(解答例)
この位置に、解説および解答例が表示されます。この文章が見えていれば、OKです。ノートの自分の解答の正誤を判断し、丸付けをします。間違っていたところは、単に×にするのではなく、正しい答えや、その答えを導きだすための考え方などをノートに(赤などで)書いておきましょう。
(解答例)
原子番号は、原子核中の陽子の数に等しい。(原子核のみがもつ正電荷数に等しい。従って、中性の原子においては、周囲の電子の数と原子番号が等しい。)
質量数は、原子核中の陽子の数と中性子の数の和である。(中性子は電荷をもたないため、中性子の数が変化しても、原子核のもつ正電荷数に影響を与えない。つまり、周囲の電子の数に影響を与えない。)
中性の原子において、周囲の電子の数が異なっていれば、その元素の化学的性質が異なり、別の元素として扱われる。一方で、中性の原子において周囲の電子の数が同じであれば、同じ元素(の同位体)として扱われる。
酸素は原子番号が8なので、酸素のどの同位体であっても、原子核中の陽子の数は、等しく8である。
16O については、陽子の数+中性子の数=16であるから、中性子の数は8である。
17O については、陽子の数+中性子の数=17であるから、中性子の数は9である。
18O については、陽子の数+中性子の数=18であるから、中性子の数は10である。
(解答例)
a. ホウ素(第13族)→3個
全電子数=原子番号=5個。電子配置:(1s)2(2s)2(2p)1
b. 窒素(第15族)→5個
全電子数=原子番号=7個。電子配置:(1s)2(2s)2(2p)3
c. 酸素(第16族)→6個
全電子数=原子番号=8個。電子配置:(1s)2(2s)2(2p)4
d. フッ素(第17族)→7個
全電子数=原子番号=9個。電子配置:(1s)2(2s)2(2p)5
(解答例)
たとえば水酸化カリウム(KOH)、塩化カリウム(KCl)という式からわかるように、カリウムは1価の陽イオンになりやすい。このことからも第1族(アルカリ金属)であることが類推できる。
カリウム(K)は、第1族、第4周期に位置する。原子番号は19である。
周期表上の位置から、カリウムの電子配置は(K殻)2(L殻)8(M殻)8(N殻)1 の形(← このような表記法は、正式な電子配置であると認められないし、テストで書いても×にします。)であることが分かる。省略せずに全電子の配置を書くと、次の通り。
(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)1
M殻のd軌道に電子が入り始めるのは、4sが埋まってからで、周期表上の遷移金属(第4周期の3族(3B族)からとなることに注意する。
従って、価電子数は1、不対電子が占める軌道は 4s である。
(解答例)
b. いずれもがハロゲン(第17族)であることを覚えていれば、価電子殻の s と p 軌道に7つの電子が入っていることがすぐに判るはずである。
a. 塩素(第3周期、第17族)は、(K殻)2(L殻)8(M殻)7 (← このような表記法は、…以下略…)の形であるので、これをもとに電子配置を書くと、次の通り。
(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)5
臭素(第4周期、第17族)は、(K殻)2(L殻)8(M殻)18(N殻)7の形なので、電子配置は、
(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)2(3d)10(4p)5
ヨウ素(第5周期、第17族)は、(K殻)2(L殻)8(M殻)18(N殻)18(O殻)7の形なので、電子配置は、
(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)2(3d)10(4p)6(5s)2(4d)10(5p)5
(解答例)
a. 炭素(6C):(1s)2(2s)2(2p)2
ケイ素(12Si):(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)2
ともに価電子数が4で等しい。同じ族なので、周期表では同じ縦の列にならんでいる。
b.フッ素(9F):(1s)2(2s)2(2p)5
臭素(35Br):(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)2(3d)10(4p)5
ともに価電子数が7で等しい。同じ族なので、周期表では同じ縦の列にならんでいる。(ハロゲン)
c. 酸素(8O):(1s)2(2s)2(2p)4
硫黄(16S):(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)4
ともに価電子数が6で等しい。同じ族なので、周期表では同じ縦の列にならんでいる。
d. マグネシウム(12Mg):(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2
カルシウム(20Ca)(1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)2
ともに価電子数が2で等しい。同じ族なので、周期表では同じ縦の列にならんでいる。
(発展)
各族の元素の別名:
第1族:アルカリ金属(ただし、1H は除く)
第2族:アルカリ土類金属(狭義には、4Be、12Mg は除く)
第13族:土類金属(5B は除く)、または、ホウ素族
第14族:炭素族
第15族:プニクトゲン、または、窒素族
第16族:カルコゲン、または、酸素族
第17族:ハロゲン
第18族:希ガス(稀ガス)、または、貴ガス
(解答例)
結合の両端にある原子について、教科書p13、表1.3より電気陰性度を読み取って、その差をとる。
a)
H-CH3
EN(H) = 2.1
EN(C) = 2.5
∴ ΔEN = 0.4
Cl-CH3
EN(Cl) = 3.0
EN(C) = 2.5
∴ ΔEN = 0.5
従って、後者、Cl-CH3 の結合の方がより大きく分極しており、大きな極性をもつ。
b)
H-OH (ΔEN = 1.4), H-H (ΔEN = 0)
従って、H-OH の結合の方が大きく分極しており、大きな極性をもつ。
c)
H-Cl (ΔEN = 0.9), H-F (ΔEN = 1.9)
従って、H-F の結合の方が大きく分極しており、大きな極性をもつ。
d)
Cl-Cl (ΔEN = 0), Cl-C3 (ΔEN = 0.5)
従って、Cl-C3 の結合の方が大きく分極しており、大きな極性をもつ。
(解答例)
教科書 p13、表1.3より、電気陰性度の差をもとめると、
Na-I (ΔEN = 1.6)
Li-Br (ΔEN = 1.8)
Cl-Cl (ΔEN = 0)
K-Cl (ΔEN = 2.2)
a) KCl, b) Cl2
(解答例)
炭素、フッ素の各原子が(部分的に)正、負に帯電している状態を考えて、その電荷間の距離は結合距離と等しいという前提で考える。
「フッ素が完全に負に帯電している場合には」
C-F 結合が、完全に、イオンの対 C+ と F- になっている場合には
Q の値として、電子1個分の電荷(電気素量)を使うから、
「その双極子モーメントは…」
μ = Q × r の式に、
Q = 4.80 × 10-10 esu
r = 1.39 Å(= 1.39 × 10-10 m = 1.39 × 10-8 cm)
を代入して、単位を換算すると、教科書の式の通りで、6.67 D になる。
この計算であるが、次にように計算してもよい。
電子1個分の電荷(電気素量)が 1Å離れた位置にあるとき、その双極子モーメントの大きさは、4.80 D であった。今、電荷間の距離が 1.39 Åなので、(μ = Q × r の式より、電荷の大きさが同じなら、双極子モーメントは距離に比例するから、)
4.80 × 1.39/1 = 6.67
(実測の)「双極子モーメントの値が 1.60 D であることを用いると、」
電荷間の距離 r が固定であるとするなら、μ = Q × r で計算されるべき μ の値が 6.67 D より小さい値になっているのは、電荷 Q が、電子1個分の電荷より小さかったためである。
従って、この分極の割合を求めるための計算式は、
1.60 / 6.67 = 0.24
部分電荷の大きさは、電子1個分の電荷(電気素量)の 0.24 倍である。
(あまり、こういう書き方はしないが、無理やり書くなら、「 C0.24+− F0.24-」という意味。)
(発展)
双極子モーメントについて、教科書を読んでもわかりにくいという声がありました。以下、大事なところをもういちど箇条書きにしておきます。
・双極子モーメントは、実測により決定できる量です。
・双極子モーメント μ は、μ = Q × r の式で表すことができます。Q は電荷の大きさ、r は電荷間の距離です。
・r = 1 Å、Q が電子と同じ電荷(電気素量)のとき、μ = 4.8 D です。
従って、ある物質(分子)の双極子モーメント μ の値がわかっているとき
・電荷の大きさ Q がわかれば、電荷間の距離 r を計算することができます。
・電荷間の距離 r がわかれば、電荷の大きさ Q を計算することができます。
実際には、電荷間の距離 r は、分子の構造(結合距離など)と関連付ける場合が多いです。電荷の大きさは、電子1個単位ではなく(電気素量の整数倍の値ではなく)、その 20 % だとか、50 % だとかの半端な値になる場合が多いです。
原子核や分子の骨格に沿って広がっている電子は、点として存在するのではなく、ある確率分布で、雲のように非局在化して存在しているためです。
(解答例)
極性の向きを示す方法として、矢印を書く方法もあるが、ここでは、δ+、δ- の記号を用いて書くことが指示されている。
結合の両端にある原子2つについて考え、電気陰性度の小さい元素に δ+ を、電気陰性度のより大きい元素に δ- を付加すればよい。
この問いでは、電気陰性度の大小の相対的な関係が問われている。表 1.3 に戻って具体的な数値を確認しなくても、この問いに挙げられた組の元素では、電気陰性度の大小関係が判断できなくてはならない。
a) HOδ--Hδ+
b) Fδ--Brδ+
c) H3Cδ+-Nδ-H2
d) H3Cδ+-Clδ-
e) HOδ--Brδ+
f) H3Cδ--Mgδ+Br
g) Iδ+-Clδ-
h) H2Nδ+-Oδ-H
およそ、F > O > N 〜 Cl > C > H の順。
b), g) は、周期表の縦の位置関係で理解すること。
(発展)
この問いでは、価標(結合を表す棒」で、着目する結合を示しているが、分子全体としての分極の方向(極性の向き)を考えなくてはいけない場合は、
1)静電ポテンシャルマップのように、別の方法で求めた分子内の電子密度のマップを参考にするか、または、
2)もっと近似的な方法になるが、分子内に存在するすべての結合に対して、電気陰性度の差より分極の方向を矢印として書き、これらをすべてベクトルとして足し合わせてやる、
などしなければならない。
なお、f) のように、金属がアルキル基の炭素と結合した有機化合物は、「有機金属化合物」と呼ばれる。その中でも、R-MgBr の構造をもつ物質は、グリニヤル(Grignard)試薬として知られている。
(解答例)
a) 極性をもつ化合物は、静電ポテンシャル図において、正の部分(青)と、負の部分(赤)が生じている。従って、LiH と HF である。
b) 原子の大きさは、原子核の周囲の電子雲の大きさで決まる(教科書 p4 〜 p5 参照)。そのため、Hδ+ と Hδ- では、より周囲の電子が多い Hδ- の方が大きくなる傾向にある。
LiH では、赤い部分が水素である。Hδ- に帯電しているので、中性の水素原子(H-H における水素原子)より大きくなっている。HF では、青い部分が水素である。Hδ+ に帯電しているので、中性の水素原子より小さくなっている。
c) 色から判断できる。水素の位置がもっとも青くなっているので、HF である。
静電ポテンシャル図において、どの位置にどの元素があるのかが示されていない場合、元素の電気陰性度の大小から、分極の方向を予め予測してから静電ポテンシャル図を見る必要がある。
(解答例)
a) 水酸化物イオン HO- の電子構造を示すと次図のようになる。
酸素は、水素との共有結合でひとつ、周囲の3対の孤立電子対で6つ、合計7つの価電子をもっている。一方、酸素原子は、価電子数6で中性となるから、HO-においては、酸素原子の価電子がひとつ多く、酸素原子が形式電荷「-1」をもっている。
b) 水酸化物イオンの静電ポテンシャル図(教科書 p17) を確認すると、水素は黄緑、酸素は赤となっていて、酸素側の方がより陰性となっていることがわかる。分子全体で「-1」価のイオンであるため、分子内では相対的に正に分極しているものの水素上に青色は見当たらない。
c) オキソニウムイオン H3O+ の電子構造を示すと次図のようになる。
酸素は、水素との共有結合で3つ、周囲の孤立電子対で2つ、合計5つの価電子をもっている。酸素原子は、価電子数5で中性となることから、オキソニウムイオンにおいては、酸素原子の価電子がひとつ少なく、酸素原子が形式電荷「+1」をもっている。
d) 静電ポテンシャル図をみると、分子全体で「+1」の電荷をもつイオンであることから、全体的に青く見えるが、その中でも相対的に青色の薄い部分を探すと、酸素上でやや青が薄いことがわかる。これは、イオン全体とすると(正の電荷をもち)電子が不足しているながら、電気陰性度の高い酸素側に電荷が偏っていることを示す。
ここで整理しておくべきことは、次の点である。
また、イオンがもつ電荷は、表面電荷の絶対値として現れる。従って、中性の水における酸素より、オキソニウムイオンの酸素の方が、より陽性(静電ポテンシャルマップで青色)になっている。したがって、オキソニウムイオン(の酸素原子)が、正電荷をもつイオンとしてはたらくこともあり得ることを示唆する。
しかしながら、分子内の分極は、分子内での相対的な電気陰性度の大小で決まっている。すなわち、「酸素原子が、+1 の形式電荷をもつからといって、オキソニウムイオンを構成するほかの原子(水素)よりも正に分極しているわけではない。」形式電荷は、分子全体の電荷をケクレ構造式の規則に従って構造を書く際、どの原子に電荷をわりあてるかを「形式的に」決めるだけであることを示す。
もちろん、孤立電子対は価電子2つとして数えるのに対し、共有結合は価電子1つとして数えるのであるから、上のように1から電子構造を書き下さなくても、次図のように中性の水分子から、オキソニウムイオンや水酸化物イオンが生じることを考えても、形式電荷がどこに描かれるべきかは判断できるだろう。
図で、青い H は、水素原子(プロトン)(または、水素イオン、H+) を表す。
(発展)
ある原子がもともと最外殻にもつ電子の数(価電子数、第1族の場合は1、第2族の場合は2、第3族の場合は3…)が、結合の数や孤立電子対の数を決めた。たとえば、酸素は、価電子数が6で、2本の結合と2対の孤立電子対をもった。
ところが、オキソニウムイオン H3O+ の酸素のように、アンモニア窒素と同じように3本の結合と1対の孤立電子対をもつためには、酸素の価電子の数が、窒素と同じ5である必要がある。すなわち、中性の酸素原子から電子をひとつ奪うことでこの電子状態を達成できる。そのとき、酸素の「形式電荷は+1である。」
すなわち、結合の本数と孤立電子対の数のパターンだけから、形式電荷を見出すことが可能である。
実際の H3O+ というイオンの場合、この酸素だけではなく結合した3つの水素の上にも部分的に正電荷が広がっているのであるが、形式電荷を考える場合は、「水素の形式電荷はゼロで、酸素の形式電荷が+1である」と数える。つまり、形式電荷とは、分子の骨格の中にある電子を、かならずいずれかの原子に帰属させてしまう考え方で、Lewis 構造(点電子構造)に対応したものとなる。
(解答例)
a) 酸素原子が、3本の共有結合と1対の電子対をもっており、形式電荷「+1」をもつ。
b) 炭素原子が、3本の共有結合と1対の電子対をもっており、形式電荷「-1」をもつ。
c) 窒素原子が、4本の共有結合をもっており、形式電荷「+1」をもつ。
d) 窒素原子が、4本の共有結合をもっており、形式電荷「+1」をもつ。さらに、ホウ素原子が4本の共有結合をもっており、形式電荷「-1」をもつ。
b) で、炭素が3本の結合をもっていても、孤立電子がない場合には、電気的に中性なホウ素原子と同じ電子配置であり、形式電荷は「+1」であることに注意するべし。
(解答例)
ヒントにも挙げた、それぞれの元素の結合の数と孤立電子対の数に注意して組み立てる。用いることができるパーツを次図に挙げておく。
ただし、2本以上の結合は単結合2本であったり、二重結合1本であったりといった変更は許されるものとする。
これらを用い、各元素上の形式電荷の和が分子やイオン全体の価数と一致するように描いた点電子構造(Lewis 構造)を以下に示す。
a)
b)
c)
d)
e)
f)
ただし、ナトリウムと酸素は、電気陰性度の差が非常に大きいため、共有結合というより、ほぼ完全なイオン結合であると解釈することができる。そうすると次図になる。
g)
h)
(発展)
d) では、 C+ をもつ構造(カルボカチオン)を描かざるを得ない。カルボカチオンの C+ は、価電子が3つしかないため、どうしてもオクテットを満たすことはできない。これは、一部のホウ素の化合物(BH3)や、一部のアルミの化合物(AlH3)などと同じである。
なお、カルボカチオンは、オクテットを満たしていないため、孤立電子対をもつ物質(たとえば、水の酸素、塩化物イオン、アミンの窒素、…)とすぐに反応してしまう傾向がある。反応性が高すぎるので、水や油などの身の回りの様々な物質とは異なり、特殊な条件下でないと長時間安定に存在できないと考えてもよいだろう。
しかしながら、今後、いろいろな有機化学反応について学習する中で、反応の途中に(過渡的に)経由する構造としてカルボカチオンを考える場合がでてくることもあり、位置づけとして重要である。
(解答例)
a) C,C,O の3つの原子の並びを考えると、(原子が3つしかないため、枝分かれを考えることはできないので)酸素が端にあるか中央にあるかの2通りが考えられる。
または、propane CH3CH2CH3 について、1級または2級の炭素を酸素に置換して得られる構造を考えてもよい。
ethanol (ethyl alcohol), methoxymethane (dimethyl ether)
b) C,C,C,O の4つの原子の並びを考える。枝分かれがない場合は、酸素が端にあるか内側にあるかの2通りが考えられる。枝分かれがある場合、酸素は結合を2本しかもたないので、枝分かれの位置には酸素が来ないことを考えると1通りしかかけない。
または、C4H10 の骨格異性体 butane と 2-methylpropane について、1級または2級の炭素を酸素に置換して得られる構造を考えてもよい。
propan-2-ol (isopropyl alcohol), propan-1-ol (propyl alcohol), methoxyethane (ethyl methyl ether)
※ 命名は、置換命名法のあとに、カッコの中に基官能命名法をもちいたものを示した。
(解答例)
a) 形式電荷をもたない窒素は、価電子数5なので、3本の結合と1対の孤立電子対をもつ。
ethanamine (ethyl amine)
b) 形式電荷をもたない窒素は、価電子数5なので、3本の結合と1対の孤立電子対をもつ。
N-methylmethanamine (dimethyl amine)
c) 形式電荷をもたない酸素は、価電子数6なので、2本の結合と2対の孤立電子対をもつ。
ethanol (ethyl alcohol)
d) 形式電荷をもたない酸素は、価電子数6なので、2本の結合と2対の孤立電子対をもつ。
methoxymethane (dimethyl ether)
e) 形式電荷をもたない塩素は、価電子数7なので、1本の結合と3対の孤立電子対をもつ。
chloroethane (ethyl chloride)
f) 形式電荷をもたない酸素は、価電子数6なので、2本の結合と2対の孤立電子対をもつ。また、形式電荷をもたない窒素は、価電子数5なので、3本の結合と1対の孤立電子対をもつ。
(hydroxylamine)
※ 命名は、置換命名法のあとに、カッコの中に基官能命名法をもちいたものを示した。
(発展)
f) の hydroxylamine ヒドロキシルアミンは、「アンモニア」や「水」と同様、無機物の分類です。また、この名称は、「水酸基+アミン」として組み立てられた名称ではなく、「ヒドロキシルアミン」がひとつの完成された慣用名です。(そのため、水酸基に相当する(現在のルールで)正しい「ヒドロキシ」ではなく、古い言い方に相当する「ヒドロキシル」が使われています。)なぜ、NH3 をなぜアンモニアというのか悩まないのと同じように、H2NOH は、考慮の余地なく「ヒドロキシルアミン」であるとしか言い様のないところです。ネット上などで「ヒドロキシアミン」と書かれている場合がありますが(私の理解している限り)これは、誤りです。
(解答例)
教科書p22 の表 1.5 では、簡略構造の例として、枝分かれの部分に価標を用い、主鎖を記している行の上下に側鎖を書き込んでいるものがあるが、ここでは、1行にすべて書くものを正解例として示す。
a) CH3CH2CH2Cl
さらに、同じ繰り返し単位 -CH2- をカッコでくくり、次のように書くことも可能。
CH3(CH2)2Cl
図の右側(塩素側)から書き始めて、次のようにしても可。
ClCH2CH2CH3
b) 分子内にエステル結合をもっている。この部分を真面目に書くと
CH3C(=O)OCH2CH3
となる。これは、カッコ内の (=O) の構造が、左から2番目の炭素から結合しており、さらに、同じ炭素(左から2番目の炭素)に、カッコに続いて示されている -OCH2CH3 が結合していることを示す。
ただし、エステル結合は、次のいずれの方法で書くことも可能。
CH3CO2CH2CH3
CH3COOCH2CH3
また、同じ分子について、図の右側(エチルエステル側)から簡略構造を書くと、次のようにも書ける。
CH3CH2OC(=O)CH3
または、CH3CH2OCOCH3
エステル結合が、その左右を入れ替えることができない非対称な構造であるから、次のように書いてはいけない。
× CH3CH2CO2CH3
× CH3CH2COOCH3
(これらの書き方では、酢酸エチルの代わりに、プロパン酸メチルの構造を表してしまう。)
c) CH3CH2C(=O)N(CH3)CH2CH3
図の右側(N上のエチル基側)から書き始めると、
CH3CH2N(CH3)C(=O)CH2CH3
d) CH3CH2CN
図の右側(シアノ基側)から書き始める場合は、
NCCH2CH3
とする。
R-C≡N (ニトリル)は、(やや特殊であるが、その異性体として R-N+≡C:- (イソニトリル)の構造があるので、)「CN」をひとつにまとめて CN-CH2CH3 と書くことができない。
※ 教科書では例示がないが、直鎖のアルキル基を省略して、メチル基であれば -Me、エチル基であれば -Et といった表記、または -C2H5、また、プロピル基であれば -Pr、または -n-C3H7 となる場合もある。直鎖でなくとも、慣用名をもつ分岐アルキル基の場合は、その慣用名に応じた略号を用いることが可能である。
物質名は、次の通り。
a) 1-chloropropane (propyl chloride)
b) ethyl ethanoate
エタン酸(ethanoic acid)の慣用名である「酢酸(acetic acid)」を用いる場合は、
ethyl acetate
稀に、基官能命名法を用いて、ethanoic acid ethyl ester (または、acetic acid ethyl ester)とする場合もある。
c) N-ethyl-N-methylpropanamide
d) propanenitrile
(解答例)
a) 1-chloropropane の塩素。
b) ethyl acetate および N-ethyl-N-methylpropanamide のすべての酸素原子(3箇所)
c) N-ethyl-N-methylpropanamide および propanenitrile のすべての窒素原子(2箇所)
d) すべての水素、および炭素原子
(解答例)
骨格構造式のルールに則った書き方で示しておく。炭素の位置に(第2級であれば)-CH2- などと書き込むのは、可。ただし、炭素の元素記号「C」を書き込んでおいて、その炭素上に結合した水素を省略するのは不可。(たとえば第2級の炭素の位置を -C- とのみ書くのは不可。a) の例で言うなら、C-NH-C-C-C ではダメ、ということです。そこまで書いたら、中途半端にせず、Kekulé 構造として、一切の省略をせずに書いてください。)
※ 問題文の指示により、孤立電子対は、全て示さなければいけない。
※ Kekulé 構造に従い、C-H 結合まで省略せず、すべて書くのが本来の問題の意図かもしれないですね。
a)
N-methylpropanamine (methyl propyl amine)
b)
2-chloropropane (isopropyl chloride)
c)
2-bromo-2-methylpropane (tert-butyl bromide)
d)
2,2,6-trimethylheptane
※ a) 〜 c) の命名のカッコの中は、基官能命名法に従ったものです。
(解答例)
下、発展の項に続き、He2+ という分子イオンについて考える。そのMOダイアグラムは、ヘリウム原子が分子を作ることのできる距離まで近づいたとき、2つの 1s 軌道から 1σ と 1σ* 軌道をつくるところまでは同じである。しかしながら、今度は、全部で4つの電子ではなく、3つの電子が入っている状態を考えることになる。従って、次図のようになる。
ここで、ばらばらの2つの原子でいる場合(ただし、一方は2つの電子をもち、電気的に中性な単原子分子、もう一方は、He+ という陽イオンとなる。このときの電子配置を赤の矢印で示す)のエネルギーと、分子を作る距離に原子があり、分子軌道をつくっている場合の電子配置(青矢印の電子配置)のエネルギーとを比較すると、分子イオンをつくることにより(1σ軌道に入ることで)安定化できる電子が2つあるのに対し、1σ* に入って不安定化する電子は1つしかないから、トータルでは安定となることが期待される。(ただし、水素分子 H2 で生じているような電子配置に比べると、安定化の総和は半分であるということになるが。)
そのため、He2+ という分子イオンは、安定に存在することができると考えられる。
(発展)
電気的に中性なヘリウム原子は、1s に2つの電子をもつ。そのため、まず、He2 という(電気的に中性の)ヘリウム2原子分子を考えると、そのMOダイアグラムは、次のようになる。
この図において、赤の矢印で示された4つの電子は、それぞれヘリウム原子の 1s 軌道に入っている。すなわち、2つのばらばらの原子として存在しているときの電子配置を表す。
また、この 1s 軌道は、2つの原子が、分子をつくることのできるような距離まで近づくと、相互作用して、1σ と 1σ* 軌道をつくる。このようにして生じた分子軌道に、計4つの電子をいれてやると、上図、青の矢印で示したような電子配置となる。(原子において、構成原理に従い、低いエネルギーの原子軌道から順に2つずつ電子が配置された。同じように、分子においても、低いエネルギーの分子軌道から順に2つずつ電子が配置される。)
ここで、ばらばらの2つの原子でいる場合(赤矢印の電子配置である場合)のエネルギーと、分子を作る距離に原子があり、分子軌道をつくっている場合の電子配置(青矢印の電子配置)のエネルギーとを比較すると、1σ軌道に入ることで安定化した分のエネルギーが、1σ* に入って不安定化することにより、完全に打ち消されてしまい、トータルとして正味の得が全くない状態であることがわかる。
そのため、He2 という2原子分子は、単原子分子 He が2つある状況と比べて、特に安定化されない。これにより、He2 という2原子分子は安定に存在できない。
(解答例)
a) p 軌道が横から重なり、π 軌道となっていく。隣り合う2つの p 軌道が、位相が逆(波動関数の符号に対応した青と緑が対の色となっている)の関係であり、反結合性の軌道を与える。従って、π*
b) p 軌道の伸びた方向から s 軌道と重なっている。この軌道の重なりは、2つの原子核を結ぶ線の回りに円筒型の対称性をもつので、σ 軌道となる。2つの軌道の位相の関係は、2つの原子核の間に節面(波動関数で絶対値が0となるようなところ、軌道の模式図においては、青色から緑色に切り替わる境界となる面)ができてしまう関係であることから、反結合性の軌道を与える。従って、σ*
c) 2つの p 軌道が、軌道が延びた方向から重なっている。この軌道の重なりは、2つの原子核を結ぶ線の回りに円筒型の対称性をもつので、σ 軌道となる。2つの軌道は、異なる色で重なっていこうとしており、2つの原子核の間に節面(波動関数で絶対値が0となるようなところ、軌道の模式図においては、青色から緑色に切り替わる境界となる面)ができてしまう関係であることから、反結合性の軌道を与える。従って、σ*
d) p 軌道の伸びた方向から s 軌道と重なっている。この軌道の重なりは、2つの原子核を結ぶ線の回りに円筒型の対称性をもつので、σ 軌道となる。2つの軌道の位相の関係は、2つの原子核の間には節面(波動関数で絶対値が0となるようなところ、軌道の模式図においては、青色から緑色に切り替わる境界となる面)が生じない関係であることから、結合性の軌道を与える。従って、σ
(解答例)
3つある炭素原子は、いずれも4本の σ 結合をもっている。従って、sp3 混成の状態である。
2本ある炭素−炭素結合は、それぞれの炭素原子の sp3 - sp3 の重なりによって形成される。
8本ある炭素−水素結合は、炭素原子の sp3 と、水素原子の 1s 軌道の重なりによって形成される。
(発展)
VSEPR(原子価殻電子対反発)理論
(「σ 結合数 + 孤立電子対の数」が分子の対称性を決める)は、有機分子のみならず、無機化合物などの構造を予測するのにも用いられている。(図は、 http://www.uwplatt.edu/~hamiltoj/chem114/ より引用)
(解答例)
1)
中央の炭素は、3本の σ 結合(2本の C-H 結合、1本の C-O 結合)をもつ。さらに、1本の π 結合(C-O 結合)をもつ。従って、反発に関わる電子対の数は、( σ 結合と孤立電子対なので)3である。よって、 sp2 混成で、結合角は、120度。
2)
中央の炭素は、4本の σ 結合をもち、sp3 混成である。結合角はおよそ 110 度。
3)
ホルミル基(-CHO)の炭素は、3本の σ 結合( C-H 結合、C-C 結合、および C-O 結合)をもつ。さらに、1本の π 結合(C-O 結合)をもつ。従って、反発に関わる電子対の数は、( σ 結合と孤立電子対なので)3で、 sp2 混成で、結合角は、120度。
メチル基(-CH3)の炭素は、4本の σ 結合をもち、sp3 混成である。結合角はおよそ 110 度。
4)
シアノ基(-C≡N)の炭素は、2本の σ 結合( C-H 結合、C-N 結合)と、2本の π 結合(C-N 間に2本)をもつ。炭素原子は、sp 混成で、結合角は、180度。
(発展)
Lewis 構造について。
酸素、窒素、ハロゲンなど、原子上の孤立電子対を明記する必要がある。
この教科書では、下記左側のように、共有結合は、価標で表しているが、教科書によっては、下記右側のように、共有結合もすべて電子の対として記すことを要求している場合もある。
(解答例)
互いに反発しあうものを挙げる。
H2O:2本の σ 結合と2組の孤立電子対。
H3O+:3本の σ 結合と1組の孤立電子対。
CH4:4本の σ 結合
孤立電子対の方が、σ 結合よりも反発が大きいから、水の H-O-H の結合角は、メタンの H-C-H の結合角より小さくなる。
同様に、H3O+ の H-O-H の結合角は、メタンの H-C-H の結合角より小さくなるが、孤立電子対が1組しかないから、水の H-O-H の結合角よりは大きくなると予想される。
また、H3O+ の H-O-H の結合角は、同じ電子配置であるアンモニア NH3 の H-N-H や、メチルアニオン CH3- の H-C-H とほぼ同じ値であると予想される。
(解説)
現在の有機化学の学習段階においては、(混成状態から導かれる結合角として、)180度、120度、およそ110度の間の区別がつけられればよい。
やや高度な学習として、この問いのように「一般論として」孤立電子対が σ 結合よりも大きな反発をもつことを知っており、そのことが結合角にどのような影響を与えるかを理解していると、なお良い。
個々の化合物で、どのような結合角をもつのか、といった、(一般論ではなく、ある物質に特化した)数値を覚える必要性は低い。
(解答例)
この静電ポテンシャル図では、電子密度の高い(負に帯電している)原子上では赤に、逆に電子密度の低い(正に帯電している)原子上では青に、それぞれ着色されて表示されている。
図をみると、水素原子の存在する位置で最も青色が濃くなっている。これは、窒素と水素の電気陰性度の違いを反映しており、(全体として1価の負電荷を帯びていて、電子密度が全体的に低いのであるが、その中でも)電気陰性度が相対的に小さい水素側から、電気陰性度の相対的に大きい窒素側に電子が引き寄せられていることを示す。
形式電荷は、窒素上に「+1」を割り当てるのではあるが、実際に電子密度が下がっているのは、この窒素だけではなく、分子全体である。そして、電気陰性度の大小に応じて分子内での分極が生じている。そのため、最も小さい電子密度を持つのは(形式電荷 +1 をもつ窒素ではなく、電気陰性度の小さい原子である)水素原子である。
(解答例)
メタン、アンモニア、水は、ともに中心の原子(炭素、窒素、酸素)が、sp3 混成をとっており、孤立電子対と σ 結合が正四面体となるような構造をもつ。
上図では、孤立電子対を、破線の楕円、および桃色のタマで表している。
メタンは、中心の炭素から正四面体の対称性で、4本の C-H 結合をもつ。
教科書 p13 の電気陰性度の数値(ENH=2.1, ENC=2.5)より、水素側がわずかに δ+ になるような分極をもつため、静電ポテンシャル図において、正四面体の頂点に相当するところで、わずかに電子密度が低い(やや緑色から青みがかる感じになっている)ことがわかる。しかし、この4本の結合の分極は打ち消されており(=ベクトルの和としてゼロになる)、分子全体としては電荷の偏りはない。この3つの中で、最も小さな極性をもっている。
類似の構造として、四塩化炭素 CCl4 (静電ポテンシャル図は、教科書 p48)や、アンモニウムイオン(静電ポテンシャル図は、教科書 p43)などであり、各結合は電気陰性度の差に由来して分極を持っているものの、分子全体としては、対称性の関係から打ち消されており、電荷の偏りがない。
アンモニア、および水の静電ポテンシャルマップで赤い位置は、孤立電子対のある部分である。また、アンモニアの N-H 結合および水の O-H 結合も、電気陰性度の差に由来して、Nδ--Hδ+、Oδ--Hδ+ のように分極している。アンモニアおよび水では、この分極は、分子の対称性から打ち消されたりはしない。静電ポテンシャル図を見ると、アンモニアの水素より、水の水素のほうが青が濃く表現されていることがわかる。これは、電気陰性度の差が、N-H より O-H でより大きいため、水素上の正の部分電荷が、水においてより大きくなっていることを示していると考えられる。このことから、アンモニアより、水の方が大きな極性をもつ分子であると考えられる。
(解答例)
3本の σ 結合と、1対の孤立電子対の間に反発があるから、正四面体型の構造となる。H-N-H の結合角は、およそ110度である。
(解答例)
第3周期の塩素より、第4周期の臭素の方が原子サイズが大きい。そのため、結合長は、Br2 の方が Cl2 よりも長く、結合の強さも、Br2 の方が Cl2 よりも弱い。
データを引用しておく。
Cl2:結合長 198 pm, 結合解離エネルギー 243 kJ/mol
Br2:結合長 228 pm, 結合解離エネルギー 193 kJ/mol
出展 wikipedia 「第17族元素」
同様に考えて、
結合の長さは、短いものから長くなる順に
CH3-F < CH3-Cl < CH3-Br
結合の強さは、強いものから弱くなる順に
CH3-F > CH3-Cl > CH3-Br
であると予測される。
(発展)
短い結合の方が強い結合であるのは、「原子核−共有電子−原子核」という結合において、原子核の電荷が同じ場合でも、原子核と共有電子の平均的距離が短いほうが、より大きな静電引力をもつからだと理解できるだろう。(←その静電引力に逆らって電子を無限遠の距離まで引き離すのに必要な仕事(エネルギー)が、はじめに近い位置にあった場合の方が、より大きくなる。)
更には、内殻による遮蔽効果を考えた「有効核電荷」も考慮に入れる説明になるべきだろう。(詳細は、ここでは省略)
ただし、ここでは現象の傾向をきちんと押さえておくことが重要。単純に、より強いバネにより、2つの原子核がより近くに引き寄せられている、というイメージでもよい。
(解答例)
より長い結合は、大きな元素が関係した方、より強い結合は、小さな元素が関係した方。
1) C-I 結合の方が長く、C-Cl 結合の方が強い。
2) C-Cl 結合の方が長く、C-C 結合の方が強い。
3) H-Cl 結合の方が長く、H-H 結合の方が強い。
(解答例)
軌道間の重なりの効率が高いのは、σ 結合の方だと考えられる。
(発展)
原子軌道より(結合性の)分子軌道の方が安定になるのは、
1つの原子核の正電荷に束縛されている電子を無限遠まで引き離す仕事(エネルギー)が、その原子軌道のエネルギーであり、
2つの原子核の正電荷の両方から束縛されている電子を無限遠まで引き離す仕事(エネルギー)が、結合性の分子軌道のエネルギーである
ことから理解できる。ここで、結合性 σ 結合の電子は、2つの原子核のちょうど間にいるのに対し、結合性 π 結合の電子は、その σ 結合の上下にいる。原子核との距離を考えると、σ 結合の電子の方が、両方の原子核とから近く、従って、両原子核からの束縛も強い。よってより安定である。
(解答例)
sp2-sp2 の重なりで生じる C-C σ 結合の結合長(典型例として、H2C=CH2 の 133 pm )の方が、 sp3-sp3 の重なりで生じる C-C σ 結合の結合長(典型例として、H3C-CH3 の 154 pm )よりも短く、よって、強い。
より短い結合でより強くなるのは、共有結合の電子対が、原子核により強く束縛されるためである。
発展に示した s 性の割合で議論するならば、より s 性の高い sp2 混成軌道の方が、s 性の低い sp3 混成軌道よりも短い結合長の結合を生成する。
(発展)
s 性の割合を議論に用いる場合がある。
sp3 混成軌道は、25 % の s 性をもち、
sp2 混成軌道は、33 % の s 性をもち、
sp 混成軌道は、50 % の s 性をもつ。
s 軌道の方が、p 軌道よりも原子核に近い位置にある軌道であるので、混成軌道間で比較した場合も、sp3 → sp2 → sp と s 性が上がるに従って、軌道がより原子核に近いことがわかる。そのため、分子軌道を形成するのに使用する混成軌道が、sp3 → sp2 → sp と s 性が上がるに従って、結合距離も短くなる傾向がある。
(解答例)
赤で示したのが sp3 混成をもつ原子、青で示したのが sp2 混成をもつ原子、緑で示したのが sp 混成をもつ原子である。
a) 7-methyloct-5-en-2-yne
b) vitamin C
caffeine
カフェイン中、水色で示した窒素は、3本の σ 結合と孤立電子対をもつため、ここまでの学習内容に沿って考えると、sp3 混成をしていると考えて当然である。しかしながら、実際には、これらの窒素は、sp2 混成をとり、残った p 軌道に孤立電子対を入れた構造をとる。これは、これらの窒素に隣接して sp2 混成の原子があるためである。これにより、窒素の p 軌道が単独で存在するのではなく、隣接した原子上の p 軌道と π 結合性の相互作用をして分子軌道を形成するためである。これは、カフェインの3次元モデルを見てみることで、該当する窒素が、平面3配位をとることからも確認できる。
ビタミンC の分子の3次元模型
カフェイン の分子の3次元模型
(解答例)
a) 形式電荷 +1 をもつ窒素は、価電子数4で、電気的に中性な炭素と同じである。中央の窒素上には、4本の σ 結合(N-CH3 結合×2、N-H 結合×2)があり、正四面体型の構造をもつ。よって、C-N-C の結合角は、およそ 110度である。
b) ethanamine の1位(アミノ基の結合位置)の炭素は、4本の σ結合(C-CH3 結合×1、C-H 結合×2、C-NH2 結合×1)をもち、正四面体型の構造をもつ。よって、C-C-N の結合角は、およそ 110度である。
c) N-methylmethanamine (dimethyl amine) の H-C-N の結合角について訊かれている。窒素上のメチル基炭素(2つあるが、どちらも同じである)は、4本の σ 結合(C-H 結合×3、C-N 結合×1)をもつので、正四面体型の構造をもつ。よって、H-C-N の結合角は、およそ 110度である。
d) methoxymethane (dimethyl ether) の H-C-O の結合角について訊かれている。酸素上のメチル基炭素(2つあるが、どちらも同じである)は、4本の σ 結合(C-H 結合×3、C-O 結合×1)をもつので、正四面体型の構造をもつ。よって、H-C-O の結合角は、およそ 110度である。
(解答例)
a) Be の 2sp 混成軌道と、水素の 1s 軌道。
ベリリウム Be は、価電子を2個しか持たないので、2本の共有結合を形成してもオクテットを満たさない。直線型分子、BeH2 の構造には、Be 上に空の p 軌道が2つある。孤立電子対はもたないので、反発しあうのは2本の σ 結合のみである。
b) B の 2sp2 混成軌道と、水素の 1s 軌道。
ホウ素 B は、価電子を3個しか持たないので、3本の共有結合を形成してもオクテットを満たさない。平面3配位(正三角形型)分子である BH3 の構造には、空の p 軌道が1つあり、3本の σ 結合が反発し合っている。
c) 炭素の 2sp3 混成軌道と、塩素の 3sp3 混成軌道。
炭素は4本の σ 結合をもっており、正四面体型をとる。また、塩素も、σ 結合1本の他に、3対の孤立電子対をもっている。
d) O=C=O の直線構造をもつ。このうち、C-O σ 結合は、炭素の 2sp 混成軌道と、酸素の 2sp2 混成軌道。また、C-O π 結合は、炭素の 2p 軌道および酸素の 2p 軌道。
酸素は、σ 結合、π 結合の他に、2対の孤立電子対をもつ。炭素は、2本の σ 結合と2本の π 結合をもつので、(三重結合ではないが)sp 混成で、直線型であることに注意すること。
e)
H-C 結合:水素の 1s 軌道と炭素の 2sp2 混成軌道。
C=O 結合:σ 結合は、炭素の 2sp2 混成軌道と酸素の 2sp2 混成軌道。また、π 結合は、炭素の 2p 軌道および酸素の 2p 軌道。
C-O 結合:炭素の 2sp2 混成軌道と酸素の 2sp3 混成軌道。
O-H 結合:酸素の 2sp3 混成軌道と水素の1s 軌道。
f) エチン H-C≡C-H と同じ電子配置をもつものと考えるなら、エチンの炭素原子は sp 混成軌道をもつ。
(発展)
窒素分子 N2 や 酸素分子 O2 の分子軌道と電子配置の詳細については、無機化学などで学習する。窒素分子 N2 や 酸素分子 O2 の分子軌道を考える際、2s と 2p を混成させずに分子軌道を形成させて書くのが普通である。
2つの窒素原子が z 軸上にあるものとする。2つの原子の 2s 軌道からは σ と σ* ができる。また、2つの原子の 2pz 軌道からは、(軌道の伸びる方向からの重ね合わせなので)同様に σ と σ* ができる。2つの原子の 2px 軌道と 2py 軌道からは、π と π* が2つずつできる。
窒素の場合だと、これらの分子軌道のうち、2s 軌道に由来する σ と σ*、および、2p 軌道に由来する結合性の3つの軌道(2pz 軌道に由来する σ、2px 軌道と 2py 軌道に由来する2つの π )に、2つの原子の計10個の価電子が入っている。そのため、結合性軌道に入った電子の数が8、反結合性の軌道(2s 軌道に由来する σ*)に入った電子の数が2なので、(正味6個の電子による共有結合と同じと考えて)結合次数が3であるという。すなわち、窒素分子は、2つの窒素間が三重結合をもつと考えてよい。
(解答例)
アンモニア NH3 は、3本の N-H σ 結合と、1組の孤立電子対をもつから、分子全体としては正四面体型の対称性をもつものの、電荷の分布は、正四面体型の対称ではない。静電ポテンシャル図において、孤立電子対のある辺りが濃い赤になっており、水素は、より電気陰性度の高い窒素に結合しているため、相対的に正に帯電しているので、青が濃くなっている。(三角錐の対称性となっており、分子は双極子モーメントをもつ。)
アンモニウムイオンは、4本の N-H σ 結合をもち、メタンと同じで、正四面体型の構造をもち、電荷の分布も正四面体型の対称性を示す。(分子は、結合の分極が互いに打ち消され、分子全体としては双極子モーメントをもたない。)
分子全体として正の1価に帯電しているため、全体として中性分子よりも正側(青側)に偏っている。形式電荷は、窒素上に +1 があるものの、結合の分極は、H(δ+)−N(δ-)であるから、相対的には窒素側ではなく、4つの水素側でより青色が濃い。
イメージ図
アンモニウムイオンでは、全体が正に帯電している分、上図において全体的に下方に描かれるが、水素−窒素の上下関係(電気陰性度によってきまっている)は、入れ替わらない。
(解答例)
原子間の電気陰性度の差に由来する結合の分極を赤で示した。また、分子全体としては、この各矢印のベクトル和になるので、その和がゼロにならないものについては、ベクトル和を青の矢印で示した。(ただし、矢印の長さは、正確ではないです。)
a) 双極子モーメントがゼロである。
6本の C-H 結合における分極が、分子の対称性の関係から互いに打ち消しあうため。発展の項に書いた扱いを参照すると、2つのメチル基 -CH3 ごとに、3本の C-H 結合に由来する分極の和をとってやると、これが左右で打ち消しあう関係になっていることがわかると思う。
b)
4つの原子がすべて同一平面内にある構造であるが、結合の分極は打ち消されない。
c)
C-H 結合、C-Cl 結合の長さの違いを除けば正四面体型の構造であるが、分極は打ち消されない。
d)
窒素が3本の σ 結合以外に孤立電子対ももつため、平面3配位ではなく、三角錐型の分子である。孤立電子対も含めて考えるならば正四面体型と言ってもよい。上の構造図では、(あまり一般的ではない書き方であるが)孤立電子対も価標で示している。
e) 双極子モーメントがゼロである。
6つの原子がすべて同一平面内にある構造である。左右2本ずつの C-H 結合による分極が、互いに打ち消しあうので、分子全体とすると分極がない。
f)
e の構造から、1本の C-H 結合が C-Br 結合になったもの。e と同様に、6つの原子がすべて同一平面内にある構造であるが、分極が打ち消されない。
g) 双極子モーメントがゼロである。
ベリリウムが直線型2配位となるから、2本の Be-Cl 結合に由来する分極が互いに打ち消しあう。
h) 双極子モーメントがゼロである。
平面3配位、正三角形型の分子となる。3本の B-F 結合に由来する分極が互いに打ち消しあう。
(発展)
いま、平面3配位の化合物(たとえば、CH3+)、および、正四面体型4配位の化合物(たとえば、CCl4)があったとする。中心原子に結合しているものがすべて同じであるとするならば、対称性の関係から、分子の電荷の偏りはなく、分子全体としての双極子は持っていないことは容易に理解できるであろう。
次に、平面3配位の化合物を、CAB2、正四面体4配位の化合物を、CAB3 としよう。そして、それぞれの結合に対し、C-A の方向、および C-B の方向に、次図のような分極が生じているものとする。
ここで、AとBが実は同じ元素であったと考えると、赤の矢印と青の矢印は向きは(結合の伸びている方向に沿っていて)異なるものの、同じ長さであることになる。このとき、AとBが実は同じ元素であった場合には対称性の関係より、分子全体としては電荷の偏りがないのであるから、赤の矢印と青の矢印のベクトルの総和は、ゼロでなければならない。つまり、上図において、青の矢印のベクトルの和は、赤の矢印と向きが逆で長さの同じベクトルを与える。
(もちろん、たとえば左の3配位の場合は、次図のような作図によってでも、全く同じ内容を説明することができる。)
(解答例)
NH3 の共役酸は、NH4+ である。
Cl- の共役酸は、HCl である。
HO- の共役酸は、H2O である。
H2O の共役酸は、H3O+ である。
NH3 の共役塩基は、NH2- である。
HBr の共役塩基は、Br- である。
HNO3 の共役塩基は、NO3- である。
H2O の共役塩基は、HO- である。
(解答例)
酸性度指数 pKa は、小さい値をもつほど強酸であることを示す。
(pKa が小さいということは、Ka が大きいことを示す。)
そのため、pKa が 5.2 の化合物 A と、pKa が 5.8 の化合物 B では、A の方が相対的に強い酸である。(pKa が 5 前後の化合物は、酢酸などのカルボン酸と同程度の強さの酸である。)
酸解離定数(酸性度定数)Ka は、大きな値をもつほど強酸である。
そのため、Ka が 3.4 × 10-3 の化合物 C と、Ka が 2.1 × 10-6 の化合物 D では、C の方が相対的に強い酸である。
ちなみに、Ka と pKa とを変換しておこう。
化合物 A の Ka は、1/105.2 = 6.3 × 10-6
化合物 B の Ka は、1/105.8 = 1.6 × 10-6
化合物 C の pKa は、-log10(3.4 × 10-3) = 2.5
化合物 D の pKa は、-log10(2.1 × 10-6) = 5.7
(解答例)
Ka = Keq × [H2O] より
Keq = Ka / [H2O]
よって、これに数値を代入する。
Keq = 4.53 × 10-6 ÷ 55.5
= 8.16 × 10-8
となる。
(解答例)
問題文より、酪酸は pKa が 4.82 であるので、
Ka = 1/104.82 = 1.51 × 10-5 である。
ビタミンCは、pKa が 4.17 であるから、酪酸と比較した場合、より pKa の小さなビタミンCの方が、相対的に強い酸であるといえる。
(解答例)
a) 2 HCl + Mg(OH)2 → MgCl2 + 2 H2O
b) HCl + KHCO3 → KCl + H2CO3
c) 2 HCl + CaCO3 → CaCl2 + H2CO3
ただし、b)、c) ともに、生じた炭酸 H2CO3 は、濃度が上がったとき
H2CO3 → H2O + CO2
の反応が進行する。
Brønsted-Lowry の定義を意識して、不要な陽イオンを式から除いて書くと、次式。
a) HCl + OH- → Cl- + H2O
b) HCl + HCO3- → Cl- + H2CO3
c) の反応は、次の2段階にわけて書くことができる。
HCl + CO32- → Cl- + HCO32-
HCl + HCO32- → Cl- + H2CO3
Brønsted-Lowry の酸塩基の定義に従えば、
a) の反応では、HCl 塩酸が酸、水酸化マグネシウムから解離した OH- が塩基としてはたらいている。
b) の反応では、HCl 塩酸が酸、炭酸水素イオン HCO3- が塩基としてはたらいている。
c) の反応では、第1段階では、炭酸イオン CO32- が塩基として働き、その共役酸である炭酸水素イオン HCO3- を与える。また、第2段階では、この炭酸水素イオン HCO3- が塩基としてはたらいている。
(解答例)
a,c は、pH が 7 より大きい水溶液であるから、塩基性。
b は、pH が 7 より小さい水溶液であるから、酸性。
(解答例)
a) 酢酸 CH3CO2H の pKa が 4.8、ギ酸 HCO2H の pKa が 3.8 と、ギ酸の方が相対的に強酸である。これは、酢酸とギ酸では、ギ酸の方がより多く解離して、共役塩基を生じていることを示す。
つまり、ギ酸の共役塩基の方が、H+ を受け取りにくい。
(相対的に強い酸の共役塩基の方が、相対的に弱い塩基である。)
従って、CH3CO2- の方が、HCO2- よりも強い塩基である。
b) 水とアンモニアでは、pKa を比較すると、水の方が相対的に強い酸であることがわかる。これは、水とアンモニアでは、水の方がより多く解離して、共役塩基を生じやすいことを示す。
つまり、水の共役塩基の方が、H+ を受け取りにくい。
(相対的に強い酸の共役塩基の方が、相対的に弱い塩基である。)
従って、NH2- の方が、HO- よりも強い塩基である。
c) オキソニウムイオン H3O+ と、プロトン化メタノール CH3OH2+ を比較すると、プロトン化メタノールの方が相対的に強い酸であることがわかる。これは、オキソニウムイオンとプロトン化メタノールでは、プロトン化メタノールの方がより多く解離して、共役塩基を生じやすいことを示す。
つまり、プロトン化メタノールの共役塩基の方が、H+ を受け取りにくい。
(相対的に強い酸の共役塩基の方が、相対的に弱い塩基である。)
従って、水 H2O の方が、メタノール CH3OH よりも強い塩基である。
いずれも、問題にしている2つの物質の組の中での相対的な酸の強弱のみが問題である。絶対的な酸の強弱は問題にする必要がない。実際、上記のように、3つの組について、すべて同じ文脈で答えを書くことができるが、a) の酢酸やギ酸は、いわゆる「弱酸」に分類されるもので、水溶液中で(濃度にもよるが)せいぜい数パーセント程度が酸解離して共役塩基を生じている。c) のオキソニウムイオンやプロトン化メタノールは、「強酸」である。(逆に、これらの共役塩基である水やメタノールは、塩基性としてはごく弱い。)b) では、水やアンモニアは、相手が強い塩基であればプロトンを与えて酸としてはたらく局面はあるものの、水溶液が酸性を示すことはなく、わざわざ「酸」として分類されることはほとんどない。
(解答例)
それぞれの共役酸、CH3NH3+、CH3NH2、CH3OH2+、CH3OH、CH3CO2H のpKa を調べて比較する。
順に、10.7、40、-2.5、15.5、4.76 であるから、これらを酸としての強さの順にならべる。
【注目している物質の共役酸を、酸の強さの順に示す】
CH3OH2+、
CH3CO2H、
CH3NH3+、
CH3OH、
CH3NH2
この順で、この酸の共役塩基を並べると、塩基としての強さは、弱い順になっている。
【注目している物質の塩基としての弱い順】
CH3OH、
CH3CO2-、
CH3NH2、
CH3O-、
CH3NH-
(解答例)
a) CH3OH + NH3 → CH3O- + NH4+
CH3OH が酸、CH3O- がその共役塩基
NH3 が塩基、NH4+ がその共役酸
CH3OH + HCl → CH3OH2+ + Cl-
CH3OH が塩基、CH3OH2+ がその共役酸
HCl が酸、Cl- がその共役塩基
b) NH3 + CH3O- → NH2- + CH3OH
NH3 が酸、NH2- がその共役塩基
CH3O- が塩基、CH3OH がその共役酸
NH3 + HBr → NH4+ + Br-
NH3 が塩基、NH4+ がその共役酸
HBr が酸、Br- がその共役塩基
(解答例)
ヒントに書いた解説にもとづいて考えると、
p54
メタノールと水酸化物イオンの反応
左辺における酸:メタノール(pKa = 15.5)
右辺における酸(左辺における塩基、水酸化物イオンの共役酸):水(pKa 〜 15)
よって、この反応では左右の酸の強弱に大きな差はなく、平衡がどちらか一方に傾くことがない。
メタノールとオキソニウムイオンの反応
左辺における酸:オキソニウムイオン(pKa < 0)
右辺における酸(左辺における塩基、メタノールの共役酸):プロトン化メタノール(pKa = -2.5)
この反応も、左右の酸の強弱に大きな差はなく、平衡がどちらか一方に傾くことがない。
酢酸と水酸化物イオンの反応
左辺における酸:酢酸(pKa = 4.76)
右辺における酸(左辺における塩基、水酸化物イオンの共役酸):水(pKa 〜 15)
この反応では、左辺の酸が強く、右辺の酸が弱い。従って、左辺の強酸が消費され、右辺の弱酸を生じる方向に平衡が傾く。
酢酸とオキソニウムイオンの反応
左辺における酸:オキソニウムイオン(pKa < 0)
右辺における酸(左辺における塩基、酢酸の共役酸):プロトン化酢酸(pKa = -6.1)
この反応では、右辺の酸が強く、左辺の酸が弱い。従って、右辺の強酸が消費され、左辺の弱酸を生じる方向に平衡が傾く。
メチルアミンと水酸化物イオンの反応
左辺における酸:メチルアミン(pKa = 40)
右辺における酸(左辺における塩基、水酸化物イオンの共役酸):水(pKa 〜 15)
この反応では、右辺の酸が強く、左辺の酸が弱い。従って、右辺の強酸が消費され、左辺の弱酸を生じる方向に平衡が傾く。
メチルアミンとオキソニウムイオンの反応
左辺における酸:オキソニウムイオン(pKa < 0)
右辺における酸(左辺における塩基、メチルアミンの共役酸):メチルアンモニウム(pKa = 10.7)
この反応では、左辺の酸が強く、右辺の酸が弱い。従って、左辺の強酸が消費され、右辺の弱酸を生じる方向に平衡が傾く。
(解答例)
a) エチンと水酸化物イオンの反応
HC≡CH + HO- ←→ HC≡C- + H2O
左辺における酸:エチン(pKa = 25)
右辺における酸(左辺における塩基、水酸化物イオンの共役酸):水(pKa = 15.7)
この反応では、右辺の酸が強く、左辺の酸が弱い。従って、右辺の強酸が消費され、左辺の弱酸を生じる方向に平衡が傾く。
b) エチンとアミドイオンの反応
エチンと水酸化物イオンの反応
HC≡CH + NH2- ←→ HC≡C- + NH3
左辺における酸:エチン(pKa = 25)
右辺における酸(左辺における塩基、アミドイオンの共役酸):アンモニア(pKa = 36)
この反応では、左辺の酸が強く、右辺の酸が弱い。従って、左辺の強酸が消費され、右辺の弱酸を生じる方向に平衡が傾く。
c) a, b の答えからもわかるように、水酸化物イオンはエチンから水素イオン(プロトン)を引き抜くことができない。一方、アミドイオンは、エチンから水素イオンを引き抜くことが十分に可能である。
ただし、エチンと比べて相対的により強い酸である水が共存すると、より強酸である水がアミドイオンに対し水素イオンを与える反応のみが進行してしまう。また、いったんアセチリドイオン(HC≡C-)が生じたとしても、これは水と反応してアセチレンと水酸化物イオンを与える方向に反応が進行する。結果として生じる水酸化物イオンはエチンから水素イオンを引き抜くことができない。
したがって、エチンとアミドイオンの反応は、水中では進行しない。(エチンより強い酸(= 水)が共存するとき、エチンを酸として反応させることはできない。)
(解答例)
a) HCl と H2O の組み合わせにおいて、相対的に強い酸である HCl が酸としてはたらく式を書くと、
HCl + H2O ←→ Cl- + H3O+
※ 相対的に弱い酸である水が酸としてはたらく式も書ける。(→ 発展2)
上式において、
反応物の酸:HCl , pKa = -7
生成物の酸:H3O+ , pKa = -1.7
従って、平衡定数は
Keq = 107 / 101.7 = 105.3 ≒ 2 × 105
(100.3 = 1.995… であるが、100.25 = 1.778…、100.35 = 2.238… であることを考えると、精度は1桁程度しかないと考えてよいだろう。したがって、2.0 × 105 ではなく、2 × 105とする。)
平衡定数が 1 よりも大きいから、平衡に達したあとの濃度は、生成物の方が出発物よりも高い。
b) CH3CO2H が酸としてはたらく式を書くと、
CH3CO2H + H2O ←→ CH3CO2- + H3O+
上式において、
反応物の酸:CH3CO2H , pKa = 4.8
生成物の酸:H3O+ , pKa = -1.7
従って、平衡定数は
Keq = 10-4.8 / 101.7 = 10-6.5 ≒ 3 × 10-7
平衡定数が 1 よりも小さいから、平衡に達したあとの濃度は、生成物の方よりも出発物の方が高い。酢酸は弱酸であり、濃度にもよるが水溶液中でせいぜい数 % が解離しているにすぎない。
c) H2O が酸としてはたらく式を書くと、
CH3NH2 + H2O ←→ CH3NH3+ + HO-
上式において、
反応物の酸:H2O , pKa = 15.7
生成物の酸:CH3NH3+ , pKa = 10.7
従って、平衡定数は
Keq = 10-15.7 / 10-10.7 = 10-5 ≒ 1 × 10-5
平衡定数が 1 よりも小さいから、平衡に達したあとの濃度は、生成物の方よりも出発物の方が高い。メチルアミンは弱塩基である。(メチルアミンの共役酸が pKa = 10.7 であるので、メチルアミンの pKb = 14 -10.7 = 3.3 であると表現することがある。)
d) CH3NH3+ が酸としてはたらく式を書くと、
CH3NH3+ + H2O ←→ CH3NH2 + H3O+
上式において、
反応物の酸:CH3NH3+ , pKa = 10.7
生成物の酸:H3O+ , pKa = -1.7
従って、平衡定数は
Keq = 10-10.7 / 101.7 = 10-12.4 ≒ 4 × 10-13
(発展1)
酸1(HA1) の解離平衡
HA1 ←→ H+ + A1-
酸解離平衡定数
Ka1 = | [ H+] | [ A1−] |
[ HA1 ] |
Ka2 = | [ H+] | [ A2−] |
[ HA2 ] |
Keq = | [ A1- ] | [ HA2 ] |
[ HA1 ] | [ A2- ] |
Keq = | [ A1- ] | [ HA2 ] | [ H+ ] |
[ HA1 ] | [ A2- ] | [ H+ ] |
= | [ H+ ] | [ A1- ] | [ HA2 ] | ||
[ HA1 ] | [ H+ ] | [ A2- ] |
= | Ka1 |
Ka2 |
(発展2)
HCl と H2O の反応で、相対的に強い酸である HCl ではなく、相対的に弱い酸である H2O が酸として働く式も書くことができる。
HCl + H2O ←→ H2Cl+ + OH-
上式において、
反応物の酸:H2O , pKa = 15.7
生成物の酸:H2Cl+ , pKa 値未詳。HCl の pKa 値 -7 より小さい値であるのは間違いないであろう。
便宜的に、生成物の酸の pKa を -7 として計算してみる。
平衡定数は
Keq = 10-15.7 / 107 = 10-22.7 ≒ 2 × 10-23
更に計算を進める。
平衡定数を書き下すと、
Keq = | [ H2Cl+ ] | [ OH- ] |
[ HCl] | [ H2O ] |
Keq = | [ H2Cl+ ] | (1.0 × 10-14) | = 2 × 10-23 |
(1.0 × 10-7) | (5.6 × 102) |
(解答例)
a) ハロゲン間での比較、すなわち、同族列の元素間の比較になる。大きさが非常に異なる原子を比較すると、その原子が負電荷を引き付けている度合いを決める際には、原子の大きさが電気陰性度より重要となる。たとえば、周期表の縦の列を下にいくに従って、原子は大きくなり、その電気陰性度は減少するが、塩基の安定性は増大するので、その共役酸の強さも増大する。
従って、酸の強さは、HCl < HBr
pKa で確認(教科書巻末付録、ページA-8)すると、HCl の pKa = -7、HBr の pKa = -9 で、上記に合致する。
b) 酸素と窒素では、同じ第2周期の元素なので、同じ周期の元素間での比較になる。原子の大きさが同じ程度ならば、最も強い酸は、電気陰性度がもっとも大きい原子に結合している水素をもっている。
より電気陰性度の高い酸素の方が共役塩基を安定化できる。従って、酸の強さは、CH3CH2CH2NH3+ < CH3CH2CH2OH2+
pKa で確認する。教科書巻末の表には、そのものは載っていないが、同族列で比較することができるので、たとえば、アルキル基 n-propyl 基が methyl 基になったもの同士の比較する。
プロトン化メチルアルコールの pKa = -2.5、プロトン化メチルアミンの pKa = 10.7(教科書 p58 にも値が載っている。)で、上記の順に合致する。
c) 酸素と窒素では、同じ第2周期の元素なので、同じ周期の元素間での比較になる。原子の大きさが同じ程度ならば、最も強い酸は、電気陰性度がもっとも大きい原子に結合している水素をもっている。
より電気陰性度の高い酸素の方が共役塩基を安定化できる。従って、酸の強さは、CH3CH2CH2NH2 < CH3CH2CH2OH
上と同様、同族列で比較すると、メタノールの pK = 15.5, メチルアミンの pKa = 40 で、上記の順に合致する。
d) 同族列で異なる周期の元素である酸素、硫黄で比較するから、より大きい原子で共役塩基が安定化され、より強い酸を与える。
従って、酸の強さは、CH3C(=O)OH < CH3C(=O)SH
(発展)
d) の一方で与えられている CH3C(=O)SH について。
化合物名:チオ酢酸、thioacetic acid
カルボン酸の酸素の一つを硫黄で置き換えたこの構造の化合物の一般名は、チオカルボン酸である。酸素を2つとも置き換えて CH3C(=S)SH とした場合は、ジチオカルボン酸。
命名上の詳細:
厳密には、CH3C(=O)SH も CH3C(=S)OH もどちらもチオ酢酸であるので、これを区別する場合は、酸性水素の結合している元素で区別する。
CH3C(=O)SH, thioacetic S-acid, S-チオ酢酸
CH3C(=S)OH, thioacetic O-acid, O-チオ酢酸
酢酸に対し、チオ酢酸のようなもの、すなわち、酸素を他の元素で置き換えたものを、「類型酸」といい、その置換の仕方により命名が決まる。
(外部ページ)主基の類型酸
(外部ページ)酸の類型誘導体の接頭辞と挿入辞
(解答例)
ハロゲン間での比較、すなわち、同族列の元素間の比較になる。大きさが非常に異なる原子を比較すると、その原子が負電荷を引き付けている度合いを決める際には、原子の大きさが電気陰性度より重要となる。たとえば、周期表の縦の列を下にいくに従って、原子は大きくなり、その電気陰性度は減少するが、塩基の安定性は増大する。(塩基性の強さ、反応しやすさは、イオンの安定性(反応しにくさ)の逆順)
従って、ハロゲン化物イオンを塩基性の強い順にならべると
F- > Cl- > Br- > I-
(解答例)
a) 電気陰性度が大きいのは、同族列間の比較なので、より周期の小さい(周期表上、上に位置する、原子半径の小さい)酸素。
b) 同族列間で比較するので、大きさが非常に異なる原子を比較すると、その原子が負電荷を引き付けている度合いを決める際には、原子の大きさが電気陰性度より重要となる。硫黄のほうが酸素よりも共役塩基をより安定化できるから、酸の強さは、H2O < H2S
これを pKa で確認すると、水の pKa = 15.7、硫化水素の pKa = 7.0
c) 上と同様に、酸の強さは、CH3OH < CH3SH
教科書の巻末(A-8)の表によると、エタノールの pKa = 16.0 に対し、エタンチオール pKa = 10.5 である。
また、べつの教科書の同様の表から、フェノールの pKa = 9.9 に対し、チオフェノールの pKa = 6.6、また、ベンジルアルコールの pKa = 15.4 に対し、ベンジルチオールの pKa = 9.4 などのデータもある。
(解答例)
a) 負電荷をもつ OH- の方が、中性の H2O より陽イオン H+ を受け取りやすい。従って、OH- の方が強い塩基である。
または、これらの分子種の共役酸は、それぞれ H2O と H3O+ である。pKa を見ても明らかなように、H3O+ の方が強い酸である。よって、その共役塩基 H2O の方が弱い塩基である。
b) 酸素と窒素のように同周期の元素間で比較するので、より電気陰性度の高い酸素の方が、酸性度が高くなり、また、共役酸も同様に酸性度が高くなる。そのため、酸素の方が、塩基性度が低くなる。よって、アンモニアの方が水よりも強塩基である。
c) 酢酸イオンは、共鳴構造が書け、負電荷の非局在化の効果のため、メトキシドイオンにくらべてより安定である。共役酸について考えるなら、酢酸(カルボン酸)は、メタノール(アルコール)よりも酸性度が高い。よって、メトキシドイオンの方が強塩基である。
d) 酸素と硫黄のように同族列の元素間で比較するので、より大きな硫黄で、酸性度が高くなり、また同様に共役酸も酸性度が高くなる。そのため、塩基性度が低くなる。従って、メトキシドイオンの方が強塩基である。
(解答例)
a) 2-methoxyethanol の共役塩基は CH3OCH2CH2O-、butan-1-olNo共役塩基は CH3CH2CH2CH2O- である。
酸素は、炭素よりも電気陰性度が高いので、 σ 結合を通して負電荷を引き寄せ、非局在化させる効果をもつ。(教科書の用語では、「電子求引性誘起効果 inductive electron withdrawal」、単に「誘起効果 inductive effect」(
I 効果)ともいう。)そのため、2-methoxyethanol の方が相対的に強い酸である。
【注意】酸素原子が、p軌道やπ結合に隣接して結合した場合には、共鳴効果(M 効果、または、R 効果)により電子供与性として働く場合がある。たとえば、ベンゼン環上の π 電子密度を比較すると、無置換のベンゼンよりも、メトキシ基をもつベンゼン(アニソール)の方が、高い。
b) 1.48(b) と共通。酸素と窒素では、同じ第2周期の元素なので、同じ周期の元素間での比較になる。原子の大きさが同じ程度ならば、電気陰性度の大きい原子に結合している水素の方が強い酸性を示す。
従って、プロトン化された propan-1-ol の方が相対的に強い酸である。
c) a) と同様に考える。酸素原子による誘起効果は、σ 結合を通し、間にある結合の数が増えると効果が減衰する。従って、3-methoxypropan-1-ol よりも、2-ethoxyethanol の方が相対的に強い酸である。
d) そもそも酸性を示す官能基が異なることに注意すること。1-hydroxypropan-2-one は、酸性を示す官能基は、水酸基であり、アルコールと同等の pKa をもつと期待される。一方、propanoic acid は、カルボン酸である。(-OH の部分的な構造をもつが、これは水酸基というより、カルボキシ基の一部である。)従って、propanoic acid の方が相対的に強い酸である。
(解答例)
これらのアルコールで、酸性水素は、水酸基の水素である。(電気陰性である酸素の直接結合しているから。)
塩素もフッ素も誘起効果により、共役塩基を安定化する効果をもつ。
誘起効果は、間にある σ 結合の数が増えるごとに減衰する。
σ 結合の数が同じであれば、より電気陰性度の大きな原子からの誘起効果が大きい。
従って、これらの化合物を酸性度の減少する順にならべると、
(もっとも酸性度が高い) 2-fluoropropan-1-ol > 2-chloropropan-1-ol > 3-chloropropan-1-ol > propan-1-ol
(解答例)
a) フッ素の方が電気陰性度が大きいため、誘起効果が大きい。そのため、2-bromopropanoic acid よりも 2-fluoropropanoic acid の方が強い酸である。これらの共役塩基では、2-bromopropanoate ion の方が、2-fluoropropanoate ion よりも強い塩基である。
b) 塩素による誘起効果は、間にある σ 結合が増えると減衰する。そのため、3-chlorobutanoic acid より、2-chlorobutanoic acid の方が強い酸である。これらの共役塩基では、3-chlorobutanoate ion の方が、2-chlorobutanoate ion よりも強い塩基である。
c) 3-bromopropanoic acid は、臭素による誘起効果のため、propanoic acid よりも強い酸である。これらの共役塩基では、3-bromopropanoate ion よりも、propanoate ion の方が強い塩基である。
d) カルボニル基の酸素(オキソ基)は、電気陰性度の高い酸素による誘起効果を示す。4-hydroxybutan-2-one の方が、1-hydroxybutan-2-one にくらべて酸性水素(水酸基の水素)とカルボニル基の位置が遠いため、相対的に弱い酸である。したがって、共役塩基では、(4-hydroxybutan-2-one の共役塩基である)3-oxobutyloxide ion の方が、(1-hydroxybutan-2-one の共役塩基である)2-oxobutyloxide ion よりも強い塩基である。
(解答例)
酸性水素が結合した電気陰性度の高い元素を比較するとき、
同じ周期の元素の場合、電気陰性度の高いものに結合した水素の方が強酸であるが、
異なる周期の元素の場合、電気陰性度の順とは逆になり、より大きな原子に結合した水素の方が強酸である。
一方、誘起効果については、原子のサイズは関係なく、電気陰性度の高い元素の方が強い効果をもつ。
(解答例)
それぞれの共役塩基について、共鳴式を書いてみると、
酢酸イオン, acetate ion
図のように、2つの酸素上に負電荷が非局在化した構造をもつ。
メタンスルホン酸イオン, methanesulfonate イオン
図のように、3つの酸素上に負電荷が非局在化した構造をもつ。
カルボン酸の共役塩基よりも、スルホン酸の共役塩基の方が、非局在化の程度が大きいため、スルホン酸の共役塩基の方が安定である。すなわち、カルボン酸よりもスルホン酸の方が酸として強い。
さらに、硫黄が第3周期なので5本以上の結合をもつ構造式を書いてよいこと、硫黄が炭素より電気陰性で原子サイズも大きいことから、硫黄上に負電荷をもつような次の共鳴極限構造の寄与を考える場合もある。
(解答例)
a) 炭酸イオン, carbonate ion
さらに、酸素の方が炭素より電気陰性度が高いので、寄与は小さいが次のような極限構造も書くことができる。
b) 硝酸イオン, nitrate ion
さらに、酸素の方が窒素より電気陰性度が高いので、寄与は小さいが次のような極限構造も書くことができる。(ただし、窒素上の形式電荷が 2+ となっている。このように一箇所に電荷が集中した構造は、通常は書かなくてよい。)
(解答例)
a) 最も pKa の小さな有機化合物を探す。従って、この表からは、プロトン化アセトニトリル。中性分子に限定して探せば、ベンゼンスルホン酸。
b) 最も pKa の大きな有機化合物を探す。従って、この表からは、エタン。(メタンの pKa = 60 に対し、エタンの表記「> 60」は「60 より大きい値」(であるが、どこまで大きいのかは実験的に決めることができない)と読むので。)
c) カルボキシ基 -CO2H をもっているものの中から探す。従って、この表では、トリフルオロ酢酸 CF3CO2H。酸性度が高い理由は、フッ素の誘起効果である。(電気陰性度の高いフッ素が、σ結合を通じて、共役塩基の負電荷を引き寄せ、安定化する。)
d) s 性の高い軌道の方が、原子核により近い位置に分布している。すなわち、負電荷が安定化され、強く束縛されている。従って、sp2 混成軌道の方が電気陰性度が高い。
(原子核に近い位置の方が、電子の負電荷と原子核の正電荷の間の静電引力が強い。そのため、これを無限遠まで引き離すのはより大きな仕事が必要となる。このようなことを、その軌道に入っている電子がより安定であるという。)
e) sp 混成の窒素(≡N: または =N+= または ≡N+− などの構造を考える)をもつ化合物の例: CH3CN など。
sp2 混成の窒素(=N(:)− または >N+= などの構造を考える)をもつ化合物の例: NO3- など。(1.57 b の構造式を参照)
sp3 混成の窒素(>N(:)− または、>N+< などの構造を考える)をもつ化合物の例: NH3, NH4+など。
f) 共役塩基の負電荷が、3つの酸素上で非局在化できる硝酸イオンの方が、2つの酸素上で非局在化する亜硝酸イオンよりも安定である。従って、硝酸の方が亜硝酸よりも強酸である。
(解答例)
下の(発展)で示した計算でも明らかなように、pH 5.5 の溶液中で、99 % 以上が酸型を取ることができるのは、pKa が 7.5 よりも大きな酸である。これより少し強い酸 pKa が 6.5 の酸は、約 9 % が解離して共役塩基を取る。残り 91 %は、酸型である。また、皿に酸の強さを上げ、pKa 5.5 にすると、半量 50 % が共役塩基、残りの半量 50 % が酸型を取る。pKa 4.5 の酸は、91 % が酸解離して共役塩基の構造となる。pKa 3.5 の酸では、99 % が酸解離する。
従って、酸型として安定に存在できる化合物は、酸の pKa が 7.5 よりも大きい弱酸である。
b, e, f
a) は、約 15 % が酸型として存在しているが、残り 85 % は共役塩基として存在する。
(発展)
酸 HA が解離平衡にあるものとする。
HA ←→ H+ + A-
酸解離平衡定数(酸性度定数) Ka は、次式。
Ka = | [ H+ ] | [ A- ] |
[ HA ] |
Ka = | [ H+ ] | [ A- ] | = [H+] |
[ HA ] |
Ka/[H+] = | [ A- ] | = 1 |
[ HA ] |
Ka/[H+] = | [ A- ] | = 1/10 |
[ HA ] |
Ka/[H+] = | [ A- ] | = 1/100 |
[ HA ] |
(解答例)
a) pKa = 4.5 のカルボン酸
pH が 2.5 より小さいときは、99 % 以上が酸型である。pH が 2.5 程度から徐々に酸解離平衡が共役塩基の側にずれ始める。pH 3.5 では共役塩基型の割合が約 9 % であり、pH 4.5 では半量が共役塩基になる。pH 4.5 以上では、共役塩基の方が多くなり、pH 5.5 では、共役塩基の割合が 91 % に達する。pH 6.5以上の塩基性溶液では、99 % 以上が共役塩基として存在する。
pH = 1: ほとんどが電気的中性である酸型
pH = 3: 大部分(76 %)が電気的中性である酸型、一部(24 %)は電荷をもつ共役塩基型。
pH = 5: 一部(24 %)が電気的中性である酸型、大部分(76 %)は電荷をもつ共役塩基型。
pH = 7, 10, 13: ほとんどが電荷をもつ共役塩基型。
b) pKa が 9 の RNH3+
pH = 1,3,5,7: ほとんどが電荷をもつ酸型 RNH3+
pH = 10: 一部(24 %)が電荷をもつ酸型、大部分(76 %)は電気的中性である共役塩基型 RNH2。
pH = 13: ほとんどが電気的中性である共役塩基型 RNH2。
c) アルコール、pKa = 15
pH 1,3,5,7,10,13: ほとんどが電気的中性な酸型 R-OH
pH を 14 まで上げてやると、一部(9 %)共役塩基型 R-O- を生じさせることができる。
※ プロトン化メチルアルコールの pKa が -2.5 (教科書 p54) であるので、pH 0 の酸性溶液でも、酸型で存在できるのは 1 % 以下で、ほとんどは共役塩基のメタノールとして溶けている。
(解答例)
カルボキシ基、アミノ基の状態を pH ごとに示す。
pH が 0.34 未満の場合
-CO2H
-NH3+
pH が 0.34
99 % が -CO2H, 1 % が -CO2-
-NH3+
pH が 1.34
91 % が -CO2H, 9 % が -CO2-
-NH3+
pH が 2.34
50 % が -CO2H, 50 % が -CO2-
-NH3+
pH が 3.34
9 % が -CO2H, 91 % が -CO2-
-NH3+
pH が 4.34
1 % が -CO2H, 99 % が -CO2-
-NH3+
pH が 4.34 〜 7.69 (※)
-CO2- が 99 % 以上
-NH3+ が 99 % 以上
pH が 7.69
-CO2-
99 % が -NH3+, 1 % が -NH2
pH が 8.69
-CO2-
91 % が -NH3+, 9 % が -NH2
pH が 9.69
-CO2-
50 % が -NH3+, 50 % が -NH2
pH が 10.69
-CO2-
9 % が -NH3+, 91 % が -NH2
pH が 11.69
-CO2-
1 % が -NH3+, 99 % が -NH2
pH が 11.69 より上
-CO2-
-NH2
a) pH 7.3 においては、上の(※)の領域である。従って、H3N+-CH(CH3)-CO2- の構造をとる。
この構造のように、ひとつの分子内に、正電荷と負電荷とをあわせもつ分子のことを「双生イオン」zwitterion と呼ぶ。「両性イオン」amphoteric ion、または、「双極イオン」dipolar ion の語が充てられる場合もある。また、「分子内塩」inner salt と呼ぶこともある。
この構造において、分子全体として見ると電気的中性である。
b) どの置換基も電荷をもたない、すなわち、H2N-CH(CH3)-CO2H の構造をとるような pH の領域はない。
c) (※)で示した 4.34 〜 7.69 の pH 領域では、ほとんど全てが双性イオンとして存在しており、アラニンは全体的に電気的中性である。カルボキシ基、アミノ基のいずれかが中性の状態であるようなものは 1 % 未満である。pH が 1 から 2 ずれて、1 % が 0.1 %, 0.1 % が 0.01 % になったところで大勢に影響がないが、非常に厳密に答えるなら、pH = 6.02(6.015 を四捨五入した)で、カルボキシ基が電気的に中性になっている分子の割合と、アミノ基が電気的に中性になっている分子の割合が完全に一致する。
pH = 6.02 においては、
-CO2H : -CO2- = 1 : 106.02-2.34
であるから、-CO2H の状態をもつアラニンの割合は、2 × 10-4(0.02 %)である。また、同様に、
-NH2 : -NH3+ = 1 : 109.69-2.34
であるから、-NH2 の状態をもつアラニンの割合も、2 × 10-4(0.02 %)である。
蛇足ながら計算しておくと、pH = 7.02 においては、-CO2H の状態をもつアラニンの割合は、0.002 %, -NH2 の状態をもつアラニンの割合は 0.2 % である。
(発展)
カルボキシ基の pKa が 2.34 と、酢酸(pKa = 4.76)に比べて酸性度が高い。他のアミノ酸も、いずれも pKa が 2 前後であることが知られている。これは、α 位に結合している -NH3+ 基の電子求引的誘起効果によるものであると理解してよい。-NH3+ 基は、電気陰性度の高い窒素をもつと同時に、正に荷電している。そのため、強い電子求引性基である。
(発展2)
問いでは、プロトン化されたアミノ基の pKa(酸性度定数、酸解離定数)が与えられている。アミンのように、電気的に中性なものが塩基型である場合、pKb(塩基性度定数、塩基解離定数)が用いられる場合もあるので、覚えておくとよい。(ただし、混乱しないように注意。)
特に水中の反応を考える場合、ある塩基の pKb は、その塩基の共役酸の pKa との間に次の関係が成り立つ。
pKa + pKb = 14
R-NH3+ の pKa が 9.69 であるので、R-NH2 の pKb は 4.31 である。
(解答例)
まとめ
pH = pKa のとき、酸型と塩基型が 1:1 である。酸型と塩基型の割合は、pH が 1 変化するごとに 100:1, 10:1, 1:1, 1:10, 1:100 と、一方が10倍ずつ変化する。
酸より、プロトン H+ を失った形が、共役塩基であるから、pH が高い(アルカリ性)側で、塩基型が増える。pH が低い(酸性)側では、酸型が増える。
a) pH が 10.4 のとき。(100倍は、102 であるから、pH が pKa よりも 2 だけアルカリ性側であるときが答え。)
b) pH が 2.7 のとき。
c) pH が 6.4 のとき。
d) pH が 7.3 のとき。
e) pH が 5.6 のとき。
(解答例)
1.62 の解答例に示した赤字のまとめをもう一度よむこと。
a) 1: pH が 4.9
2 : pH が 10.7
b) 1: pH が 6.9以上
2 : pH が 8.7以下
(解答例)
50 % だから、pKa と同じ、pH が 10.4
なお、1.61 の(発展2)に解説した「pKb」を使うと、問題文は次のように書き換えられる。
「pKa が 10.4 のアミンのプロトン化体(アミンの共役酸)の 50 % が」
「pKb が 3.6 のアミンの 50 % が」
(解答例)
この緩衝液中は、酢酸および酢酸ナトリウムを水に溶かしてつくっているので、溶液中には、十分な量の CH3CO2H, CH3CO2- (および Na+)が含まれる。次の2つの反応(※)が考えられる。
CH3CO2- + H+ ←→ CH3CO2H
CH3CO2H + OH- ←→ CH3CO2- + H2O
これらの平衡により、系に新たに少量の H+ や OH- が加えられたとき、ルシャトリエの原理(平衡移動の原理)により、加えられた H+ や OH- が消費される方向に平衡がずれる。そのため、H+ や OH- 濃度の上昇は、新たに系に加えられた量そのものよりもずっと小さくなる。そのため、pH 変化が緩やかになる。
(※)H+ および OH- との反応を、別の平衡式として書いているが、同じ平衡を左右を入れ替えて、二度繰り返して書いているにすぎないのはお分かりだろうか。従って、次の平衡式のみを書けば十分である。
CH3CO2- + H+ ←→ CH3CO2H
少量の酸を加えると、ルシャトリエの原理により、この平衡が右にずれ、少量の塩基を加えると、ルシャトリエの原理により、この平衡は左にずれる。
(発展)
Henderson-Hasselbalch 式の導出(とても簡単です。符号や分子分母の関係を間違えないように、その都度、導出するのが良いかもしれませんね。)
酸 HA が解離平衡にあるものとする。
HA ←→ H+ + A-
酸解離平衡定数(酸性度定数) Ka は、次式。
Ka = | [ H+ ] | [ A- ] |
[ HA ] |
= | [ H+ ] | × | [ A- ] |
[ HA ] |
-log10 Ka = | -log10[ H+ ] | - log10 | [ A- ] |
[ HA ] |
pKa = | pH | - log10 | [ A- ] |
[ HA ] |
= | pH | + log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
pH = | pKa | - log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
pKa - pH = | log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
(発展2)
はじめの pH 7 を示している 60mL の純水の中に、0.1 mol/L の水酸化ナトリウム溶液を滴下していくと、下図のように1滴加えただけで pH は大きく変化してしまう。
次図は、0.1 mol/L の酢酸 60 mL の中に、0.1 mol/L の水酸化ナトリウム溶液を滴下していったときの滴定曲線である。中性付近では、やはり1滴前後の差により、pH が非常に大きく変化している。
しかしながら、滴定量が 20 から 40 mL 付近では、水酸化ナトリウムの滴下量の増加による pH の増加は、比較的、緩やかである。
この滴定量の領域のように、(酸や)塩基を少量加えても、pH が大きくは変化しないような領域の組成をもつものを、緩衝液という。一般には、弱酸※とその塩を溶液としたものをいう。酢酸の半量を中和した点においては、酸とその塩を等量ずつまぜたものと等しい。
この領域で、溶液の pH を求めるためには、Henderson-Hasselbalch 式を下記のように変形したものを用いることができる。
pH = | pKa | - log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
(解答例)
a)
b)
c)
(解答例)
HO- の共役酸である H2O は、pKa = 15.7 の値をもつ。
a) CH3OH は、水とほぼ同じ pKa = 15.5 の値をもつ Brønsted - Lowry の酸である。そのため、次の平衡が生じる。
CH3OH + HO- ←→ CH3O- + H2O
わずかに CH3OH の方が強い酸なので、この平衡はわずかに右に傾く。平衡定数は、1015.7-15.5 = 100.2 = 1.6 である。CH3OH とほぼ同量の OH- を加えても、アルコールの半量程度しか共役塩基にならない。水溶液である場合には、上記平衡式の右辺第2項に水があり、この濃度が高い(他の基質が希薄である場合には、55.5 mol/L)ので、この効果により平衡が左(反応物側)に移動するため、この程度の平衡定数では、メタノールは CH3O- ではなく、CH3OH として存在する量の方がずっと多くなるだろう。
b) NH4+ は、pKa = 9.4 の Brønsted - Lowry の酸であり、HO- の共役酸である H2O ( pKa = 15.7 ) と比べて強い酸である。そのため、次の反応が生じる。(酸塩基反応では、強い酸が反応して、弱い酸が生じる側に平衡がずれる。)
NH4+ + HO- → NH3 + H2O
厳密には、上記反応も平衡反応であるが、その平衡定数は 1015.7-9.4 = 106.3 と、非常に大きな値であり溶媒の水の濃度(55.5 mol/L = 101.744 mol/L )を考慮しても、反応はほとんど完全に右に(生成物側に)進行する。
c) CH3NH3+ は、pKa = 10.7 の Brønsted - Lowry の酸であり、HO- の共役酸である H2O ( pKa = 15.7 ) と比べて強い酸である。そのため、次の反応が生じる。
CH3NH3+ + HO- → CH3NH2 + H2O
厳密には、上記反応も平衡反応であるが、その平衡定数は 1015.7-10.7 = 105.0 と、非常に大きな値であり溶媒の水の濃度(55.5 mol/L = 101.744 mol/L )を考慮しても、反応はほとんど完全に右に(生成物側に)進行する。
d) BF3 は、ホウ素が価電子を6個しかもっておらず、Lewis 酸として働く。
Brønsted - Lowry の酸−塩基反応とはことなり、Lewis の酸の反応には、共役塩基、共役酸といった概念は当てはめられない。(この反応も、厳密には平衡となるはずであるが、現時点では、この平衡定数を議論するような材料がないので、単に上記反応が進行するとしておくのみとする。)
e) CH3+ は、炭素が価電子を6個しかもっておらず、Lewis 酸として働く。
f) 遷移金属のハロゲン化物は、内殻の d 軌道を使って電子を受け入れることができるので、Lewis 酸として働く。
g) AlCl3 は、アルミニウムが価電子を6個しかもっておらず、Lewis 酸として働く。
h) CH3CO2H は、pKa = 4.76 の Brønsted - Lowry の酸であり、HO- の共役酸である H2O ( pKa = 15.7 ) と比べて強い酸である。そのため、次の反応が生じる。
CH3CO2H + HO- → CH3CO2- + H2O
厳密には、上記反応も平衡反応であるが、その平衡定数は 1015.7-4.8 = 1010.9 と、非常に大きな値であり溶媒の水の濃度(55.5 mol/L = 101.744 mol/L )を考慮しても、反応はほとんど完全に右に(生成物側に)進行する。
(解答例)
a) carbonic acid, 炭酸
b) carbonate, 炭酸イオン
c) methanal, メタナール、慣用名 formaldehyde, ホルムアルデヒド
d) hydrazine, ヒドラジン
e) methanamine (methyl amine)
f) methanediazonium, メタンジアゾニウム
g) carbon dioxide, 二酸化炭素
h)
※ h) は hydroxylamine ヒドロキシルアミン から水素イオンが取れた形である。(1.15 を参照のこと)
※ f) は、次の構造も書けるように思われるが、よく見ると、2つの窒素のうち右側で八遇子(オクテット)を満たしていない。(最外殻の電子数が8に足りず、6個しかない。)そのため、上に挙げた構造の方が重要である。
(解答例)
a) sp3 混成で、正四面体型。
b) sp2 混成で、三方平面型。
c) sp3 混成で、正四面体型。
d) sp2 混成で、三方平面型。教科書 p40 参照。
e) sp3 混成で、正四面体型。
f) sp2 混成で、三方平面型。
g) sp 混成で、直線型。
h) sp3 混成で、正四面体型。
i) sp3 混成で、正四面体型。
(解答例)
a) propane CH3CH2CH3
b) propene CH3CH=CH2
c) but-1-yne CH3CH2C≡CH
but-2-yne CH3C≡CCH3
(解答例)
a) N-methylmethanamine (dimethyl amine) の C-N-H の結合角について訊かれている。この窒素は、3本の σ 結合(N-CH3 結合×2、N-H 結合×1)と、窒素上の孤立電子対とをもつ。これらが互いに反発するので、正四面体型の構造をもつ。従って、C-N-H の結合角は、およそ 110度である。
b) N-methylmethanamine (dimethyl amine) の C-N-C の結合角について訊かれている。この窒素は、3本の σ 結合(N-CH3 結合×2、N-H 結合×1)と、窒素上の孤立電子対とをもつ。これらが互いに反発するので、正四面体型の構造をもつ。従って、C-N-C の結合角は、およそ 110度である。
c) このジメチルアンモニウムイオンの中央の窒素は、4本の σ 結合(N-CH3 結合×2、N-H 結合×2)をもつ。そのため、正四面体型の構造をもち、C-N-C の結合角は、およそ 110度である。
d) methoxymethane (dimethyl ether) の C-O-C の結合角について訊かれている。酸素は、2本の σ 結合(O-CH3 結合×2)と、酸素上の2対の孤立電子対をもつので、正四面体型の構造をもつ。よって、C-O-C の結合角は、およそ 110度である。
e) methanol (methyl alcohol) の C-O-H の結合角について訊かれている。酸素は、2本の σ 結合(O-CH3 結合×1、O-H 結合×1)と、酸素上の2対の孤立電子対をもつので、正四面体型の構造をもつ。よって、C-O-H の結合角は、およそ 110度である。
f) methanal (formaldehyde)の H-C-H の結合角について訊かれている。C=O の構造をもつが、この部分は、σ 結合と π 結合によりできている。従って、炭素上で互いに反発しあうのは、3本の σ 結合(C-H 結合×2、C-O 結合)である。そのため、この炭素は正三角形型の構造を持っている。H-C-H の結合角は、およそ 120度である。
g) BF4- イオンの中央のホウ素は、-1 の形式電荷をもつ。これは、価電子の数が(電気的中性であるホウ素は、価電子数3をとるので)4であることを示しており、メタンなどにおける炭素(電気的中性な炭素は価電子数4をとる)と同じである。そして、メタンと同様に正四面体構造をとる。これは、ホウ素が4本の σ 結合(B-F 結合×4)をもつことと対応している。そのため、F-B-F の結合角は、およそ 110度である。
h) ethanenitrile (acetonitrile) の C-C-N の結合角について訊かれている。シアノ基(-C≡N)の炭素-窒素間は、三重結合であり、σ 結合1本と π 結合2本とからできている。そのため、シアノ基炭素は、互いに反発しあう2本の σ 結合(CH3-C 結合と、C-N 結合)をもち、直線型となる。従って、C-C-N の結合角は、およそ 180度である。
i) 1.32(b) と同じ。ethanamine の1位(アミノ基の結合位置)の炭素は、4本の σ結合(C-CH3 結合×1、C-H 結合×2、C-NH2 結合×1)をもち、正四面体型の構造をもつ。よって、C-C-N の結合角は、およそ 110度である。
(解答例)
電子配置は、次の通り
20Ca : (1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)2
20Ca2+ : (1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6
18Ar : (1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6
12Mg2+ : (1s)2(2s)2(2p)6
20Ca2+ の総電子数は 18 であるから、18Ar と同じ電子配置をもつ。また、12Mg2+ の総電子数は 10 であるから、10Ne と同じ電子配置をもつ。希ガスと同じ電子配置(閉殻構造)をもつイオンは、安定なイオンである。
(発展)
ここで、「基底状態」という用語が、構成原理の順に(エネルギーの低い順に)電子を配置したものを指していることを思い出しておこう。この順序を飛び越えてエネルギーの高い軌道に電子が入っている(エネルギーの低いところに電子が詰まっていない軌道が残っている)ような配置は、「励起状態」と呼ばれる。
(解答例)
カッコの中の註釈を活かし、本文を「極性の大きいものから順に」と読み替えて解答する。
a) C-F > C-O > C-N
b) C-Cl > C-Br > C-I
c) H-O > H-N > H-C
d) C-N > C-H > C-C
d) 以外は周期表における元素の位置関係のみから答えられるはず。d) は表1.3 に戻って数値を確認すると、ΔEN(C-N) = 0.5, ΔEN(H-C) = 0.4 である。
(解答例)
a) 同族列、異なる周期の元素間での比較では、より下方の元素に結合した水素の方が酸性度が高い。H2S と H2O では、後者の方が弱い酸である。これらの共役塩基について考えるならば、HS- よりも HO- の方が、より強い塩基である。
b) 同じ周期の元素間での比較では、より右側の電気陰性度の高い元素の結合した水素の方が酸性度が高い。そのため R が共通ならば R-OH より、R-NH2 の方が弱い塩基である。これらの共役塩基について考えるならば、R-O- より R-NH- の方が強い塩基である。
c) @ 共役酸の構造を考えると、CH3OH の共役酸は CH3OH2+、CH3O- の共役酸は CH3OH である。pKa で比較すればあきらかなように、CH3OH2+ の方が酸性度が高い。従って、CH3OH の方が、CH3O- より弱い塩基である。
c) A CH3OH と CH3O- で比較したとき、前者は電気的中性、後者は負に帯電している。H+ は正電荷をもつので、CH3O- とは、静電引力で引き合うため、より強く結合することができる。つまり、CH3O- の方が電気的に中性である CH3OH よりも H+ を受け取りやすい。すなわち、CH3O- の方が強い塩基である。
上記 @、A は結局同じことを言っているんですが。
d) 同族列、異なる周期の元素間での比較では、より下方の元素に結合した水素の方が酸性度が高い。HCl と HBr では、HCl の方が弱い酸である。すなわち、Cl- の方が Br- よりも強い塩基である。
(解答例)
Kekulé 構造(教科書 p21)では、結合を線(「価標」)で表す。また、孤立電子対は省略できる(書いても良い。)
また、形式電荷をもつ原子がある場合は、形式電荷は省略できない。
なお、骨格構造式のルールでは、C の元素記号と、その C 上の水素(およびその結合を示す価標)は省略される。
以下、Kekulé 構造と骨格構造で示す。
a) ethanal 慣用名 acetaldehyde
アルデヒド基(-CHO)を骨格構造式で書く際、左のように書くことができるが、右のように炭素上の水素を省略して表す場合もある。
b) methoxymethane (dimethyl ether)
c) ethanoic acid, 慣用名 acetic acid, 酢酸
d) 2-methylpropan-2-ol (tert-butyl alcohol)
e) 3-hydroxybutanenitrile
f) 2,2,4,5-tetramethylhexane
※ 上のKekulé 構造で、d)、f) では、単に描画の都合上、C-H 結合が交差しているように描かれていますが、交差することが必須ではありません。Kekulé 構造では炭素回りの4本の結合を直角の方向で描く場合も多いですが、これも決まっているわけではありません。あまり不自然ではないように描かれていれば、結合の順序さえあっていれば、同じ図とみなして結構です。
(解答例)
ここでは、1.9 と同様に δ+、δ- の記号を用いて書くが、矢印で示してもよい。その場合、δ+ から δ- の方向に矢印を書く場合は、矢印のしっぽ(出発点のところ)には、短い線を交差させることを忘れないようにする。(教科書 p13 参照)
a) H3Cδ+-Brδ-
b) H3Cδ--Liδ+
c) HOδ--Nδ+H2
d) Iδ+-Brδ-
e) H3Cδ+-Oδ-H
f) (CH3)2Nδ--Hδ+
(解答例)
a) sp2 混成。
b) 2組の孤立電子対がある。sp2 混成。
c) 2組の孤立電子対がある。sp3 混成。
d) 1組の孤立電子対がある。sp 混成。
e) 1組の孤立電子対がある。sp2 混成。
f) 2組の孤立電子対がある。sp3 混成。
(解答例)
a)
b)
c)
d)
(解答例)
pKa は小さい方が、Ka は大きい方が強い酸である。
a) (強い酸) CH3CH2CHClCO2H > CH3CHClCH2CO2H > CH2ClCH2CH2CO2H > CH3CH2CH2CO2H (弱い酸)
b) 共役塩基 R-CO2-において、電気陰性度の高い原子が、σ 結合を通じて陰イオンの負電荷を引き寄せ、非極在化することで安定化がおきる。すなわち、電子求引的な誘起効果(I効果)を示す。
c) カルボキシ基との間の σ 結合の数が増えるごとに、その効果が小さくなる。従って、カルボキシ基の α 位の塩素はカルボン酸の酸性度を最も大きく上げる。β 位、&gunma; 位と遠くなるにつれてその効果は小さくなる。
(解答例)
赤で示したのが sp3 混成をもつ原子、青で示したのが sp2 混成をもつ原子、緑で示したのが sp 混成をもつ原子である。
また、指定された2つの結合を矢印で示し、短い方を図中に示した。
a)
b)
c)
d)
左の C-H 結合は、炭素の sp2 混成軌道と、水素の 1s 軌道から生じている。右の C-H 結合は、炭素の sp 混成軌道と、水素の 1s 軌道から生じている。よって、より s 性の高い混成軌道から生じている右の結合の方が短い。
e)
左の C-H 結合は、炭素の sp2 混成軌道と、水素の 1s 軌道から生じている。右の C-H 結合は、炭素の sp3 混成軌道と、水素の 1s 軌道から生じている。よって、より s 性の高い混成軌道から生じている左の結合の方が短い。
(発展)
sp3 混成軌道は、25 % の s 性をもち、
sp2 混成軌道は、33 % の s 性をもち、
sp 混成軌道は、50 % の s 性をもつ。
s 軌道の方が、p 軌道よりも原子核に近い位置にある軌道であるので、混成軌道間で比較した場合も、sp3 → sp2 → sp と s 性が上がるに従って、軌道がより原子核に近いことがわかる。そのため、分子軌道を形成するのに使用する混成軌道が、sp3 → sp2 → sp と s 性が上がるに従って、結合距離も短くなる傾向がある。
(解答例)
カッコの中には、別途計算したその形の分子の割合を併記した。
pH = 3
a) CH3CO2H (98.4 %)
b) CH3CH2NH3+ (99.9 % 以上)
c) CF3CH2OH (99.9 % 以上)
これより酸性側で、(a) は酸型が過剰
−− (a) CH3CO2H の pKa = 4.8 −−
これより塩基側で、a) は共役塩基型が過剰
pH = 6
a) CH3CO2- (94.1 %)
b) CH3CH2NH3+ (99.9 % 以上)
c) CF3CH2OH (99.9 % 以上)
pH = 10
a) CH3CO2- (99.9 % 以上)
b) CH3CH2NH3+ (90.9 %)
c) CF3CH2OH (99.9 % 以上)
これより酸性側で、(b), (c) は酸型が過剰
−− (b) の pKa = 11.0, c) の pKa = 12.4 −−
これより塩基側で、(b), (c) は共役塩基型が過剰
pH = 14
a) CH3CO2- (99.9 % 以上)
b) CH3CH2NH2 (99.9 %)
c) CF3CH2O- (97.5 %)
ところで、トリフルオロエタノールについては、CF3CH2OH2+ の構造についても考慮する必要があるだろうか。
無置換のエタノールのプロトン化体 CH3CH2OH2+ の pKa が教科書巻末付録を参照して、-2.4 であるから、CF3CH2OH2+ の pKa はそれよりも小さく、共役酸型をとりにくいことが推測される。今、問いの選択肢において、最も酸性である条件 pH = 3 において、エタノールとその共役酸の比は、1 : 10-2.4-3である。従って、トリフルオロエタノールが共役酸となっている量は、これより少ないと結論できるので、今回の問いの範囲において、考慮しなくてもよいことがわかる。
(解答例)
a) (強い酸) CCl3CH2OH > CHCl2CH2OH > CH2ClCH2OH (弱い酸)
b) これらの分子において、酸性水素は、水酸基の酸素上の水素である。従って、共役塩基の構造は、CCl3CH2O- などである。電気陰性度の高い塩素が、この酸素から同じ数の σ 結合をはさんで結合しているが、その数が異なっている。塩素原子からの電子求引的な誘起効果(I効果)は、塩素が複数あることにより重ねあわされて強くなっているため、塩素の数の最も多いもので酸性度がもっとも高く、塩素の数の減少に伴い、酸性度は下がっている。
(解答例)
but-2-ene と 1-methylcyclohexene が条件に合致する。
青で示したのが、sp2 混成炭素である。また、この sp2 炭素とかならず同一平面内にある範囲をピンク色の σ 結合で示した。
(解答例)
a) 生成物の酸は、CH3CO2H (pKa = 4.76)
反応物の酸は、CH3OH (pKa = 15.5)
強い酸は反応し、より弱い酸が生成する方向に平衡が傾くから、この反応は生成物が多くなる。
b) 生成物の酸は、CH3CH2OH (pKa = 15.9)
反応物の酸は、NH3 (pKa = 36)
強い酸は反応し、より弱い酸が生成する方向に平衡が傾くから、この反応は生成物が多くなる。
c) 生成物の酸は、CH3CO2H (pKa = 4.76)
反応物の酸は、CH3NH3+ (pKa = 10.7)
強い酸は反応し、より弱い酸が生成する方向に平衡が傾くから、この反応は生成物が多くなる。
d) 生成物の酸は、HCl (pKa = -7)
反応物の酸は、CH3CH2OH2+ (pKa = -2.4)
強い酸は反応し、より弱い酸が生成する方向に平衡が傾くから、この反応は生成物が多くなる。
c), d) では、中性分子間の反応なので、上で示したものと、酸、塩基の役割を入れ替えた式も書ける。その場合についても、上と同様に検討すると、反応の平衡は、反応物側に大きく傾くことがわかる。(実質的に、ほとんど進行しない。)
(解答例)
多重結合がない限り、中心の原子が、価電子数4、5、6のものは、すべて正四面体型構造をとる。※, ※2
価電子数4つ → 4本の結合
価電子数5つ → 3本の結合と1対の孤立電子対
価電子数6つ → 2本の結合と2対の孤立電子対
※ 多重結合がない限り、上記「結合」は、 σ 結合となる。多重結合をもち、結合のうちの一部が π 結合となる場合は、反発しあう電子対(結合または孤立電子対)の数が4ではなくなるので、正四面体構造ではなくなる。
※2 価電子数が4以上でも、オクテットを満たさないため安定なものではないが、例外として、 carbene カルベン H2C: (2本の σ 結合 と孤立電子対をもつ)や、nitrene ニトレンまたはナイトレン H-N (1本の σ 結合 と窒素上に2対の孤立電子対)のような構造がでてくることも、ごくまれにありえる。
中心の原子が、荷電子数3のものは、どのような結合を考えてもオクテットを満たすことはできない※3のであるが、3本の結合をもつ。いずれもが σ 結合であるなら、正三角形型を考えることになる。
ここでリストにあげられたそれぞれの構造をみていくと、次の2つが正三角形型(平面内3配位型)の構造をもつ。
CH3+, BF3 : メチルカチオンの炭素は、形式電荷 +1 をもっており、価電子数が3である。ホウ素も価電子数が3である。いずれも3本の σ 結合をもっている。
残りは、すべて正四面体型の構造をもつ。
H2O : 酸素は、2本の σ 結合(O-H 結合)と、2対の孤立電子対をもつ。
H3O+ : 酸素は、3本の σ 結合(O-H 結合)と、1対の孤立電子対をもつ。
NH3 : 窒素は、3本の σ 結合(N-H 結合)と、1対の孤立電子対をもつ。
NH4+ : 窒素は、4本の σ 結合(N-H 結合)をもつ。
CH3- : 炭素は、3本の σ 結合(C-H 結合)と、1対の孤立電子対をもつ。
※3 発展を参照のこと
(発展)
ここまでに学習している枠組み(価電子、形式電荷、Lewis構造、Kekulé構造)では説明できない例外的な分子構造として、頻出のものに「ジボラン、diborane」(分子式、B2H6)がある。
これは、ボラン borane、BH3 の二量体である。
分子全体として電荷をもたない電気的中性の構造であるから、ホウ素の価電子数を3として数えると、ホウ素が3本の結合をもち、最外殻電子数6となってオクテットを満たさない構造を考えることになる。
しかし、実際に観測されているジボランの構造は非常に特殊である。
外部リンク wikipedia ジボラン
ホウ素が4本の結合をもっている。また、水素原子が2本の結合をもっている。(B-H-B は、通常は1本の共有結合で電子を2つ使用するのに対し、3つの原子の間にある2本の共有結合に対し電子を2つ使用するような特殊な結合なので、「三中心二電子結合」と呼ばれる。)
このような構造を説明するためには、特定の2つの原子が、原子軌道を出し合って結合のための軌道をつくるという概念を越えて、2つのホウ素、6つの水素に対して分子軌道を作っていく必要がある。ここでは、その扱いの詳細は、現在の学習の範囲を超えるので省略するが、「三中心二電子結合」という言葉からわかるように、ホウ素−水素−ホウ素の3つの原子にまたがって広がった結合性の分子軌道があり、そこに電子が2つ入っている。
また、上記リンク先の図をみてわかるように、ホウ素が4本の結合をもっているにも関わらず、うち2本は B-H 結合であるのに対し、残り2本は(反発するはずの電子の密度が、B-H 間で小さい(B-H-B 結合として2つの電子が入っているから、B-H 分では単純にいえば半分)ので、反発の大きさが均等ではない。そのため、正四面体型の結合角から大きくずれている。
(解答例)
赤で示したのが sp3 混成をもつ原子、青で示したのが sp2 混成をもつ原子、緑で示したのが sp 混成をもつ原子である。
sp3 混成炭素を中心とした結合角は約110度、sp2 混成炭素を中心とした結合角は120度、sp 混成炭素を中心とした結合角は180度である。
a)
b)
c)
d)
(解答例)
1: Ka 4.0 × 10-4 は、10-4 より大きく、10-3 より小さい。
従って、pKa は 3 と 4 の間である。
電卓を用いて計算すると、pKa = 3.40 (精度については、下記 ※参照)
2: Ka 22 は、101 より大きく、102 より小さい。
従って、pKa は -2 と -1 の間である。
電卓を用いて計算すると、pKa = -1.34
3: Ka 6.3 × 10-11 は、10-11 より大きく、10-10 より小さい。
従って、pKa は 10 と 11 の間である。
電卓を用いて計算すると、pKa = 10.20
4: Ka 7.9 × 10-10 は、10-10 より大きく、10-9 より小さい。
従って、pKa は 9 と 10 の間である。
電卓を用いて計算すると、pKa = 9.10
5: Ka 2.0 × 10-4 は、10-4 より大きく、10-3 より小さい。
従って、pKa は 3 と 4 の間である。
電卓を用いて計算すると、pKa = 3.70
※ たとえば1の問いに対して、3.95 × 10-4、 4.05 × 10-4 の数字を用いて計算すると、pKa が 3.3925…、3.4034… となる。これらの差が 0.01 なので、3.9 × 10-4 を用いて計算した pKa の値については、3.3979… ±0.01 の精度をもつ。従って、小数点以下3桁めで四捨五入して示した。
(発展)
なお、関数電卓がなくても、次の値が与えられていれば、精度1桁で与えられている Ka についてはすべて計算できる。
log10 2 = 0.301
log10 3 = 0.477
log10 7 = 0.699
(例)
Ka = 5 × 10-3 のとき、
pKa = -log10(5 × 10-3)
= -log10(5) - log10(10-3)
= -log10(10/2) - log10(10-3)
= -(1-0.301) - (-3)
= 2.301
Ka = 8 × 10-5 のとき、
pKa = -log10(8 × 10-5)
= -log10(8) - log10(10-5)
= -log10(23) - log10(10-5)
= -3log10(2) - log10(10-5)
= -3×0.301 - (-5)
= 4.097
(解答例)
おおよそこんな感じ(笑
静電ポテンシャル図で、赤く示されているのが最も電子密度が高く、従って塩基性を示す部分である。
側鎖の窒素は、4級アンモニウム塩になっているため、孤立電子対をもたず、塩基性を示さない。(これ以上 H+ を受け取る能力がない。
静電ポテンシャル図で赤く示されている窒素は、孤立電子対が環の平面内にでている。そのため、この位置で H+ をうけとっても、環上の π 電子の広がり(非局在化)には影響がない。
環内の窒素2つのうち1つは、隣接した π 結合があるため、sp2混成となり、p 軌道に電子が2つ入っている。この p 軌道は、隣接した π 軌道と共役している。もし、この電子対を使って H+ を受け取ってしまうと、この位置で π の共役が切れてしまう。そのため塩基性が低い。(π 結合をもつアルケンやアルキンと同等の塩基性しか示さない。)
軌道の模式図を示した。赤の軌道が、環の平面内に突き出た孤立電子対で、塩基性を示す部位。緑の軌道が、二重結合(π 結合)を作る p 軌道と、塩基性の低い方の窒素の p 軌道。5つの p 軌道がすべて同じ方向をむいており、これらがあわせて π 分子軌道をつくっており、結合性の π 分子軌道の中に6個の電子が入っている。
(解答例)
Ka の値が大きいほど強い酸である。
a) (強い酸) CH3CH2CHClCO2H > CH3CH2CHBrCO2H > CH3CH2CH(OH)CO2H >
CH3CH2CH2CO2H (弱い酸)
b) カルボキシ基の α 位に結合したときに、塩素の方がカルボン酸の酸性度を高める効果が強い。これは、カルボン酸の共役塩基の負電荷を引き寄せて安定化する電子求引性の誘起効果が、水酸基よりも塩素の方が強いことを意味している。
単独の原子1つだけで比較すれば、電気陰性度は、臭素 < 塩素 < 酸素の順であるが、ここで検討している置換基は、水酸基であり、酸素は、主鎖炭素側と、水酸基水素との両方から電子を引き寄せる形になっている。
(解答例)
a) methanediazonium, メタンジアゾニウム
1.68 (f) でも同じ問題を解いたように、次の構造式も可能である。しかしながら、右側の窒素がオクテットを満たしていないので、次の構造式の寄与は小さい。
b) diazomethane, ジアゾメタン
すべての原子がオクテットを満たすように、次の2つの構造式を書くことができる。(のちに、「共鳴」で学習するように、この2つの構造式はどちらも同程度に重要性をもつ。)
c) azide, アジド(アジドイオン)
すべての原子がオクテットを満たすように、次の2つの構造式を書くことができる。しかしながら、右側の構造では、形式電荷が1つの窒素原子上で集中して「2-」となっている。このため、右側の構造の重要度は小さい。
d) 一酸化二窒素、亜酸化窒素、笑気ガス
すべての原子がオクテットを満たすように、次の2つの構造式を書くことができる。c) で書いたアジドイオンと比較すること。c) では、右の構造で1つの窒素原子上に形式電荷が集中していたが、d) のこの亜酸化窒素では、(窒素原子が酸素原子に置き換わった構造であり、窒素にくらべて酸素の方がもともと価電子数が1つ多いため、全体として形式電荷が1つ小さくて済んでおり、)右の構造においても、酸素上の形式電荷が「1-」で済んでいる。
亜酸化窒素においては、次の2つの構造式のどちらも同程度に重要性をもつ。
(発展)
b) CH2N2 を組成式とみなすなら、C-N-N の並びではなく、N-C-N の並びをもつ次の構造も別解として正解となります。
carbodiimide, カルボジイミド
上記構造の水素の部分がアルキル基になったようなカルボジイミド誘導体は、「脱水縮合剤」として広く用いられる試薬です。ただし、上記構造の無置換のカルボジイミドは、星間物質としては知られているようですが、それ以外のところではあまり出て反応して尿素を与える)ためだろうと思われます。
(解答例)
反応物の酸、生成物の酸(反応物の塩基に対する共役酸)の酸性度の違いの大きいものを探せばよい。
反応物の酸 HA1 の酸性度定数(酸解離定数)を Ka1、生成物の酸(反応物の塩基に対する共役酸)HA2 の酸性度定数(酸解離定数を Ka2 とおく。
HA1 + A2- ←→ A1- + HA2
上の平衡反応における平衡定数は、
Keq = | Ka1 | (※) |
Ka2 |
= | 10-pKa1 |
10-pKa2 |
= | 10(pKa2-pKa1) | (※2) |
(解答例)
ClCH=CHCl の2つの幾何異性体の構造を示した。また、それぞれに対し、C-Cl 結合の分極を赤の矢印で示した。
右側の構造(トランス体)では、2本のC-Cl 結合の分極が互いに打ち消しあう。そのため、双極子モーメントを持たない。左の構造(シス体)では、2本のC-Cl 結合の分極が互いに打ち消しあうことがない。
上図では省略しているが、C-H 結合にも(C-Cl 結合ほどではないにしても)分極がある。この分極も、同様に、トランス体では互いに打ち消しあう。
【註】図は省略しますが、1,1-dichloroethene も結合の分極は打ち消しあいませんので、双極子モーメントをもちます。
(解答例)
三重結合の炭素が sp 混成を取っているとするならば、180度の結合角をもつ場合に安定で、それより小さい角度をとろうとすると、ひずみが生じるため。
環の構造があるために、とることのできる角度が制約を受けるのである。
(解答例)
水の解離平衡
H2O ←→ H+ + OH-
水の解離平衡定数
Ka = | [ H+] | [ OH−] |
[ H2O ] |
Ka = | [ H+] | [ OH−] |
[ H2O ] |
= | [ H+] | × | 10-14 |
55.5 | [ H+] |
= | 1 | × 10-14 |
55.5 |
Ka = | [ H+] | [ OH−] |
[ H2O ] |
(解答例)
pKa と 2 以上離れた pH で、酸型、塩基型のうち主となるものが 99 % 以上となるので、ここでは目安として pKa ± 2 で区切って示す。
heptanoic acid (pKa = 4.8)、hexan-1-amine(共役酸の pKa = 10.7) は、水溶液中で、主として
pH が 2.4 以下では、
R-CO2H、R-NH3+ の形で存在する。
pH が 6.8 から 8.7 では、
R-CO2-、R-NH3+ の形で存在する。
pH が 12.7 以上では、
R-CO2-、R-NH2 の形で存在する。
従って、
a) 両方が水層に溶けるのは、pH が 6.8 から 8.7 程度の領域である。(※)
b) カルボン酸が水層に溶け、アミンがエーテル層に溶けるのは、pH が 12.7 程度以上の領域である。
c) カルボン酸がエーテル層に溶け、アミンが水層に溶けるのは、pH が 2.4 程度以下の領域である。
(発展)
(※)解答例に示した pH の領域であれば、余裕をもって十分に問いの条件を満たすが、pKa に近い領域の pH の溶液を用いると、実際にはもっと複雑である。
たとえば、pH = 4.8 の水溶液中で、カルボン酸は、その半量が酸型、半量が塩基型となっている。そのため、これをエーテル層に触れさせると、半量が水に溶け、半量がエーテルに溶けると考えてしまいがちだが、そのように単純ではない。
はじめに水溶液のみがあったとして、半量が酸型、半量が塩基型になっているような系を、エーテル層と振り混ぜると、酸型の分子がエーテル側に溶け込む。このことにより、水溶液中では、ルシャトリエの原理により、塩基型分子が酸型に変化し、酸型と塩基型が等量になるように平衡移動がおきるのである。
また、このとき、酸型の分子が 100 % 完全にエーテル層に溶けるわけでもない。そこには、分配平衡(酸型の分子が、水層とエーテル層のどちらに溶けるかの平衡)がある。(もし、仮に、酸型の分子が 100 % 完全にエーテル層に移るのだと仮定すると、上記の水溶液中の酸解離平衡の移動があることにより、どんな pH の水溶液からも、すべてのカルボン酸がエーテル中に溶け込んでしまうという誤った結論になる。)(実験値として、安息香酸を用いたとき、この分配係数(酸型の単量体分子の分配平衡定数)が 1/10 〜 10 程度の範囲の値であるようです。)
正確な値がわからないので、また、計算を簡単にするために、仮に、この分配係数を 1 とし、水溶液、エーテルの体積を同じとして、水溶液の pH を 4.8 とするならば、水層で酸型の分子 : 水層で塩基型の分子 = 1 : 1、かつ、水層で酸型の分子 : エーテル層で酸型の分子 = 1 : 1 という比が常に成り立つことになり、エーテル層中にはカルボン酸の全量の 1/3 が溶けることになる。
しかし、まだ話は終わりではない。エーテル中で、カルボン酸は2分子会合していることも知られている。2分子会合体は、ほとんど水に溶けることは無いので、エーテルに溶け込んだ酸型の分子が、単量体から2量体(会合体)になることで、エーテル中の酸型(単量体)分子が減る。これによりルシャトリエの原理により、水層からエーテル層へ酸型の分子が溶け込んでくる。そのため、トータルで1/3 よりずっと多くの量のカルボン酸が、エーテルに溶け込んでくることができるのである。その量は、エーテル中の会合平衡が二量体側に大きく傾くほど、大きくなることはお分かりだろう。また、会合平衡は、濃度が高いほど二量体側に平衡が傾き、濃度が低い場合は単量体側に平衡が傾く(ルシャトリエの原理により説明できる)ので、結局のところ、どういう濃度で実験するかによっても、どれだけの量がエーテルに溶けるのか、という値が変化するということになる。
(解答例)
pKa と 2 以上離れた pH で、酸型、塩基型のうち主となるものが 99 % 以上となるので、ここでは目安として pKa ± 2 で区切って示す。
それぞれ化合物の、主である形(酸型か、塩基型か)を。pH ごとに示す。
ただし、クロロベンゼンはすべての領域で、酸−塩基反応を示さない。
pH が 2.2 程度より小さい場合
PhCO2H
PhNH3+
PhOH
C6H11PhNH3+
pH が 6.6 から 8.0 程度の範囲の場合
PhCO2-
PhNH2
PhOH
C6H11PhNH3+
pH が 12.6 程度以上の場合
PhCO2-
PhNH2
PhO-
C6H11PhNH2
酸性側からはじめる場合。
塩酸酸性とした水溶液(pH < 2.2)にこれら5種の化合物をいれ、エーテルで抽出する。このとき、有機層に溶け込むのは、安息香酸、クロロベンゼン、フェノールである。水層にはアニリンとシクロヘキシルアミンが、それぞれ塩酸塩の形で溶けている。
安息香酸、クロロベンゼン、フェノールの溶け込んだエーテル層は、pH が 6.6 から 8.1程度の水溶液で抽出すると、安息香酸のみが塩となり、水層に移る。次に、pH が 12 程度より大きいアルカリ性の水溶液で抽出すると、フェノールを塩として水層に移すことができる。クロロベンゼンは最後まで有機層に残る。
2種のアミンが塩として解けている酸性の水溶液は、水酸化ナトリウムを加えて pH を調整する。pH が 6.6 から 8.7 程度の間にしてやれば、アニリンのみが塩基型にもどり、エーテルで抽出することができるようになる。シクロヘキシルアミンは水溶液中に塩酸塩で残る。
塩基性からはじめる場合。
塩基性とした水溶液(pH > 12.6)にこれら5種の化合物をいれ、エーテルで抽出する。このとき、有機層に溶け込むのは、アニリン、シクロヘキシルアミン、クロロベンゼンである。水層には、安息香酸、フェノールが塩として溶けている。
アニリン、シクロヘキシルアミン、クロロベンゼンの溶け込んだエーテル層は、pH が 6.6 から 8.7 程度の水溶液で抽出すると、シクロヘキシルアミンのみが塩となり、水層に移る。次に、pH が 2.6 程度よりも小さな酸性の水溶液で抽出すると、アニリンも塩として水層に移すことができる。クロロベンゼンは最後まで有機層に残る。
安息香酸とフェノールが溶けている塩基性の水溶液は、塩酸を加えて pH を調整する。pH が 6.2 から 8.0 程度の間にしてやれば、フェノールのみが酸型に戻り、エーテルで抽出することができるようになる。安息香酸は水溶液中にナトリウム塩とし残る。
1.0 mol/L の塩酸を、pH = 0 の水溶液、1.0 mol/L の水酸化ナトリウムを pH = 14 の水溶液、純水を pH = 7 の水溶液として上記の反応剤に用いてよい。
pH を調整してほぼ中性にする過程では、ほぼ同量の塩酸、水酸化ナトリウムを加えればよいのだが、わずかでも一方が過剰になると、pH は中性領域から大きくずれてしまうので、この時には pH 試験紙か pH メータなどを用いないと、実際の実験ではうまくいかない。
(解答例)
(解答例)
問い 1.47 (発展1)を参照のこと。
pH = | pKa | - log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
(解答例)
まずは、定性的捉えておこう。
pH = | pKa | - log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
pH = | pKa | - log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
7.4 = | 6.1 | - log10 | [ H2CO3 ] |
[ HCO3- ] |
log10 | [ H2CO3 ] | = -1.3 |
[ HCO3- ] |
Ka = | [ H+ ] | [ A- ] |
[ HA ] |
= | [ H+ ] | × | [ A- ] |
[ HA ] |
(解答例)
Henderson-Hasselbalch 式を次のように変形して用いる。
pKa - pH = | log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
log10 | [ HA ] | = pKa - pH = - 0.4 |
[ A- ] |
Ka = | [ H+ ] | [ A- ] |
[ HA ] |
= | Cα ・ | Cα |
C(1-α) |
= | Cα2 |
(1-α) |
Ka = | Cα2 |
(1-α) |
= | Cα2 |
1 |
α2 = | Ka |
C |
(解答例)
ヒントの解説を参照せよ。
α ≪ 1 と近似すると、1 - α ≒ 1 とみなすことができ、
Ka = | Cα2 |
(1-α) |
= | Cα2 |
1 |
α2 = | Ka |
C |
pH = | pKa | - log10 | [ HA ] |
[ A- ] |
= | 3.76 | - log10 | 0.3 |
0.1 |