
(d) SN2 反応は、求核試薬による攻撃がより起きやすいものであるほど反応が速い。つまり、炭素上の置換基が少なく、立体的にすいているほど反応が起こりやすい(5配位の中間体の構造が安定化をうけ、活性化エネルギーが下がる。)従って、第1級のものが一番反応しやすい。
また、SN1 反応では、基質の構造によりカルボカチオンを安定化するような場合に、生成系がより安定となるから反応は加速される。従って、第3級であるか、またはアリル位、ベンジル位の場合のみ反応が起きる。
(解答例)
(a) Br- よりも I- の方がより脱離しやすい。従って、CH3I の方が反応が速い。
(b) いずれの溶媒も極性が高いが、エタノールはプロトン性なので求核種 -OH を溶媒和により安定化してしまう。一方で DMSO(DiMethyl SulfOxide)は非プロトン性である。従って、DMSO 中の方が反応が速い。
(c) 第3級のハロゲン化アルキルは、求核種が炭素へ攻撃を行う際に立体的に阻害される。従って、SN2 の反応条件では、第1級の CH3Cl がより速く反応する。
(d) ビニル位とアリル位のうち、ビニル位は求核攻撃を受けない。これは、1つには生じるカルボカチオンが1級よりも更に不安定(1つのアルキル基による超共役による安定化さえ持たない)上に、求核攻撃をうける炭素の周囲に二重結合に関与する π 電子が広がっていて求核種の接近を妨げること、などによる。従って、この場合は、CH2=CHCH2Br の方が速く反応する。
(解答例)
この反応では生成物として 3-methylpentanenitrile を、SN2 機構により与える。従って、反応基質、求核種の両者の濃度に比例した速度を持つ。
(a) 求核種の濃度半分にすると反応速度は 1/2 となり、反応基質の濃度を倍にすると反応速度は倍になる。従って、この場合は、元の速度と同じで進行する。
(b) 求核種の濃度を3倍にすると反応速度は3倍となり、反応基質の濃度を3倍にすると更に反応速度は3倍になる。従って、この場合は、元の速度の9倍で進行する。
(解答例)
この反応は、SN1 機構により進行し、生成物として (1,1-dimethylpropyl) ethyl ether を与える。律速段階は、3級のカルボカチオンを生じる段階である。従って、反応基質であるハロゲン化アルキルの濃度に比例した反応速度を持つが、求核種の濃度には依存しない。
(a) 反応基質の濃度が3倍になるのであるから、この反応は、全体としても反応速度が3倍で進行する。
(b) (以下の解答において、溶媒の半量のみをエタノールからジエチルエーテルに置換し、反応基質の濃度自体は変化しないものとする。)
求核種の濃度が半分になることによっては、この反応の速度は影響を受けないが、溶媒がエタノールから、エタノールとジエチルエーテルの混合物になることにより、溶媒の極性が下がる。SN1 反応はもともと極性溶媒中で、プロトン性、非プロトン性であるかにあまり関係なく、加速効果を受けていたのであるから、この効果が減少する。従って、何倍という表現はできないが、反応は全体として遅くなる。
(b) の問題は、エタノールと同程度の極性を持ち、求核性を持たない点のみがエタノールとは異なる溶媒があったとして、これで溶媒を希釈したとする。その場合は反応における求核種の濃度が半分になるが、全体の反応自体は同じ速さで進行することになる。
(解答例)
(a) アセチリドアニオンのアルキル化が適用できる。ただし、アセチリドアニオンは(その共役酸であるアセチレン誘導体が弱酸であるから)強塩基である。したがって、第2級のハロゲン化アルキルに対しては脱離反応を優先して生じてしまうので、第1級のハロゲン化アルキルとの反応に限定される。(教科書 8.9 節参照。)
CH3Br + NaC≡CCH(CH3)2
(b) シアン化物イオンは非常によい求核種であるから、ハロゲン化アルキルとの反応でニトリルを合成することが可能である。
CH3CH2CH2CH2Br + NaCN
(c) ハロゲン化アルキルに対して、アルコラートを求核攻撃させることでエーテルを合成することができる。(Williamson のエーテル合成法。教科書 18.3節を参照)ただし、アルコラートは強塩基であるから、第2級、第3級のハロゲン化アルキルでは脱離反応が優先して生じてしまうから、第1級のハロゲン化アルキルが好ましい。(第2級のハロゲン化アルキルが基質になる場合も無いことはないが、第3級のハロゲン化アルキルは、Williamson のエーテル合成における基質として選択されることは無い。)
CH3Br + KO-t-Bu
(d) 中性のアンモニアが(負電荷を持たないが、孤立電子対を持つため)求核種として働きうる。この方法を利用したアルキルアミンの合成については、教科書 24章を参照のこと。ただし、生じるアルキルアミンが求核性を持っているから、目的とする1級アミンを優先して得たい場合には、大過剰のアンモニアを用いる必要がある。
CH3CH2CH2Br + :NH3
また、アミドイオン -NH2 も、強い塩基であると同時に強い求核性も持つ。従って、次の式でもよい。
CH3CH2CH2Br + NaNH2
ただし、この問題では一連の反応の中で求核置換が用いられればよいというのであれば、別解として、たとえば、
CH3CH2Br + -CN
に依ってえられる butanenitrile を LiAlH4 などを用いてヒドリド還元してもよい。また、Gabriel アミン合成(教科書 24章参照)のように、フタルイミドカリウムを求核種としてハロゲン化アルキルと反応させ、のちに加水分解する方法もある。
(e) Wittig 反応で用いられる試薬である(教科書 19.12節参照)。リンは、窒素の同族元素であり、孤立電子対を持っている。アミン類が中性分子でも求核性を持ったのと同じようにホスフィン類も中性分子であっても求核性を持つ。(周期表で下に位置するものほど求核性が上がる傾向を考えると、アミンより強い求核試薬であるとも考えられる。)
CH3Br + :PPh3
(f) 生成物が3級のハロゲン化アルキルであるから、求核種は Br- で、SN1 の反応機構で生じている。3級のアルコールを酸性条件下でプロトン化させることにより、中性の水が脱離できるようになる反応を利用する。
形式的には、 R3C-OH + HBr
(解答例)
(a) Cl- は、F- ほど脱離性能が悪いわけではないが、I- や TsO- は Cl- よりずっと脱離しやすい。
CH3OTs の方がより速く反応する。
(b) 酢酸イオン CH3CO2- は弱塩基なので、第1級、および第2級のいずれのハロゲン化アルキルに対しても SN2 反応が優先しておきる。しかし、第1級の方が炭素の周囲が立体的にすいているから、この炭素に対する求核攻撃を起こしやすいため、速い。
(c) アルコラート(アルコキシド)とシアン化物イオンでは、シアン化物イオンの方が良い求核種である。従って、シアン化物イオンによる反応の方が速い。
(d) SN2 反応は、非プロトン性の極性溶媒中で加速されるから、HMPA 中で、ベンゼン中よりずっと速い。
(解答例)
(反応式および生成物の構造式を自分で書いてみること。以下には生成物名のみを与える。)
(a) propaneamine
(b) 1-propene
(c) 1-iodopropane
(d) butanenitrile
(e) 1-pentyne
(f) propane
(b) では、立体的にかさ高い強塩基を用いているから、第1級のハロゲン化アルキルからでも脱離生成物を優先して与えている。
(c) Br- と比較して、I- は、より求核性が高く、また脱離性も高い。R-Br や R-Cl を求核置換反応(R-X → R-Nu)の基質として用いるとき、少量のヨウ化物イオンを加えてやることがある。このとき、系中でまず上のようなヨウ化物イオンによる置換反応によってヨウ化アルキルを生じると、これは臭化アルキルや塩化アルキルより反応性が高くなるから、R-X → R-Nu の反応をヨウ化物イオンが無いときよりも円滑に進行させることができる。のヨウ化アルキルが目的の置換反応生成物 R-Nu を与えるとき、ふたたびヨウ化物イオンが脱離して再生するから、ヨウ化物イオンは触媒である。
(f) は、Grignard 試薬を生じさせると、カルバニオンと同じように反応するから、酸性物質である水から H+ を引き抜いてアルカンを得る反応である。トータルとしてハロゲンを水素に還元する反応に相当する。また、水の代わりに重水 D2O を用いると、任意の位置に重水素同位体標識する反応として利用できる。
(解答例)
(a) 負電荷を持つ求核種の方が、中性のものより反応性が高い。従って、アミドイオン -NH2 の方が求核性が強い。
アミドイオンの共役酸(すなわちアンモニア)、アンモニアの共役酸(すなわちアンモニウムイオン)の酸性度を比較するとアンモニウムイオンの方が酸性である。これは、アミドイオンの方がアンモニアよりも強い塩基であると述べていることと等しい。より塩基性の強い求核種は、一般的により求核性が高い傾向がある。したがって、このこともアミドイオンの方が求核性が強い理由として説明に用いてよい。
(b) (a) と同じ理由により酢酸イオン CH3CO2- の方が求核性が強い。
(c) (a) と同じように考えてよいが、気をつけるべきこととして、BF3 はルイス酸であり、孤立電子対を持たないから求核性も塩基性も全く示さない分子種であることに注意する。F- の方が求核性が高い、というより F- のみが求核性を示す。
(d) リンの方が窒素より周期表で下の方に位置する。トリメチルホスフィン (CH3)3P: の方が求核性が高い。
(e) ヨウ素の方が塩素より周期表で下の方に位置する。プロトン性の極性溶媒中では I- の方が求核性が高い。
下(発展)でも述べたように、非プロトン性の極性溶媒中では「裸のアニオン」となるため、この順序は逆転し、Cl- の方が求核性が高くなることが知られている。
(f) 炭素と酸素では、周期表上、同一周期上で族が異なっており、教科書 369ページにまとめられたの一般的な傾向を示すルールからは判断できない。同ページのチャートを参照すること。(I-、CN-、HS- の3種が最強の求核種であるくらいは、覚えてしまうとよい。)
シアン化物イオン CN- の方がより求核的である。
(解答例)
アルコールのトシル化 : 反応物中のアルコール水酸基の酸素は、トシル化されたのちも残っている。すなわち、この置換基の変換は塩化トシル (CH3-C6H4-SO2Cl)の硫黄上での置換(-Cl が -OR)で起きている。すなわちキラル中心炭素は反応に関与しない位置であるため、その立体化学は変化しない。
トシルエステルのエタノールによる置換反応 : TsO- は優れた脱離基であるから、中性のアルコール(塩基性をほとんど持たない)が求核種として SN2 が進行する。孤立電子対を持つアルコール酸素が求核部位であり、生成物中のエーテル酸素(エチルオキシ基の酸素)は、エタノール由来のものである。キラル中心炭素上で SN2 が進行することに伴い Walden 反転が生じ、立体化学が逆転している。
アルコキシドと臭化エチルの反応 : ハロゲン化アルキルの炭素上で SN2 が進行する。従って、生成物中のエーテル酸素(エチルオキシ基の酸素)は、出発物質である 1-phenylpropan-2-ol のアルコール酸素がそのまま残っている。出発物質中のキラル中心炭素の立体化学は反応に関与しないからそのまま立体保持となる。臭化エチルは光学活性ではないから、この炭素上での立体反転は考えなくてよい。
(解答例)
(a) -O-t-Bu はかさ高い強塩基であるから、第2級のハロゲン化アルキルに対して求核攻撃よりも塩基としての反応が優先して起きる。そのため、E2 脱離を引き起こし、主生成物として 2-butene を与える。
(b) F- は脱離性能が非常に小さいため、求核置換反応は起こさない。また、脱離反応も、水酸化ナトリウム程度の塩基では起きない。
(c) ピリジン存在下、塩化チオニル(SOCl2)によってアルコール R-OH をハロゲン化アルキルに変換する反応は、R-O-SOCl というエステルを経由して、Cl- により SN2 反応により R-Cl を与える。第3級の基質は SN2 反応を起こさないから、ハロゲン化アルキルに転換可能なアルコールは第1級、および第2級に限られる。
(解答例)
(a) sec-butylamine << 2-chloro-2-methylpropane < (1-chloro-1-methylethyl)benzene
の順に反応性が高くなる。まず、アミノ基は脱離性をほとんど持たないから、sec-butylamine は反応しない。残りの2つは同じ脱離基を持つが、2-chloro-2-methylpropane より生じる単純な3級のカルボカチオンより、(1-chloro-1-methylethyl)benzene から生じる3級かつベンジル位のカルボカチオンの方が安定である。
(b) 2-methylpropan-2-ol << 2-chloro-2-methylpropane < 2-bromo-2-methylpropane
の順に反応性が高くなる。中性の水酸基はほとんど脱離性を持たないから、2-methylpropan-2-ol は反応しない。(酸性条件下、プロトン化を受けた (CH3)3C-OH2+ は高い反応性を示す。)
残りの2つは脱離基のみが異なるから、脱離性の高い臭化物でより反応性が高くなる。
(c) benzyl bromide < (1-bromoethyl)benzene < triphenylmethyl bromide
の順に反応性が高くなる。単純なベンジルカチオンは、第2級のカルボカチオンと同程度の安定性をもつ。
(解答例)
(a) 2-chloro-2-methylpropane < 2-chlorobutane < 1-chloropropane
の順に反応性が高くなる。第3級や第2級の炭素は立体的に込みあっているから、求核種による攻撃を受けにくいので、第3級 < 第2級 < 第1級の順。
(b) 2-bromo-3-methylbutane < 1-bromo-2,2-dimethylpropane < 1-bromo-2-methylpropane
の順に反応性が高くなる。第2級 < 第1級 の順。後者2つはともに第1級だが、臭素の結合炭素の隣の炭素上にあるメチル基の数が異なる分だけ、立体的な混み合いの度合いが異なると考えられる。
(c) methyl propyl ether << 1-bromopropane < n-propyl p-toluenesulfonate
の順に反応性が高くなる。いずれも第1級の共通のアルキル基に、異なる脱離基が結合している。中性のエーテルは、脱離性をほとんど示さない。問題 11.35 にも述べたアルコールの例と同様、酸性条件下でプロトン化を受けると反応することが可能となる。
トシラート(p-toluenesulfonate
)は、スルホン酸(強酸)の共役塩基であるからすぐれた脱離基である。
(解答例)
SN2 で進行するから、Walden 反転を伴い、いずれも (S)-体を与える。立体に注意した構造式を用いた反応式は、必ず各自で書いてみること。
(a) (S)-2-methyloctanenitrile
(b) (S)-1-methylheptyl acetate
(c) methyl (S)-1-methylheptyl sulfide
(解答例)
ラセミ化は、2-bromooctane に対し、DMSO 中で「裸のアニオン」として存在しているため、かなり求核性の高い Br- が求核種として、SN2 反応を起こすことに由来する。すなわち、求核種、脱離基ともに Br- であるから、Walden 反転により炭素上の立体化学が反転する以外は、出発物と生成物が同じである。すべての分子に等しく1回ずつこの反応がおきれば、生成物は完全に立体が反転することになるが、出発物と生成物はキラル中心炭素上の立体化学以外は同じであるから、反応に選択性がない。従って、DMSO 中の NaBr による処理は、SN2 反応を通じて反応基質のラセミ化を引き起こす。
(解答例)
通常どおり、Walden 反転を伴うSN2 が生じている。
Cahn-Ingold-Prelog 則に従うと、出発物では、優先順位の高いほうから -OTs > -CH2OCH3 > -CH3 > -H の順となるが、置換反応後では、-CH2OCH3 > -CN > -CH3 > -H の順となっているから、Walden 反転を伴う反応であるが、表記上は、(S)-体から (S)-体が生じている。
もし、SN1 の反応機構を考えるならラセミ化するはずである。(置換基の優先順位に由来するような表記上の問題とは別に、真の意味で)立体化学が保持されるためには、SNi のような特別な反応機構を考えるか、連続して SN2 2回の SN2 が生じていると考えられる( 問い 11.34 の「発展」を参照)。
(解答例)
求核攻撃を受けるハロゲン化アルキルについて、ハロゲンの結合した炭素の級数が少ないほうが良い。
cyclohexyloxide anion により iodomethane を求核攻撃する方法の方が優れている。逆に methyloxide anion により iodocyclohexane を求核攻撃させる方法では、E2 脱離による cyclohexene が副生成物として生じてしまうからである。
(解答例)
塩基性条件下、アルコールの水酸基からプロトンを失って生じる
Br-CH2CH2CH2CH2-O- が分子内 SN2 反応して、環状のエーテルを生じる。この分子内 SN2 反応では、
負電荷を持つ酸素が求核的に臭素の付け根の炭素(臭素による分極で、正の部分電荷を持つ炭素)を攻撃し、Br- が脱離する。
生成物は、THF (TetraHydroFuran) である。
分子内反応は、一般に分子間反応より速いとされている。これは分子間の反応では、基質間の衝突の際に正しい配向性で分子が接近する必要があるため、アレニウスの反応速度式のうち、前指数項(頻度因子)が相対的に小さいのに対し、分子内の反応では前指数項(頻度因子)が相対的に大きいからである。
これを理解するため、次のような例を考えてみよう。まず、2つのピンポン球を用意して、そえぞれ半球に色を塗ったとする。この色の塗った部分が反応性の位置で、ここに衝突が起きたときに反応が起きると考える。つまり、SN2 反応では、脱離基の反対側から球核種が接近して衝突したときのみ反応が生じるのと対応している。これら2つの球を空中で衝突させようとしてばらばらに投げても、なかなか正しい配向で当たらないのに対し、2つのピンポン球を細い紐で結びつけ、紐の中央を持って振ってやると(アメリカンクラッカーと呼ばれるおもちゃのように)(球からでている紐の位置にもよるが)簡単に2つの球の反応性の位置同士をぶつけることができる。
分子鎖が短かすぎると、生じる環状構造に結合角歪みが生じるし、長すぎると分子内反応であることに由来する加速効果は見られなくなる。従って、一般的に、5員環、6員環、7員環を生じる分子内反応は比較的速い。
有意な量のアルコラートを生成するために、原理的には、KOH (その共役塩基である水は、アルコールとほぼ同程度の pKa を持つ)程度以上の強さの塩基を用いることができる。ただし、塩基として KOH を用いると、-OH のアルコールからの水素引き抜き、分子内の求核置換による環状エーテルの形成、-OH による分子間求核置換による butane-1,4-diol の形成が競合する反応となる。条件によっては、分子内の求核攻撃が一番早いから、副反応はあまり考慮しなくてよい。
非プロトン性溶媒中で、NaH や NaNH2 を塩基として用いるような条件もよく用いられる。
また、基質の濃度が高いと基質間の反応が副生するから、分子内反応を意図する場合には基質濃度を下げるのが一般的である。(2分子反応はそれぞれの基質濃度の積に比例することを考えること。)
(解答例)
1つ目の可能性として、2-bromoethanol の2分子反応が考えられる。これは、2-bromoethanol が問い 11.41 のような分子内反応をするときに与える生成物は3員環であるから、結合角歪みが大きいため起こりにくいだろうという予測に基づくものである。しかしながら、2分子反応を十分に起こりやすくするために基質濃度を高くして反応させると、3分子以上の反応が生じる可能性がある。また、1,2-dibromoethane の1つの臭素のみを選択的に加水分解して 2-bromoethanol とする反応も難しい。
より現実的な2つ目の可能性として、1,2-dibromoethane の半量を加水分解して、butane-1,2-diol (慣用名 ethylene glycol)にし、これと残りの 1,2-dibromoethane とを反応させる方法である。
1,2-dibromoethane は第1級のハロゲン化アルキルであるから、NaOH により脱離反応に優先して加水分解を進行すると考えられる。生じた butane-1,2-diol は非プロトン性溶媒中で NaH を作用させると、完全にジアニオン-OCH2CH2O- となるから、この中に1,2-dibromoethane を少量ずつ加えると良い。(これは、ジアニオンに対し、1,2-dibromoethane が2分子反応して生じるような Br-CH2CH2-O-CH2CH2-O-CH2CH2-Br をなるべく避けたいからである。一度 Br-CH2CH2-O-CH2CH2-O- が生じると、分子内反応で速やかに 1,4-dioxane を生成する。)
(解答例)
SN2 反応は、一般的に置換をうける炭素の脱離基とは逆側の位置から攻撃を受けて進行する。第3級のハロゲン化アルキルでは、この部分が立体的に混み合っているために進行しない。特に、1-bromobicyclo[2.2.2]octane では環の構造をとることによって、この脱離基の反対方向が完全に遮蔽され、求核種がこの方向から接近することが不可能となっている。
SN1 反応は、脱離基がぬけてカルボカチオンを生じる過程が律速段階であるため、生成するカルボカチオンの安定性で反応の進行の可否や反応の速度を議論することができる。この 1-bromobicyclo[2.2.2]octane からの Br- の脱離によるカルボカチオンは、本来の第3級のカルボカチオンのような安定化効果を持たないため、生じない。
すなわち、橋頭位の炭素は、その周囲にある3つのアルキル基が固定されているため、カルボカチオンとなっても sp2 混成炭素に特有の平面構造をとることができない。つまり、このカルボカチオンは、空の p 軌道の代わりに空の sp3 混成軌道を持たざるを得ない。また、周囲のアルキル基の α 炭素上には、この空の軌道と同じ方向を向いた C-H 結合(や、π 結合の p 軌道、あるいは孤立電子対)を持たない。そのため、超共役(や共鳴効果)による安定化がない。
(解答例)
脱離によって生じる二重結合の周囲の4つの置換基が同一平面内に無い。すなわち、二重結合となる2つの炭素が sp2 混成となったときの残りの p 軌道同士が直交している。そのため π 結合を生成することができない。
一般的に、多環系の化合物において橋頭位を含む二重結合は(この理由により)生じないものとして整理してよい。
「E1 反応は、SN1 反応と共通の中間体としてカルボカチオンを生じる。上の問い 11.43 で解説したように、この基質はカルボカチオンを生じないので、E1 反応による脱離は示さない。また、E2 反応は、一般に、脱離基の α 位の炭素のうち、アンチ近平面をとれる水素に塩基が攻撃することによって生じる。この基質においては配座が完全に固定されており、アンチ近平面からの脱離は起きない。」という説明も考えられる。
とはいえ、遅いながらもシン配座水素からの脱離が生じる例も知られているから、1-bromobicyclo[2.2.2]octane が全く脱離反応をしない理由としては、完全な説明ではない。
(解答例)
以下にリンクで示した2つの配座について、Newman 投影式を書くこと。
E2脱離によりトランス体を与える 1-chloro-1,2-diphenylethane の3次元模型
E2脱離によりシス体を与える 1-chloro-1,2-diphenylethane の3次元模型
下の配座では、立体的に大きなフェニル基がゴーシュの位置にある。そのためにエネルギー的に不利であるから、この配座をとる分子の割合は少ない(配座解析については4章を思い出すこと。)
反応の速度を決めるもうひとつの因子は、遷移状態のエネルギー(活性化エネルギー)であるが、E2脱離における遷移状態の構造はかなり生成物の構造に近いため、安定な生成物を与える反応の遷移状態は、不安定な生成物を与える反応の遷移状態よりも安定である。このため、より安定な生成物を与える反応が速く進行する。生成物の構造は、トランス体の方がフェニル基同士の立体反発がなくすべての π が同一平面で共役の広がった構造をとることができるため、シス体より安定である。
以上の2つの理由により、この反応ではトランス体が優位に生成する。
(解答例)
共通のカルボカチオン中間体より、隣接の炭素上からプロトンが脱離することにより反応は進行し、より安定な、従ってより多置換のアルケンを生じる。
主生成物は、2,3-dimethylpent-2-ene (4置換アルケン)であり、
副生成物は、3,4-dimethylpent-2-ene (3置換アルケン)と、2-ethyl-3-methylbut-1-ene (2置換アルケン)である。
(解答例)
以下にリンクで示した配座について、Newman 投影式を書くこと。
(1R,2S)-1-methyl-2-phenylpropyl tosylate の3次元模型
上記配座より E2 脱離が進行すると (Z)-2-phenylbut-2-ene を生じる。
(解答例)
(2R,3R)-アルコール誘導体の配座は次のようになる。
(1R,2R)-1-methyl-2-phenylpropyl tosylate の3次元模型
この配座からの E2 脱離は (E)-体を与える。
これを、先に示した (2R,3S)-アルコール誘導体の配座
(1R,2S)-1-methyl-2-phenylpropyl tosylate の3次元模型
と比較すると明らかであるが、元のアルコールの3位(フェニル基付け根)の立体化学が逆転していることは、結合の方向を固定しておいて、フェニル基とメチル基を入れ替えたことと等価である。つまり、一般的に書くと、二重結合をつくることになる2つのキラル中心炭素の一方の立体化学を逆転させるということは、同じ遷移状態に対し、脱離基、水素以外の2つの置換基を入れ替えることと等価である。生成物中に残っている2つの置換基が入れ替わるのだから、生成物において、(E)- と (Z)- が入れ替わるものとして整理できる。
これを考え方を利用すると、ひとつずつについてNewman投影式を書かなくても、機械的な判断をすることが可能である。
(2R,3S)-アルコールからのトシラートは (Z)-体を与えた。だから、
(2R,3R)-アルコールからのトシラートは (E)-体を与える。
(2S,3R)-アルコールからのトシラートは (Z)-体を与える。
(2S,3S)-アルコールからのトシラートは (E)-体を与える。
(解答例)
シクロヘキサンのいす形配座では、隣接した炭素において2つの置換基がともにアキシアル位にあるときのみ、同一平面内アンチの位置関係となる。このためにはこの2つの置換基がトランスの位置関係になくてはならない。従って、シクロヘキサン環からの脱離では、脱離基である臭素に対しトランスの位置関係の水素がある場合には、これが優先して脱離する。
シス体からは、アキシアル−エカトリアルまたはエカトリアル−アキシアルの位置になるから、常にゴーシュの位置関係である。なお、トランス体は、他に大きな置換基がなければ、エカトリアル−エカトリアルの位置関係をとることもでき、エネルギー的にはその配座の方が安定であるが、一部でも環の反転によってE2脱離にとって好ましい配座を取ることが可能であれば、そこから脱離反応が進行する。
立体的に大きな tert-butyl 基のように(1,3-ジアキシアル相互作用が大きすぎるために)アキシアル位を取れないような置換基を持つ場合や、トランスデカリンのような場合にはシクロヘキサン環は反転をすることができない。
(解答例)
SN1 と E1 がともに生じる。
E1 反応により 1,4-dimethylcyclohexene を生じる。中間体のカルボカチオンから二重結合が生じる位置によって、生成物の4位の立体化学は逆のものとなるが、この位置選択性を示すような要因はないから、生成物はラセミ混合物となる。
SN1 反応では、1,4-dimethylcyclohexanol を生じる。中間体のカルボカチオンに対して水分子が結合する際、面選択性を持たないから、生成物はシス−トランスの立体異性体の混合物となる。マクマリーの解答書においては、この立体異性体は、ジアステレオマーとして捉えることもできると記しているが、キラル中心を持つわけではない。
(解答例)
SN2の反応性は、高いものから順に、
1-bromobutasne 〜 1-bromo-2-methylpropane > 2-bromobutane >> 2-bromo-2-methylpropane
となる。すなわち、第1級 > 第2級 > 第3級の順。
1-bromobutasne と 1-bromo-2-methylpropane はともに第1級であるが、後者の方が分岐がある分、臭素の結合した炭素に対してやや立体的に混み合っているとみなせるから、
1-bromobutasne > 1-bromo-2-methylpropane である。
(解答例)
ルイス構造(点電子構造)では、シアン化物イオンは :N:::C: で表され、形式的に、炭素、窒素ともに孤立電子対を持つためにどちらの原子も求核性を持つ。窒素の形式電荷は±0、炭素の形式電荷は−1である。(実験事実からも示されるように)実際の求核攻撃は、ほとんどが炭素原子から生じると考えてよい。
(発展)(解答例)
(かならず自分で構造式を書いてみること。)
カルボキシ基と塩素では、塩素の方が Cahn-Ingold-Prelog の順位則で優先度が高いから、(Z)-体で、2つのカルボキシがトランスの位置関係にある。また、脱離する塩素とプロトンもトランスの位置関係にある。これが、逆の幾何配置のものとくらべて50倍速く進行することが問題文より与えられている。
従って、ビニル型ハロゲン化物においても、これまで見ていたハロゲン化アルキルからの脱離と同様、アンチの位置関係にあるハロゲンと水素での脱離が優先的に起きる。
(解答例)
問題 11.38 と同様に、キラル中心炭素上で、求核種と脱離基が同一であるような求核置換反応が生じると、SN2 で反応が進行しても、ラセミ化が起きる。
アルコールは酸性条件下、水酸基がプロトン化をうけて R-OH2+を生じ、より脱離しやすくなる。この反応では、水が求核試薬である。水の求核力はさほど強いとは言えないまでも、求核種が溶媒そのものであるということは、非常に高濃度の基質濃度(水の場合は、55.5 mol/L )に相当するので、求核攻撃にとって有利である。
一方、脱離基がプロトン化をうけて R-OH2+を生じた後、求核性が低い水からの攻撃を受ける前に脱離基(中性の水分子)を放出してカルボカチオンを生じるような、SN1 の機構も同様に考えられる。水という特に極性の高い溶媒中で、カルボカチオンはかなりの安定化を受けることが予想されるからである。また、求核種が溶媒を兼ねているとはいえ、その溶媒がプロトン性であることは、求核種の反応性を下げる働きがあるから、求核攻撃はさほど速くないかも知れない。
与えられた条件のみからでは、必ずしも、この反応が SN1 なのか SN2 なのかを断ずることができなくても良い(と思う)。とはいえ、自分なりに理由を考えてどちらが起こっているだろうか予想を立てることができること、その説明が(断定にいたらなくても)合理的であること、が大事である。
(解答例)
3-methylhexan-3-ol は第3級のアルコールであるから、酸性条件下、SN1 で水酸基が置換を受ける。脱離基は、プロトン化した水酸基 R-OH2+ からの中性の水、そして求核種は Br- である。
SN1 で反応が進行するということは、3配位平面型のカルボカチオンを中間体として経由するから、求核種はその面の両側から攻撃し、生成物はラセミ混合物となる。
(解答例)
ヒントに記したような理由により、-H、-D のそれぞれが脱離するチャンスは同じはずである。しかしながら、問題文にも与えられているように、-H の脱離の方が、-D の脱離よりも7倍優先して起きるため、生成物中に -D の方が残るものの方が7倍多く生成する。
一般的に、C-H 結合より C-D 結合の方が切れにくいので、この結合の切断が律速段階に含まれる場合、反応全体の速度が変化したり、また、生成物の分布が変わってくる場合がある。このような効果を「同位体効果」という。
(解答例)
脱離が起きるための条件として、臭素と水素が同一平面内にあることが必要である。これは、脱離によりπ結合をつくっていくことになるのが、同一方向を向いた(従って同一平面内の) sp3 混成軌道であるためである。
ここで、構造的に可能であれば、アンチ配座で同一平面内での方が優先されるのだが、この分子のように脱離により二重結合が生じるはずの結合について、単結合でありながら自由回転ができず、配座が固定されている場合では、シンの同一平面内から( syn-periplanar, シン近平面内)でも脱離も生じる。(速度は遅い。)
(解答例)
問い 11.57 と同様に、この化合物において、配座は固定されている。
(a) の異性体(トランス体)は、脱離すべき塩素と水素の組み合わせが、いずれもシン近平面内にあるが、(b) の異性体(シス体)は、塩素と水素の組み合わせが同一平面内には無い。(アンチ近平面も、シン近平面もとることができない。)
このため、(a) は脱離が可能であるが、(b) からの脱離は起きにくい。
(解答例)
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