(解答例)
2-methyl-1-butene または 2-methyl-2-butene が生じる可能性がある。
(解答例)
(E)- および (Z)-3-methyl-2-hexene、2-ethyl-1-pentene、(E)- および (Z)-3-methyl-3-hexene の5種類。
(解答例)
アンチ付加なので、シクロアルケンに対しては、トランス体を与える。
(解答例)
上図のような反応機構で進行する。中間体のカルボカチオンが平面構造をもち、塩化物イオンの反応が面の上下から(ほぼ)等しい確率でおこるため、生成物に立体選択性がみられないと考えられる。
上図において、生成物中の2つのメチル基が、それぞれシス配置にあるものとトランス配置にあるものが生じている。
(解答例)
ブロモニウムイオンを経由するので(教科書 p221 図7.2を参照)、立体選択性としては、アンチ付加で臭素と水酸基が、隣接する炭素に付加する。位置選択性としては、より級数の高い炭素上に水酸基が置換する(マルコフニコフ配向)。
生成物の構造は下図のようになる。
反応機構を、図 7.2 にならいそれぞれ書いてみること。上のヒントにも述べたように、NBS は、それ自身が反応に直接関与するのではなく、臭素(Br2)を少量ずつ系中で発生する試薬である。
上図において、X は、水分子(H2O)で、酸素の孤立電子対が求核性を示す。生じるのは、プロトン化したアルコール(R-O+H2)なので、さらにプロトンを放出すると、中性のアルコール(R-OH)になる。
(解答例)
ブロモニウムイオンは、臭素が3員環で結合している2つの炭素のうち、よりカルボカチオンが安定化をうけるような炭素の方に正電荷が非局在化していると考えられる。すなわち、カルボカチオン中間体を仮定した時と同じ生成物を与える。
マルコフニコフ則は、カルボカチオンの安定性により位置選択性がでることを示すのだから、ハロヒドリン生成反応においても同じ配向性であると言える。
(解答例)
オキシ水銀化法では、マルコフニコフ配向性に従うから、3級や2級のアルコールが生じやすい。
(a) 1-pentene から 2-pentanol
1-pentanol を生じるためには、より不安定な1級のカルボカチオンを通る必要がある。
(b) 2-methyl-2-pentene から 2-methyl-2-pentanol
2-methyl-3-pentanol を生じるためには、より不安定な2級のカルボカチオンを通る必要がある。
(解答例)
下図で、赤矢印は「オキシ水銀化法」による水和で生じるアルコール、青矢印は「ヒドロホウ素化法」によって生じるアルコール。
(a) 2-methyl-2-hexanol
(b) 1-cyclohexylethanol
(解答例)
(a) 2-methylpentan-3-ol
(b) 1-cyclohexylethanol
(解答例)
(a) 3-methyl-1-butene
(b) 2-methyl-2-butene
(c) methylenecyclohexane
ヒドロホウ素化とそれに続く酸化によって得られるアルコール合成(逆マルコフニコフ配向)は青矢印で、オキシ水銀化法によるアルコール合成(マルコフニコフ配向)は、赤矢印で示した。
(解答例)
逆マルコフニコフ配向での水和により、2,4-dimethylcyclopentanol の2種の立体配置異性体が得られる。
二重結合の炭素は、sp2 混成をしており、平面形3配位の構造を持つ。その面の上下(すなわち、π 電子のでている方向)からボラン(またはジアルキルボラン)がシン付加したのち、立体を保持したままホウ素が水酸基に置き換えられる。この際のメカニズムの詳細については、7.9(a) の解答例を参照のこと。
また、同じ出発物質に対して、カルボカチオン経由の水和反応、またはオキシ水銀化法では、いずれもマルコフニコフ配向での水和となり、1,3-dimethylcyclopentanol の2種の立体配置異性体が得られる。
(解答例)
(a) 1,1-dichlorospiro[5.2]octane
(b) 1-isobutyl-2-methylcyclopropane
(or 1-methyl-2-(2-methylpropyl)cyclopropnane )
出発物質の 5-methyl-2-hexene の立体が E 体だった場合は、生成物が trans 体に、逆に出発物質が Z 体だった場合には生成物が cis 体になる。
(解答例)
(a) 2-methylpentane
(b) 1,1-dimethylcyclopentane
(解答例)
(a) 1-methylcyclohexene から。
1-methylcyclohexane-1,2-diol
この反応では、シン付加のみがおきるという意味で立体選択性はあるが、その付加が面のどちらからおきるかという面選択性はない。そのため、上で示したような2つの光学異性体の混合物になるはずである。
(b) 2-methyl-2-pentene から。
2-methylpentane-2,3-diol
この反応でも面選択性はない。そのため、上図中に、* の記号で表した不斉炭素(4つの結合がいずれも異なる炭素)の持つ4本の結合同士の幾何配置(立体化学)は、あり得る2種類の両方が等量ずつ生じる(ラセミ体)。(←詳細は、9章を参照のこと)
(c) 1,3-butadiene、または、2-butene-1,4-diol から。
1,2,3,4-butanetetraol
酸化数=1 | 酸化数=2 | 酸化数=3 | 酸化数=4 | |
---|---|---|---|---|
(1級アルコール) | CH3OH | H2C=O | HCO2H | H2CO3 ( = CO2 + H2O ) |
1級アルコール | CH3CH2OH | CH3CHO | CH3CO2H | - |
2級アルコール | (CH3)2CHOH | (CH3)2C=O | - | - |
3級アルコール | (CH3)3COH | - | - | - |
(解答例)
(a) 6-oxoheptanoic acid
(b) 6-oxoheptanal
(解答例)
(a) 2-methylpropene をオゾン分解。
(b) 3-hexene (E 体、または Z 体のどちらでも)をオゾン分解。
なお、問題に「2 mol の」プロパナールを与えるとあるが、この「2 mol の」の部分がなくても同じ答えである。
(解答例)
(a)
methyl vinyl ether
(b)
1,2-dichloroethene の幾何異性体(シス/トランス)は、どちらでもよい。
(解答例)
なお、ラジカル種同士が結合して単結合をつくる反応も、停止段階のひとつである。
上の2つの図において、矢印はすべて「電子対」ではなく「1つの電子」の動きを表すので、矢印の頭は斜め線が片方にしかでていない矢印(カタカナの「レ」のような形)であることに注意すること。
(解答例)
(解答例)
(i) 酸性 KMnO4 では、ケトンとカルボン酸を、(ii) O3 と、引きつづいての Zn/AcOH の処理では、ケトンとアルデヒドを生じる。
(a) 2,5-dimethylhept-2-ene
acetone とともに、酸性 KMnO4 処理では 3-methylpentanoic acid を、Zn/AcOH 処理を伴うオゾン開裂では 3-methylpentanal を与える。
(b) 3,3-dimethylcyclopentene
酸性 KMnO4 処理では 2,2-dimethylpentanedioic acid を、Zn/AcOH 処理を伴うオゾン開裂では 2,2-dimethylpentanedial を与える。
(解答例)
(a) 2,3-dimethylpentan-3-ol は3級のアルコールで、水和によりこのアルコールを潜在的に与えることができるアルケンは3種存在する。
3,4-dimethylpent-2-ene は、オキシ水銀化法で3級のアルコール 2,3-dimethylpentan-3-ol を与える。ヒドロホウ素化反応では、2級のアルコール 3,4-dimethylpentan-2-ol を与える。
2-ethyl-3-methylbut-1-ene は、やはりオキシ水銀化法で3級のアルコール 2,3-dimethylpentan-3-ol を与える。ヒドロホウ素化反応では、1級のアルコール 2-ethyl-3-methylbutan-2-ol を与える。
最後に、2,3-dimethylpent-2-ene は、二重結合の炭素がどちらも2つのアルキル置換基をもつから、2種の3級アルコールの混合物を与えてしまう。このため、2,3-dimethylpentan-3-ol を得る目的では、好ましくない。
(b) 3,3-dimethylcyclopentanol は、潜在的には2種のアルケンから合成可能である。
4,4-dimethylcyclopentene は、二重結合炭素のどちらに水酸基が結合しても同じアルコール 3,3-dimethylcyclopentanol を与えるのに対し、3,3-dimethylcyclopentene では、水和により、2種のアルコール2種類を与えてしまう。後者から得られる2種のアルコールはどちらも2級なので、ヒドロホウ素化反応、オキシ水銀化反応のいずれを用いても位置選択性は(ほとんど)生じないと考えられる。
(解答例)
下の写真を見てわかるように、2つのメチル基は二重結合を覆うように突き出している。そのため、ボランが二重結合に求電子的に反応しようとするとき、立体的に空いているほうからのみ近づくことができる。そのため、一方の生成物のみが得られる立体特異的な反応である。
このアルケンの分子模型の写真(side view and top view)
(解答例)
(a) 接触水素添加。位置特異性:なし。立体特異性:シン付加(ただしこの問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらないので考慮しなくてもよい)。生成物は ethylbenzene 。
(b) 臭素化。位置特異性:なし。立体特異性:アンチ付加(3員環であるブロモニウムイオンを経由するため。この問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらない)。生成物は、(1,2-dibromoethyl)benzene
(c) HBr の付加。位置特異性:マルコフニコフ付加(より安定なカルボカチオン中間体を経由する)。立体特異性:なし(この反応で中間体となるカルボカチオンは、sp2 混成で平面型3配位であるから、その炭素の立体的な情報を失う。詳細は、11章「SN1 反応」を参照のこと。生成物は、(1-bromoethyl)benzene
(d) オスミウム酸化。位置特異性:なし。立体特異性:シン付加(ただしこの問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらないので考慮しなくてもよい)。生成物は、1-phenyl-1,2-ethanediol
(e) 接触重水素添加。位置特異性:なし。立体特異性:シン付加(ただしこの問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらないので考慮しなくてもよい)。生成物は ethylbenzene 。
生成物の構造を下にまとめてしめす。
(解答例)
(a) 2-methylhexane
2-methyl-1-hexene, 2-methyl-2-hexene, 2-methyl-3-hexene
5-methyl-2-hexene, 5-methyl-1-hexene から合成できる。
(b) 1,1-dimethylcyclohexane
3,3-dimethylcyclohexene, 4,4-dimethylcyclohexene から合成できる。一番右のように、炭素から5本の結合を書いてはいけない。
(c) 2,3-dibromo-5-methylhexane
5-methyl-2-hexene から合成できる。
(d) 2-chloro-3-methylheptane
3-methyl-1-heptene から合成できる。3-methyl-2-heptene からは、より安定な3級のカルボカチオンを経由し、3-chloro-3-methylheptane を与える。
(e) 2-pentanol
1-pentene から合成できる。2-pentene からは、同じ程度に安定な2級のカルボカチオンが2種類生じうるから、2-pentanol と同時に 3-pentanol を与える。
(解答例)
(a)
(b) (a)と同じ出発物質と反応させれば、
cyclohexene との反応なので、
(c)
位置選択性は逆マルコフニコフ配向、立体選択性はシン。
(d)
位置選択性はマルコフニコフ配向、立体選択性はシン。
(解答例)
(a) 1) OsO4, 2) NaHSO3, H2O など。
冷アルカリ性 KMnO4 でも同じ反応をする。
(b) 1) BHR2, 2) H2O2, OH- (ヒドロホウ素化反応)、または、
1) Hg(OAc)2, H2O, 2) NaBH4 (オキシ水銀化法)など。
(位置特異性を考えなくて良いから、どちらの反応条件も用いることができる。)
(c) CHCl3, NaOH (ジクロロカルベンを生じさせる条件。)
(d) H2SO4, 加熱 (カルボカチオンを生じさせ、脱プロトン化:二重結合への水和反応の逆反応)、または、
POCl3 / pyridine (ピリジン溶媒中、リン酸エステルに変換し、そのまま脱離させる:教科書17章、17.7節にこの反応条件が書いてあります。)、または、
1) TsCl, 2) base (トシル化後、塩基による脱離反応)などが用いられる。
(e) 1) O3, 2) Zn/AcOH (オゾン酸化。)
(f) 1) BHR2, 2) H2O2, OH- (ヒドロホウ素化反応:逆マルコフニコフ配向の反応なので。)
ただし、(b) および (f) の答えにおいて BHR2 は、ボラン BH3 または、9-BBN など。
9-BBN(9-BoraBicyclo[3.3.1]Nonane)は、cyclooctadiene とボランにより生成される。
(解答例)
水酸基と重水素(-D)が、シクロペンタン環の同じ面側に結合し、trans-2-methylcyclopentanol の重水素化体を生じる。
(解答例)
2,3-dimethyl-2-butene
(解答例)
5-decene
(解答例)
(a) 1-butene, 末端の =CH2 は、炭酸を与える。炭酸は、二酸化炭素を水に溶かして生じる酸であるから、二酸化炭素と同等として考えてよい。
(b) 2-methyl-2-hexene
(c) isopropylidenecyclohexane
(解答例)
(a) 化合物 A(分子式 : C10H16)の不飽和度は、3と計算される。ベンゼン環は、それだけで不飽和度が4必要であり、この分子中にはない。また、与えられた条件より、接触水素化される二重結合が1箇所だけであるから、あとの不飽和度2は、環の構造に由来するはずである。
(b) オゾン酸化でジケトンを生じることから、4置換のアルケンであるが、このことから最低6個の炭素を必要とする。化合物 A、B の構造は、これらのことと、「環を2つもつこと」「ジケトン B が対称であること」などを考慮すると、化合物 A の構造として、次のようないくつかが可能性として考えられる。(歪みの大きい3員環や4員環は除いて考えた。また、ジケトン B の「対称であること」の意味のとり方によっては、一番右の構造のように、「2つのカルボニル基は異なるが、それぞれカルボニル基の左右のアルキル基は対称となる」ものも考えることができるだろう。(これ以外のものからは、「2つのカルボニル基が同じ環境になるようなもの」である。もちろん、これら両方の条件を満たすものもある。)
(c) 上の左端の化合物を例として、反応式を示す。
(解答例)
化合物 A(分子式 : C6H12)の不飽和度は、1と計算される。接触水素化により1モルの水素を吸収するから、この不飽和度は二重結合に由来する。
酸性 KMnO4 での処理により、炭素数6の炭化水素、化合物 A は、2つのフラグメントになり、その一方は、炭素数3のプロパン酸である。従って、もう一方のフラグメント、化合物 C も炭素数が3である。化合物 C はケトンであると指定しているから、炭素数を併せて考慮すると、acetone のみが該当する。
以上を元に化合物 A の構造が確定するので、これをオスミウム処理して生じるジオール B の構造も対応して決まる。
反応式を以下に示した。
(解答例)
オゾン酸化と、引きつづいての亜鉛処理によって、1,3-cyclopentadiene からは butanedial と ethanedial の2種のジアルデヒドが生じる。これに対し、1,4-cyclopentadiene からは propanedial のみが生じる。
酸性 KMnO4 を用いると、それぞれ対応するジアルデヒドの代わりにジカルボン酸が得られる。
(解答例)
化合物 B の分子式は C10H16 の不飽和度は、3と計算される。オゾン開裂により2つの対称なフラグメント(シクロペンタノン)に分かれるということは、化合物 B には二重結合が1箇所のみ。すなわち、残りの不飽和度2は環構造に由来することになる。→ 化合物 B は、環を2つもち、二重結合で対象なアルケン, bicyclopentylidene 。
化合物 A は、希硫酸により脱水できるアルコール。主生成物(より多置換のアルケン)として、化合物 B を与える。
以上を考えると、次のように書くことができる。
A: bicyclopentyl-1-ol ( or 1-cyclopentylcyclopentanol)
B: bicyclopentylidene
(解答例)
反応機構を次図に示した。
ここで、反応中間体はカルボカチオンである。cyclohexene より生じる2級のカルボカチオンより、1-methylcyclohexene より生じる3級のカルボカチオンの方がずっと安定である。これを考慮して、反応のポテンシャルエネルギー曲線を作成すると、定性的に次図のようになると考えられる。
原料のアルケンも、多置換であるほうが若干安定であることを反映させて作図した。反応中間体が安定であるということは、反応の活性化エネルギーが小さいということを示す。すなわち、反応が速く進行する。したがって、HBr の極性付加は、1-methylcyclohexene に対しての反応の方が、cyclohexene に対してよりも速い。
(解答例)
(a)
本来、マルコフニコフ則の位置特異性を持つが、この反応では対称なため考えなくてよい。シス、トランスのいずれの 2-butene に対しても、プロトンが付加して生じるカルボカチオンは、もともと二重結合だったところが単結合となり自由回転できるから、区別のない同一のカルボカチオンを生じる。
(b)
本来、逆マルコフニコフ則の位置特異性を持つが、この反応では対称なため考えなくてよい。ボラン BH3 の付加は、シンの立体特異性であるが、シス、トランスのいずれの 2-butene に対しても、生成物は(付加した炭素の一方が CH2 となるから)同一である。(図では示していないが、二重結合の面のどちらから付加が起きるかについての選択性(面選択性)は無いから、生成物は、ホウ素の結合した不斉な炭素に由来する光学異性体の等量混合物となる。)
ボラン BH3 は、1分子で3分子のアルケンと反応することができるので、A の構造は上図のようになる。
BR3 の、塩基性の過酸化水素での処理では、ホウ素上の酸化とホウ素上のアルキル基が酸素上に転位することにより、ホウ酸エステル B(OR)3 を生じる。これが加水分解されると、アルコール ROH が3分子と、ホウ酸 B(OH)3 を生じる。
(c),(d)
カルベンの付加は、シンの立体特異性で進行する。従って
cis-2-butene からは、cis-1,2-dimethylcyclopropane のみが生じ、
trans-2-butene からは、trans-1,2-dimethylcyclopropane のみが生じる。
(解答例)
(a),(b)
(c) 臭素の付加と同じようにマルコフニコフ配向性をもつならば、より置換基の多いほうの炭素(1-butene への付加の場合では、2級の炭素:3員環の中間体において、よりカルボカチオン的性質の強い炭素)に付加するのが求核種であるから、N3 の部分の方が負に帯電していることがわかる。
このことは、共鳴構造式からも理解できる。共鳴構造式において1番目と3番目の窒素上に負の形式電荷がある。このことは1番目と3番目の窒素が(ともに)負に帯電していることを示す。
(解答例)
1,5-cyclooctadiene
(解答例)
上のヒントとも対応してみてください。
左端は、diiodomethane を用いた Simmons-Smith 反応によって生じる bicyclo[4.1.0]heptane
中央および右端は、1,1-diiodoethane を用いた Simmons-Smith 反応によって生じる 7-methylbicyclo[4.1.0]heptane
7-位のメチル基が、シクロプロパン環を基準面として考えて、シクロヘキサンとシス側(青色で表現)に出ているものと、トランス側(赤色で表現)に出ているものとが区別される。
(解答例)
以下に、与えられた反応条件での主生成物の構造を示す。別の観点から、示された生成物を与えるような反応条件についても考えてみるとよい勉強になる。(ただし、ここまでで学習していない内容を必要としたり、多段階の反応が必要な場合もありうる。)
(a) 次のように反応し、マルコフニコフ配向性で生成物を与える。もし、問いのような生成物が必要な場合は、逆マルコフニコフ配向での付加が必要であるから、ヒドロホウ素化反応をつかって 3-methyl-2-butanol としたのち、ハロゲン化物へ変換するなどしなくてはならない。
(b) 次のように反応し、シンの立体化学で付加反応がおこる。もし、問いのようにトランス体の 1,2-ジオールが必要であれば、過酸などを用いてエポキシドとしたのち、水酸化物イオンによる求核的な環開裂反応をさせるなどする。(エポキシドについては、教科書18章を参照のこと)
(c) 図のように、モルオゾニド、オゾニドを経由して2分子の 1,3-propanedial を生成する。
(d) ヒドロホウ素化反応は、次の機構で示されるような多段階の反応であるが、トータルとしてシンの立体化学で付加反応がおきる。従ってメチル基と水酸基は互いにトランスの位置関係のものしか得られない。もし、問いのような立体のアルコールが必要な場合は、水酸基をトシル化するなどして脱離基に変換したのち、水酸化物イオンによる SN2 反応をするなどしなければならない。(求核置換反応のひとつである SN2 反応については、教科書11章を参照のこと)
(解答例)
(a) 水和により 2-pentanol を与えるアルケンとしては、1-pentene と 2-pentene の2種類が可能性として考えられるが、ヒドロホウ素化では、1-pentene からは 1-pentanol のみが生じ、2-pentene からは、どちらの炭素の置換の度合いもおなじだから、2-pentanol と 3-pentanol の混合物が得られる。
(b) 水和により 2,3-dimethyl-2-butanol を与えるアルケンとしては、2,3-dimethyl-1-butene と 2,3-dimethyl-2-butene の2種類が可能性として考えられるが、ヒドロホウ素化では、2,3-dimethyl-1-butene からは 2,3-dimethyl-1-butanol のみが生じる。2,3-dimethyl-2-butene からは、どちらの炭素の置換の度合いもおなじだが、左右対称だから、2,3-dimethyl-2-butanol のみが生じる。
(c) 水和により 2-methylcyclohexanol を与えるアルケンとしては、1-methylcyclohexene と 3-methylcyclohexene の2種類が可能性として考えられるが、ヒドロホウ素化では、1-methylcyclohexene からは、2-methylcyclohexanol のみを生じるが、シンの立体化学で付加するはずだから、トランス体となる。3-methylcyclohexene からは、どちらの炭素の置換の度合いもおなじだから、2-methylcyclohexanol と 3-methylcyclohexanol (どちらも、シス/トランスの混合物)の両方が得られる。
(d) 水和により 1-methylcyclohexanol を与えるアルケンとしては、methylenecyclohexane と 1-methylcyclohexene の2種類が可能性として考えられるが、ヒドロホウ素化では、methylenecyclohexane からは、2-cyclohexylethanol のみを生じる。1-methylcyclohexene からは、2-methylcyclohexanol (トランス体)のみが得られる。
(解答例)
(a) Simmons-Smith 反応を用いる。ethene を用いる場合、1,1-diiodo-2-methylpropane との反応になる。3-methyl-1-butene を用いる場合、1,1-diiodomethane との反応になる。後者が標準的な反応である。
(b) dichlorocarbene との反応なので、CHCl3-KOH の系を用いる。アルケンとしては、cycloheptene を用いればよい。
(解答例)
いずれも二重結合での反応である。
A) 臭素の付加は、アンチの立体化学で進行する。これは、ブロモニウムイオン中間体を経由するからである。
B) 臭化水素の付加は、マルコフニコフ則に従った位置選択性で進行する。これは、カルボカチオン中間体を経由するからである。
C) 四酸化オスミウムを用いた水酸化は、シンの立体化学で進行する。これは、環状オスミウム酸エステル中間体を経由するからである。
D) ヒドロホウ素化反応では、逆マルコフニコフ則に従い水和が進行する。また、反応の立体化学はシン付加となる。
E) Simmons-Smith 反応ではシクロプロパン環ができる。
(解答例)
不飽和度は、1。酸化開裂が起きる位置、1箇所のみ二重結合をもつ。
CH3(CH2)12CH=CH(CH2)7CH3 → CH3(CH2)12CO2H + HOC(=O)(CH2)7CH3
(解答例)
(解答例)
(解答例)
(解答例)
(解答例)
ブロモニウム中間体に対し、水が(分子間の)求核反応するとブロモヒドリンを生じるが、分子間の反応よりも(5、6員環を生じるような、”ちょうど良い位置”に分子内の求核グループである水酸基がある場合は)分子内の反応の方がずっと速く起きる。このためブロモヒドリンは生じずに、2-(bromomethyl)tetrahydrofuran のみを生じる。
ブロモニウムイオン中間体に対する求核反応は、(正電荷をもつ3員環なので、プロトン化をうけたエポキシドなどと同じように)環がひらいて完全なカルボカチオンになっているわけではないが、安定なカルボカチオンと同じ位置、すわなちマルコフニコフ配向にしたがってより置換基の多い方の炭素、に求核攻撃が起きることに注意すること。
(解答例)
代表的ないくつかの反応のみを示す。
アルケンは、臭素の付加反応をする。アルカンやベンゼンはこの反応をしない。従って、薄い臭素水(臭素による赤褐色を示す)を加えてよく振り混ぜる。アルケンは反応して臭素水が脱色される(臭素が付加反応により消費される)。
希過マンガン酸カリウムの溶液(濃度により、深紫色からピンク色)を加えてよく振り混ぜる。二重結合が過マンガン酸カリウムにより酸化(酸化開裂、または、1,2−ジオールまでの酸化)をうけて、過マンガン酸イオンが消費されることにより脱色される。
また、炭素に担持させたパラジウム触媒を用い、水素の吸収がおきるかどうかを確認してもよい。水素の体積が減じれば、水素の吸収が起きていることになるから、分子内にアルケンがあることがわかる。
(解答例)
クロロホルムからのジクロロカルベンの生成は、クロロホルムの水素の酸性度が高い(電子吸引性基である塩素の結合により、その共役塩基であるカルボアニオン、トリクロロメタニドアニオンが安定化されるため。)ことに由来する。
トリクロロ酢酸イオン trichloroacetate ion は、脱炭酸により、同様に安定なトリクロロメタニドアニオンを生成することができる。この脱離反応において、脱離基は安定な中性分子である二酸化炭素である。
トリクロロメタニドアニオンから塩化物イオンの脱離によりジクロロカルベンが生じる反応は、クロロホルム由来、トリクロロ酢酸塩由来のどちらの場合も共通である。
(解答例)
(a) (22-16)/2 = 3 だから、不飽和度は3。
(b) 水素を2モル吸収する。従って、不飽和度のうち1は、環によるものである。また、オゾン酸化により分子の2箇所が切れて、ジカルボニル化合物が2つできている。従って、二重結合は2箇所あったことになる。
(c)
(解答例)
1,2-ジオールの過ヨウ素酸から生じる環状過ヨウ素酸エステル中間体は、炭素−酸素−ヨウ素−酸素−炭素の5員環である。cis-1,2-diol の2つの水酸基は環に対して同じ方向にでているから、容易に5員環の中間体をつくることができる。これに対し、trans-1,2-diol の2つの水酸基が環の上下にでているから、この酸素を含む5員環中間体を形成するためには、炭素の6員環に歪みが生じる。より不安定な(=エネルギーの高い)中間体を経由する過程は、活性化エネルギーが高いということになるわけで、その反応の速度は遅くなる。
過ヨウ素酸エステル中間体の骨格の分子模型図を示す。水素と、ヨウ素から結合した環以外の酸素は省略して示した。赤が酸素、それ以外が炭素およびヨウ素。
ノルボルナン骨格(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)の中の炭素の6員環部分は舟型の配座だから、cis-体の2つの水酸基は同方向(2つの水酸基の2面角が 0 度)に向いて出ている。従っていずれの環にも余分な歪みを生じずに5員環のエステル中間体を形成することができる。
trans-1,2-diol の2つの水酸基は、環の上下にでている。炭素の6員環部分に舟型の配座を固定したままでは、2つの水酸基は2面角が 120 度で突き出すから、5員環のエステル中間体を形成することができない。2つの水酸基の結合した炭素−炭素結合の軸にそってねじれが生じることにより、2つの水酸基の2面角が小さくなり、はじめて5員環のエステル中間体を形成することが可能となる。
(解答例)
類似の生成物を与える反応として整理しておくならば、アルケンは臭素の付加の中間体としてブロモニウムイオンを経由し、アンチ付加によるトランス体のみを生じる。一方、単純な平面型のカルボカチオン中間体を経由するような、アルケンに対する HBr の付加反応では、立体選択性が生じない。
プロトンの付加の段階では、その反応の位置により考えられる2種のカルボカチオンのうち、より安定なカルボカチオンのみが生じる。ここで、アルケンにプロトンが付加したとき、臭素の結合した炭素の隣接した位置に生じるカルボカチオンは、臭素原子のもつ孤立電子対が空のp軌道と相互作用して3員環のブロモニウムイオンを生じる(上図、青枠)。そのため、同じように第2級であるけれども、臭素から遠い位置に生じるカルボカチオン(上図、右のカッコ内の上部)よりも安定である。
このブロモニウムイオンからは、アルケンへの臭素の付加がアンチの立体で進行するのと同様に、trans-1,2-dibromocyclohexane のみを生じる。
(上図において、より不安定なカルボカチオンからは、ヒドリドシフトにより、より安定なカルボカチオンに転位することができるが、そもそも、右上のカッコ内に示したようなカルボカチオンが生じていると考える必要はないし、そのような不安定なカルボカチオンの生成を仮定することは、単一の生成物を与えるという実験事実に反する。)
(解答例)
出発物質である置換ドデカトリエン酸のエステル、 methyl 3,7,11-trimethyldodeca-2,6,10-trienoate には3箇所の二重結合があるが、2 位の二重結合(次図中、赤で囲み)は隣接した位置に電子吸引性基であるエステル残基が結合しているから、π 電子密度は他の2つの二重結合よりも下がっていると考えられる。6 位、10 位の二重結合は電子的にはほぼ等価であると考えられるが、6 位の二重結合(水色での囲み)は分子の中央近くにあるのに対し、これに比べて、10 位の二重結合(赤色での囲み)は分子の末端近くにあるから、立体的に邪魔が小さいと予想され、ここで求電子的な反応が起きると考えることができる。
従って、オキシ水銀化法と同様に、酢酸水銀が二重結合に対して求電子的に付加してマーキュリニウムイオン中間体を生じるところから、一連の反応が開始される。
生じた3員環のマーキュリニウムイオン中間体は、より級数の多い方の炭素(11 位の炭素)上で求核攻撃を受ける。分子内の二重結合が求核種としてはたらき、6員環を形成してカルボカチオン(上の反応機構の図、上段右端)を生じる。更に 2 位の二重結合が求核種としてはたらいて、このカルボカチオンに求核付加すると、デカリン骨格をもつカルボカチオン(上の反応機構の図、下段右端)を生じる。このカルボカチオンにおいて、青色で示した 2 位の水素は、隣接位置にエステルのカルボニル基がある。つまり、カルボニル基の β 位の水素であるから、他の位置の炭素に結合した水素よりもずっと酸性度が高い。この酸性水素が脱離して二重結合を生じ、問いに与えられた最終生成物である水銀化合物(下段中央)を生じる。
オキシ水銀化法の最後の段階で、有機水銀化合物を NaBH4 を用いたヒドリド還元してやることで、炭素−水銀結合を、炭素−水素に変換することが可能である。分子内のエステルや二重結合は NaBH4 では還元されないから、2,5,5,8a-tetramethyl-3,4,4a,5,6,7,8,8a-octahydronaphthalene-1-carboxylic acid methyl ester (下段左端)の構造へ容易に誘導することも可能であると予測できる。
(解答例)
この問題では生成物が対称な構造であるから、位置特異性、立体特異性ともに関係しないが、オキシ水銀化法と同様、マルコフニコフ配向性に従った位置特異的な反応であり、また付加は全体としてシンの立体化学で進行する。
(解答例)
アルケンへのプロトンの付加によりカルボカチオンを生じる過程で、プロトンはルイス酸として働いていると捉えることができる。また、この反応は、ヒドロホウ素化反応のはじめの段階、すなわちアルケンに対し、ルイス酸性をもつ BH3 が配位していく過程と類似であると考えることができる。
反応温度の高い条件では、この BH3 の二重結合への配位(付加)が可逆であると考えることができるとすると、次の図に示すような形で二重結合が転位することが可能になる。
次に、この転位が何故おきるのかについても説明しなければならない。上の過程が可逆で、それにより平衡が成立したとしても、2-methyl-2-pentene からの転位により生じるアルケン、4-methyl-2-pentene および 4-methyl-1-pentene は、それぞれアルキル2置換、アルキル1置換のアルケンであるから、アルキル3置換の 2-methyl-2-pentene に比べて不安定であるから、アルケンの安定性のみを考えた場合、出発原料である 2-methyl-2-pentene が主となるはずだからである。
ヒドロホウ素化反応における中間体、有機ホウ素化合物 organoborane の安定性について考えると、ヒドロホウ素化反応においての位置選択性が、より立体障害の小さい炭素にホウ素が結合したことからも類推されるように、第1級の有機ホウ素化合物が一番安定である。この観点から見ると、上図中で organoborane 3 が一番安定である。従って、上図に示された3つのアルケンと3つの有機ホウ素の間で平衡が成立している中から、この organoborane 3 を経由するヒドロホウ素化反応が優先して進行するようになり、4-methyl-1-pentanol を主として生成する。
(解答例)
(a) アルケンへの Br2 の付加は、アンチの立体化学で進行する。アルキンに Br2 が付加すると、trans-体の 1,2-ジブロモアルケンが生じる。(もう1等量の臭素が付加すると、1,1,2,2-テトラブロモ体が生じる。)
(b) Pd / C を触媒とした接触水素化では、アルキンは2等量の水素を吸収してアルカンまで還元される。Lindlar 触媒を用いると、1等量の水素との反応でアルケンを生じる。接触水素化反応はシンの立体化学で進行するから、末端の位置でないアルキンからはシス体のアルケンとなる。
(c) HBr の付加は、アルケンの場合と同様、アルキンに対してもマルコフニコフ配向性の位置特異性で進行する。
(解答例)
オスミウム酸エステルの形成を経由するヒドロキシ化は、シンの立体化学で進行する。従って、2-butene のシス体から出発した場合とトランス体から出発した場合では、生成物の立体が異なる。生成物の Newman 投影式(反応式に書いた構造を、右からの視点で示したもの)を併せて示した。
(解答例)
(a) 2,5-dimethyl-3-hexyne
(b) 3,3-dimethyl-1-butyne
(c) 2,4-octadien-6-yne
, octa-2,4-dien-6-yne
どちらから数えても同じ番号となる場合は、二重結合を優先して番号をつける。
多い間違い 2,4-octadiene-6-yne 数字を挟んでいるため見落としがちだが、次に母音ではじまる「yne」がつづくため、e を落とさなければいけない。
(d) 3,3-dimethyl-4-octyne
(e) 2,5,5-trimethyl-3-heptyne
(f) 6-isopropylcyclodecyne
(解答例)
まず、炭素数6の飽和炭化水素、hexane の構造異性体
hexane, 2-methylpentane, 3-methylpentane
2,2-dimethylbutane, 2,3-dimethylbutane
のそれぞれについて、三重結合を導入することを考える。
hexane 由来のものとして
1-hexyne, 2-hexyne, 3-hexyne
2-methylpentane, 3-methylpentane 由来のものとして
4-methyl-2-pentyne, 4-methyl-1-pentyne, 3-methyl-1-pentyne
2,2-dimethylbutane 由来のものとして
3,3-dimethyl-1-butyne
あるいは、別の方法
主鎖が hexyne であるもの
1-hexyne, 2-hexyne, 3-hexyne
主鎖が pentyne であるもの
3-methyl-1-pentyne, 4-methyl-1-pentyne, 4-methyl-2-pentyne,
主鎖が butyne であるもの
3,3-dimethyl-1-butyne
2-butyne を主鎖にしてしまうと、側鎖がもてない。(三重結合の sp 炭素は置換基を1つしか持たない。1,4-位の炭素にアルキル基が結合している場合は、主鎖が butyne より長くなる。)
(解答例)
(a)
1-pentyne からは、1,1,2,2-tetrachloropentane が生じる。
(b)
ethynylcyclopentane からは、ビニル型カルボカチオンを経由して (1-bromovinyl)cyclopentane が生じる。
(c)
2-heptyne からは、安定性の等しい2種のビニル型カルボカチオンを経由するので、2-bromo-2-heptene と 3-bromo-2-heptene の混合物を与える。
(解答例)
内部アルキンでは、反応中間体のビニル型カルボカチオンで、三重結合のどちらに(形式的な)正電荷が生じても、その安定性に差がないから、一般的には反応混合物を与えることになる。
(a)
4-octyne は左右対称なアルキンだから、反応の位置に関係なく同じ生成物となる。
この図では、水銀イオンによる触媒の機構を、教科書の図 8.3 を参考にして示した。水銀がプロトンで置換されて生じるエノールは、互変異性化によりケト体を生じる(上図、枠内)。
この互変異性化は、酸、塩基のどちらによっても触媒されるが、上図では酸触媒での機構を示した。エノールにプロトンが付加すると水酸基の結合した炭素上に正電荷をもつカルボカチオン(最下段、右)が生じる。このカルボカチオンは、プロトン化されたケトン(最下段、左)と共鳴の関係にある。
(b)
2-methyl-4-octyne は左右非対称な内部アルキンだから、2種のケトンの混合物を与える。
(解答例)
(a)
1-pentyne は末端アルキンだから、ただ1種の生成物を与える。直接の生成物は 1-penten-2-ol だから、このエノールが互変異性化して 2-pentanone を生じる。
2-pentyne も、最終的に 2-pentanone を生じるが、3-pentanone との混合物を与える。
(b)
(a) でも述べたように、2-pentyne は、2-pentanone と 3-pentanone の混合物を与える。
水和とそれにつづく互変異性化によって 3-pentanone のみを選択的にあたえるアルキンは存在しない。
(解答例)
(a)
(b)
(解答例)
(a)
(b)
(解答例)
原料となるアルキンは、生成物のアルケンの二重結合の位置がそのまま三重結合になっているもの。リチウム-アンモニア還元では熱的に安定なトランス体を与え、 Lindlar 触媒を用いた接触水素化では反応がシン付加で進行するからシス体を与える。
(a) 2-octyne を Li/NH3 の条件で還元する。
(b) 3-heptyne を Lindlar 触媒を用いて接触水素化する。
(c) 3-methyl-1-pentyne を還元する。条件は、 Li/NH3 を用いても、 Lindlar 触媒を用いた接触水素化でも、どちらでもかまわない。
(解答例)
(a) ethynylbenzene (phenylacetylene)
(b) Heptacosa-9,18-diyne
(解答例)
この選択肢の中では、(b) のみがアセトンからプロトンを引き抜く。
(発展)(解答例)
(a) 2-hexyne
pentyne + bromomethane, propyne + bromopropane の2通りが考えられる。
(b) 2-methyl-3-hexyne
3-methyl-1-butyne + bromoethane の組み合わせが適当である。1-butyne + 2-bromopropane の組み合わせでは、第2級のハロゲン化アルキルなので適用できない。
(c) prop-1-ynylcyclohexane
ethynylcyclohexane + bromomethane の組み合わせが適当である。propyne + bromocyclohexane の組み合わせでは、第2級のハロゲン化アルキルなので適用できない。
(解答例)
プロピンから生じさせたアセチリドアニオンを求核種としてブロモメタン、またはヨードメタンと反応させて 2-butyne を得る。この後、Lindlar 触媒による接触水素化反応で、シン付加により三重結合を二重結合に還元する。
(解答例)
(a) butanoic acid
対称なアルキンの酸化的開裂により、2分子のカルボン酸を得ることができる。
(b) cis-4-octene
Lindlar 触媒を用いた接触水素化反応で、シン付加によりシス体のアルケンが得られる。
(c) 4-bromooctane
cis- または trans-4-octene に HBr を付加させればよい。( trans- 体は、液体アンモニア中のリチウムによる還元で得られる。)
(d) 4-octanol
cis- または trans-4-octene に水和すればよい。上図では酸性水溶液中の反応として描いたが、この水和では左右対称だから位置選択性について考慮しなくてよいから、オキシ水銀化法( 1) Hg(OAc)2, H2O, 2) NaBH4 )、ヒドロホウ素化法( 1) BH3, 2) H2O2, -OH )のいずれを用いてもよい。
(e) 4,5-dichlorooctane
cis- または trans-4-octene に Cl2 を付加させればよい。
(解答例)
(a) decane
末端アルキン、内部アルキンのいずれも、パラジウムなどを触媒とした接触水素化反応でアルカンを与えるから、アセチレンから、アセチリドアニオンのアルキル化で炭素数10のアルキンを合成すればよい。アセチレンと 1-bromooctane の反応により末端アルキンを与える過程が一番反応段階数が少なくて済む。
(b) 2,2-dimethylhexane
5,5-dimethylhex-1-yne, 5,5-dimethylhex-2-yne, 2,2-dimethylhex-3-yne のいずれもパラジウムなどを触媒とした接触水素化反応で合成することができるが、アセチリドアニオンのアルキル化反応では用いることができるハロゲン化アルキルは第1級のものに限られるから、2,2-dimethylhex-3-yne はこの方法で合成することは出来ない。
(c) hexanal
末端アルキンを、逆マルコフニコフ配向性で水和すると 1-alken-1-ol が生じる。これはケトエノール互変異性化反応によりアルデヒドを与える。従って、1-hexyne をヒドロホウ素化法で水和すればよい。
(d) 2-heptanone
末端アルキンを、マルコフニコフ配向性で水和すると 1-alken-2-ol が生じる。これはケトエノール互変異性化反応によりメチルケトンを与える。従って、1-heptyne を硫酸水銀触媒の下で水和すればよい。
内部アルキンは、ヒドロホウ素化法による水和でも、硫酸水銀触媒による水和でも(2つの sp 炭素の級数に差がないから)反応に位置選択性は出ない。このため、2-heptyne は、いずれの方法によっても 2- および 3-heptanone の混合物を与える。合成の方法としては(他に選択肢の無い限り)好ましくない。
(解答例)
(i) が Lindlar 触媒による接触水素化反応での生成物であるアルケン、(ii) が硫酸水銀触媒によるマルコフニコフ配向性での水和で得られるビニルアルコールのケト−エノール互変異性化で得られるカルボニル化合物。
(a) 4,4-dimethylhex-1-yne
→ (i) 4,4-dimethylhex-1-ene
→ (ii) 4,4-dimethylhexan-2-one
(b) 2,7-dimethyloct-4-yne
→ (i) cis-2,7-dimethyloct-4-ene
→ (ii) 2,7-dimethyloctan-4-one
(解答例)
(a) 4-methylpentanal ← 4-methylpent-1-yne
逆マルコフニコフ配向性での反応が必要だから、ヒドロホウ素化法での水和を行う。
(b) trans-1-(1,1-dichloroethyl)-2-methylcyclohexane ← trans-1-ethynyl-2-methylcyclohexane
HCl がマルコフニコフ配向性で付加すればよい。
(解答例)
(a) 1-cyclopropylpropan-2-ol
第2級のアルコールを合成するためには、アルケンに水和したり、ケトンの還元によって合成することができる。アルケン、ケトンともに同じアルキンから出発して得ることができる。
(b) hex-5-en-2-one
メチルケトンは末端アルキンの硫酸水銀触媒による水和で合成することができる。
(解答例)
5員環の平均的な結合角は108度となる。sp 混成炭素は、結合角が180度で直線的な構造しかとれない。もし sp 混成炭素にこれより小さな結合角をとらせようとすると、p 軌道の側面からの重なりが小さくならざるを得ないため不安定となる。
上図では、sp 混成炭素の(混成していない) p 軌道を示した。
以下に、仮想的な cyclohexyne から cyclodecyne まで、炭素数を1ずつ増えたときに sp 炭素の結合角がどのように変化するかを分子模型の絵で示した。
なお、実験事実として安定に単離できる最小のシクロアルキンは、シクロオクチン(C8H12) であると書かれた文献があるが、シクロオクチンは、上の図からもわかるように、sp混成炭素の結合角はまだ180度に達していない。そのため、いくらかの環歪みをもった分子である。
(解答例)
(a) 2,2-dimethylhex-3-yne
(b) octa-2,5-diyne
(c) 3,6-dimethylhept-2-en-4-yne
(d) 3,3-dimethylhexa-1,5-diyne
(e) hexa-1,3-dien-5-yne
(f) 3,6-diethyl-2-methyloct-4-yne
(解答例)
(a) 3,3-dimethyloct-4-yne
(b) 3-ethyl-5-methyldeca-1,6,8-triyne
(c) 2,2,5,5-tetramethylhex-3-yne
(d) 3,4-dimethylcyclodecyne
(e) hepta-3,5-dien-1-yne
(f) 3-chloro-4,4-dimethylnon-1-en-6-yne
(g) 3-sec-butylhept-1-yne
(h) 5-tert-butyl-2-methyloct-3-yne
(解答例)
(a) (3E,5E,11E)-trideca-1,3,5,11-tetraene-7,9-diyne
(b) tridec-1-ene-3,5,7,9,11-pentayne
(解答例)
(a) パラジウム−炭素を触媒とした接触水素化反応では、三重結合と二重結合は単結合まで還元される。ベンゼン環の二重結合は反応しない。butylbenzene を生じる。
(b) Lindlar 触媒を用いると、接触水素化でも二重結合はこれ以上還元されない。三重結合は二重結合まで還元される。((E)-buta-1,3-dienyl)benzene を生じる。(三重結合は、接触水素化により cis-体を与えるが、この問題ではもともと二重結合だった位置が trans-体である。)
(解答例)
(a) 分子式 C8H10 で表される分子の不飽和度は、(18-10)/2 = 4 より、4である。
(b) Lindlar 触媒を用いた接触水素化では二重結合は還元されないから、この条件下で1モルの水素を吸収するということは三重結合が1つあるということを意味する。
(c) パラジウム触媒では、三重結合は2モルの水素を、二重結合は1モルの水素を吸収する。三重結合は (b) より1つあることがわかっているから、パラジウム触媒で吸収する3モルの水素のうち2モルは三重結合由来である。従って、二重結合は1つ。
(d) 不飽和度が (a) より4であった。(b), (c) より三重結合1つと二重結合1つがあることが判っているが、これらに由来する不飽和度は、計3である。従って、残りの不飽和度は環構造に由来する。従って、環を1つ持つ。
(e) (省略)(自分の描いた構造式が、炭素数8、環の構造を1つもち、二重結合、三重結合をそれぞれ1つもつ条件に合致していれば正解である。)
ただし、三重結合の炭素はsp混成であるから、結合角は180度である。そのため5員環、6員環、7員環など、小さな環構造の構成要素として三重結合を含むようなものは安定ではない。(8.18 の解答例に示した図も参照のこと。)
Cyclooctyne (C8H12) is the smallest cycloalkyne capable of being isolated and stored as a stable compound. (単離し保存することができる程度に安定なうちで一番小さなシクロアルキンは、シクロオクチンである。)
(解答例)
(a) 2-bromohex-1-ene
マルコフニコフ配向に従った位置選択性で付加する。
(b) 1,2-dichlorohex-1-ene
(c) 1-hexene
Lindlar 触媒を用いた水素化の立体はシン付加であるが、末端アルキンなので考慮しなくてもよい。(生成物が末端アルケンなのでシス−トランスの異性体を持たない。)
(d) hept-2-yne
アセチリドアニオンのアルキル化。
(e) hexan-2-one
はじめに hex-1-en-2-ol を生じるが、ケト−エノール互変異性化により hexan-2-one を生じる。
(f) 2,2-dichlorohexane
(解答例)
(a) (Z)-dec-5-ene
Lindlar 触媒を用いた水素化の立体はシン付加である。
(b) (E)-dec-5-ene
液体アンモニア中のリチウム還元では、熱的に安定なトランス体を生じる。
(c) (E)-5,6-dibromodec-5-ene
臭素の付加は、アンチの立体化学で進行するためトランス体を与える。
(d) decan-5-one
ヒドロホウ素化は逆マルコフニコフ配向性であるが、左右対称な内部アルキンであるから位置選択性は問題にならない。
(e) decan-5-one
硫酸水銀触媒による水和はマルコフニコフ配向性であるが、左右対称な内部アルキンであるから位置選択性は問題にならない。
(f) decane
(解答例)
(a) 2,2,3,3-tetrabromohexane
(b) 2-bromohex-2-ene, and 3-bromohex-2-ene
生成物中の付加した H と Br はトランスとなる。ただし、E-Z 表記をすると、いずれも Z-体である。上記の構造を見て確認すること。
(c) 2,2-dibromohexane, and 3,3-dibromohexane
(d) (E)-hex-2-ene
液体アンモニア中のリチウム還元では、熱的に安定なトランス体のアルケンを生じる。
(e) hexan-2-one, and hexan-3-one
内部アルキンでは、2つの sp 炭素上のアルキル置換基の数が同じだから、反応に位置選択性は生じず、混合物を与える。
(解答例)
(a) heptanal
末端アルキンのヒドロホウ素化反応であるから、逆マルコフニコフ配向に従った位置選択性での水和により生じる 1-alken-1-ol のケト−エノール互変異性化で生じるのと同じアルデヒドを与える。(2分子のボランが付加してから加水分解する。反応機構の詳細については、教科書 8.5 節を参照のこと。)
(b) ethynylbenzene
アルキンの合成について復習すること。アミドイオン NH2- は強塩基である。
(c) ethynylbenzene
塩基であるアミドイオン NH2- は2等量必要である。まず1モル当量の塩基と反応すると、(b) の (1-bromovinyl)benzene を与える。
(解答例)
A の分子式は C9H12 であるから、不飽和度は、式 (20-12)/2 より4と計算される。
Pd/C を触媒として水素を3モル当量吸収するから、不飽和度4のうち、1は環の構造に由来することがわかる。なお、多重結合に由来する不飽和度は3であるから、三重結合が1つと二重結合が1つ、または二重結合が3つの組み合わせのみが考えられる。
水銀(II)塩(硫酸水銀など)の触媒の下に希硫酸で処理してケトンを生じるのは、アルキンである。末端アルキンの場合は、単一の生成物(メチルケトン)を与える。2つの異性体ケトンを生じるのは非対称な内部アルキンだからである。
もともと、炭化水素 A は酸素を含まないから、これを KMnO4 で酸化して生じるトリカルボン酸 E および酢酸において、カルボキシ基はもともとあったものではなく、二重結合および三重結合の酸化開裂によって生じたものである。これを手がかりに考えると、二重結合、三重結合の位置が推定できる。
これらの情報より、A の構造は、上図で A' で示した構造のうち、赤の部分が一方が二重結合、もう一方が三重結合であることがわかる。しかし、問い 8.18 で見たように5員環の中に3重結合を含めることはできないから、A の構造は次図のように一意に求まる。(また、この条件を考えなくても、アルキンの水和により2つのケトン異性体を生じるから、アルキンは非対称でなくてはならない。5員環の中の多重結合はその左右に関して対称である。)
また、これに基づき、B〜D の構造は次図のように決めることができる。
(解答例)
(a) 硫酸水銀触媒による水和を用いる。
(b) ヒドロホウ素化反応による水和を用いる。
(c) 強塩基 NaNH2 で処理してアセチリドアニオンとしたのち、ヨードメタン CH3I と反応させる。
(d) シス体を生じているから、Lindlar 触媒を用いたシン付加での水素化を用いる。
(e) KMnO4 での酸化開裂を行う。
(f) 臭素を付加し、1,2-dibromohexane としたのち、2当量の NaNH2 で塩基処理する。
(解答例)
アルケンに臭素を付加させ、次いで2当量の NaNH2 で塩基処理してアルキンに変換したのち、シス体が欲しい場合は Lindlar 触媒による接触水素化を、トランス体が欲しい場合は液体アンモニア中でのリチウム還元を行う。
(解答例)
(d), (e) では、アルデヒド、ケトンを生じているから、KMnO4 による反応ではない。(KMnO4 条件では、アルデヒドはカルボン酸まで酸化される。)
(a) oct-1-ene または oct-1-yne の KMnO4 による酸化開裂。または oct-1-yne の O3 による酸化開裂。
(b) prop-1-enylbenzene または prop-1-ynylbenzene の KMnO4 による酸化開裂。または prop-1-ynylbenzene の O3 による酸化開裂。一般的に芳香環(ベンゼン環)は、オゾンでは反応しない。(下方の解説のように反応する場合もあるが、それは例外である。)
(c) cyclodecene または cyclodecyne の KMnO4 による酸化開裂。または cyclodecyne の O3 による酸化開裂。
(d) 5-methylhept-5-en-1-yne の O3 による酸化開裂。
(e) 1-ethynylcyclohexene の O3 による酸化開裂。
以下、(d) を例にとって解説図を載せておきます。
ヒントにも述べてありますように5、6位間の二重結合由来の生成物がアルデヒドとケトンとなっているので、(過マンガン酸カリウムではなく)オゾン酸化の条件であったことがわかるから、1、2位間の多重結合がカルボン酸を与えるためには、三重結合でなくてはならなかったことを示唆します。
ただ、若干気になるのは、末端の三重結合のオゾン酸化の生成物です。マクマリーの教科書の問いおよび解答例には、確かに与える生成物のひとつとして CO2 が挙げられています。しかし、形式的には上図(最下段)のように、ギ酸(H-CO2H)を与えるはずだと思うのですが、これに関した明確な記述がみあたりません。すなわちホルムアルデヒド(H-CHO or H2CO)が酸化されない条件で、形式的には生じるはずのギ酸が二酸化炭素まで酸化されるのだろうか、ということです。これについては、(問題の出題ミスを含めて)もう少し調べてみたいと思います。
なお、マーチの第4版(英語版)には次のような記述があります。
「三重結合のオゾノリシスは、比較的一般的ではないし、反応も進行しにくい。これはオゾンが求電子的な試薬であり、三重結合より二重結合に対して反応しやすいからである。三重結合を含む物質は、一般的にカルボン酸を与えるけれど、時により、オゾンによりα−ジケトンを与える反応をする。芳香族化合物は同様にオレフィンよりも反応性が低いが、実際に開裂を起こすこともある。その時は、ケクレ構造(共鳴の極限構造式)で表されるような二重結合がその位置にあるかのように振る舞い、ベンゼンからは3モルのグリオキサール(HCO-CHO)(IUPAC名では、エタンジアール)を、o-キシレンからは、グリオキサールとMeCO-CHO、そして MeCO-COMe とを、3:2:1の比で与える。このことは、このような開裂が起きる場合には、全く統計的に起きることを示している。」
三重結合を含む物質はオゾンにより一般的にカルボン酸を与えることは事実ですが、むしろ、これは例外的な反応として捉えてもよいかもしれません。なお、上記中のα−ジケトンを与える反応は次図の上段のようになります。
この反応をするような試薬もいくつも知られていまして、数例を挙げますと、四酸化ルテニウム、中性の過マンガン酸カリウムなどがあります。なお、類似の下段の反応は、四酸化オスミウムや、冷・アルカリ性の過マンガン酸カリウム、mCPBAなどの有機過酸によりエポキシドを生成してから水酸化物イオンによる開環など、いくつかの条件をすでに学びました。
(解答例)
(a)
(b)
(解答例)
Simmons-Smith 反応で、選択的に cis-二置換のシクロプロパンを与えるためには、cis-アルケンを原料としなければならない。下図のように、1,1-diiodoethane を用いれば、1-hexene からも 1-butyl-2-methylcyclopropane を与えることができるが、cis-体とtrans-体の混合物を与えることになってしまう。
cis-2-heptene は、2-heptyne を Lindlar 触媒下に水素化すると得られる。はじめに与えられているのは 1-hexyne だから、ここから生じさせたアセチリドアニオンとヨードメタン(またはブロモメタン)との反応でアルキル化すればよい。
上の図で意味が判らない場合は、次図をよく眺めてください。
(シスまたはトランスのアルケンと無置換のカルベン(:CH2)を反応させると、生成するシクロプロパン環のシス、トランスも、出発物質に応じて選択的に決まるが、メチル基がひとつだけついたカルベン(:CH-CH3)とを反応させると、シス−トランスの混合物になってしまうことを表した図。)
(解答例)
これまでに習っているものだけでも、アルデヒドを生成物とする反応には、アルキンの水和やアルケンの酸化開裂がある。その他、アルコールの酸化で合成する方法や、ケト−エノール互変異性化反応を活かした方法として、(メトキシメチレン)トリフェニルホスホランを用いた Wittig 反応(教科書 19 章、問題 19.37 のヒント 参照。)などがある。
(解答例)
最終目的とするアルケンは、熱的に安定なトランス型であるから、いくつかの方法で合成が可能である。熱的に不安定なシス型を与えるためには、アルキンの Lindlar 触媒を用いての水素化反応などがある。
Wittig 反応については教科書 19.12 節、Grignard 反応については教科書 19.8 節を参照のこと。
(解答例)
(a)
(b)
三重結合を二重結合に部分的還元する方法は、ここでは生成物のシストランス異性体を考慮しなくてもよいので、Lindlar 触媒を用いた接触水素化以外に、リチウム−アンモニア法でもよい。
(c)
水和反応の位置選択性が重要である。もし、硫酸水銀を触媒として水和すると、マルコフニコフ配向で付加が進行するから、生成物はアルデヒドではなくケトン(2-butanone)が得られる。
(解答例)
(a)
(b)
(c)
(d)
水和反応では、内部アルキンでは2つの sp 炭素上のアルキル置換基数に差が無いから硫酸水銀を触媒とした水和を用いても、ヒドロホウ素化を用いても位置選択性は生じないから、左右対称な 4-octyne を用いるべきである。3-octyne の水和では、3-octanone と 4-octanone の混合物を与えてしまう。
(e)
(解答例)
(a)
(b)
(c)
(d)
アルキンを D2 を用いて還元する前に、sp 炭素上の水素を D 化しないとならない。
(解答例)
アセチリドイオンとハロゲン化アルキルによる炭素−炭素結合の生成反応を用いる。
(解答例)
熱的に不安定なシス型のアルケンを合成するためには、アルキンの Lindlar 触媒を用いての水素化反応などを用いることができる。
muscalure CH3(CH2)7CH=CH(CH2)12CH3 は、C23 のアルケンである。IUPAC名は (Z)-9-tricosene である。
アセチリドアニオンとハロゲン化アルキルの反応により、内部アルキンを合成し、続いて Lindlar 触媒を用いての接触水素化を行う。アセチレンからのアルキル基の導入は、左右のどちらを先に行ってもよい。
(解答例)
化合物 A の分子式 C9H12 から、式 (20-12)/2 より不飽和度は4である。
また、この分子 A はパラジウム触媒で3モル当量の水素を吸収するから、不飽和度4のうち1は環の構造によるものである。残りは、3つの二重結合、または1つの二重結合と1つの三重結合のいずれかに由来することになる。
A のオゾン酸化では、シクロヘキサノン(ケトン)を与えることから、少なくとも1つの二重結合の位置を決めることができる。
また、化合物 A は、NaNH2 による処理後、CH3I との反応により、炭素数の1つ多い化合物 C を与えるから、末端アルキンを含んでいる。
以上の条件を満たすのは、次式のような構造である。
(解答例)
化合物 A の分子式 C12H8 から、式 (26-8)/2 より不飽和度は9である。
また、パラジウム触媒により8モル当量の水素を吸収するから、不飽和度9のうちの1つは、環の構造によるものであり、残りは多重結合である。
オゾン分解でカルボン酸を与えるのは三重結合であるが、ジカルボン酸のみを与えていることからも環の構造を示唆する。(もし直鎖構造であれば、二酸化炭素またはモノカルボン酸が必ず得られるはずである。)
なお、ケトンやアルデヒドは生じていないから、すべての多重結合は三重結合であり、8モル当量の水素を吸収することより、三重結合の数は4である。したがって、12員環で4つの三重結合をもつ cyclododecatetrayne が化合物 A である。シュウ酸(炭素数2)とコハク酸(炭素数4)を与えるから、cyclododeca-1,3,7,9-tetrayne または cyclododeca-1,3,5,9-tetrayne のいずれかが A の構造である。
なお、cyclododeca-1,3,7,9-tetrayne と cyclododeca-1,3,5,9-tetrayne を比べたとき、これらの分子模型の絵(以下、2つ)を比較してみると、cyclododeca-1,3,7,9-tetrayne の方がわずかだけ sp 炭素の角度歪みが小さく見える。しかし、これらのいずれかが存在できないほど不安定であるとの結論を出すことが出来るほどの差であるとは考えにくい。
( cyclododeca-1,3,7,9-tetrayne においても、sp 混成炭素の結合角を完全に 180度にするためには、sp3 混成炭素の結合角を 90度にしなくてはならない。)
(解答例)
条件のみを示す。
(a) 1) NaNH2, 2) CH3CH2I
(b) H2, Lindlar 触媒
(c) CH2I2, Zn(Cu)
(a) は、アセチリドイオンと第1級ハロゲン化アルキルによるアルキル化反応。
(b) は、接触水素化。
(c) は、Simmons-Smith 反応。
(解答例)
アルコールからの脱水によるアルケンの合成について、上の図では教科書 17.7 節に基づいた反応条件を示したが、これ以外にも、THF 中で硫酸と加熱(教科書 7.1 節参照)などでも良い。
(解答例)
エリトロゲン酸 erythrogenic acid の分子式 C18H26O2 の不飽和度は、式 (38-26)/2 より6である。ただし、このうち1はカルボン酸中のカルボニル基に由来する。
パラジウム触媒による接触水素化で5モル当量の水素を吸収するから、環構造は持たず、多重結合のみを持つ。
オゾン酸化で4つの部分に分解するということは、3箇所に多重結合があることを意味する。炭素−炭素の多重結合に由来する不飽和度が5だから、二重結合1つ、三重結合2つである。
生じる4つの部分のうち、カルボン酸でない方の末端に由来する2つはモノカルボニル化合物(アルデヒド、ケトン、カルボン酸のいずれか)、内部に由来する2つはカルボニル性の官能基を2つもつ化合物である。また、カルボン酸側の末端に由来する部分も、カルボニル性の官能基を2つもつ化合物である。
ここで、分解生成物としてジカルボン酸として2種類が与えられており、問いに与えられた条件では、これらのうちどちらがカルボン酸末端に由来するかを区別することはできないから、それぞれの分解生成物の構造との対応を考えると、次の2つの可能性が考えられる。
(上) octadec-17-ene-9,11-diynoic acid, (下) octadec-17-ene-2,11-diynoic acid
この2つの構造のうち、どちらが erythrogenic acid の構造であるかを知るためには、カルボン酸末端に由来するフラグメントを他のフラグメントと区別できればよい。
例1:erythrogenic acid をエステル化したのち、オゾン酸化すると、カルボン酸末端由来のフラグメントのみ、ジカルボン酸のモノエステルの形で得られる。
例2:erythrogenic acid を、まず Lindlar 触媒存在下で水素添加し、分子内の三重結合をすべて二重結合に変え、これをオゾン酸化する。カルボン酸末端由来のフラグメントはアルデヒド酸で得られ、もう一方のジカルボン酸フラグメントはジアルデヒドとして得られるため、区別できる。
(解答例)
アルケンと、臭素、水の反応ではハロヒドリンを生成する。これは、ブロモニウムイオンに対しての水の求核付加で生じる。
同様にアルキンからの場合もブロモニウムイオン中間体を経由して、同様の反応を生じる。生じたビニルアルコールはケト−エノール互変異性化によりケトン体を与える。
(解答例)
cumulene の中央の2つの炭素の混成状態は、2本のシグマ結合をもつ炭素であるから、sp 混成である。
sp 混成炭素では、結合角 180度、すなわち直線上に並んだ2本の sp 混成軌道がシグマ結合をつくる。この直線に対して垂直な方向に2組の p 軌道をもつ。従って、cumulene では次図のような軌道をもつと考えられる。( sp 混成軌道は省略し、p軌道のみを示す。)
なお、参照として H2C=CH2 および H2C=C=CH2 の2つの分子の軌道を以下に示しておいた。
H2C=CH2 および H2C=C=C=CH2 は、平面4配位型の構造をもつ。従って、通常のアルケンと同様、異なる4つの置換基を持つとシス、トランスの幾何異性体をもつ。これに対し、H2C=C=CH2 は非平面型であるから、4つの異なる置換基を持ってもシス、トランスの幾何異性体とはならない。(軸不斉に由来する光学異性体となる。)
分子模型を組んでみたので、写真を載せておく。赤と青のタマは、任意の置換基と思ってください。
(解答例)
塩基性条件での重水素交換は、問い 8.38(c) などと同様に塩基によりプロトンが引き抜かれて生じたアニオンに、D+ が付加する形で進行する。
アセチレンやアセトンの酸性度については、下巻の巻末付録 B を参照すること。アセチレンは酸性度定数として pKa = 25 の値をもつ。また、アセトンは酸性度定数として pKa = 19.3 の値をもつ。従って、アセトンはアセチレンより酸性度が高い。(生じるカルボアニオンは、上図の中央下段のような酸素上に形式電荷をもつアニオンとの共鳴構造の関係にある。このようなアニオンは、エノラートアニオンとよばれる。下のアニオンの構造は、エノール体の水酸基から脱プロトン化した構造である。)
なお、22章を参照すると、実はアセトンは酸性でも重水素化が可能であることが判る。なお、次に示す酸性条件下の反応機構について、上の塩基性条件下での反応機構と対応させてみておくこと。
酸性条件下では、ケトンにプロトン H+ (厳密には、この問いにおいてはジュウテロン D+ )がルイス酸として配位するとカルボニルの分極が増し、中性の水でも塩基や求核剤として働くことが可能となる。このため、エノール化が促進される。(ケト−エノール互変異性化は、酸によっても塩基によっても触媒される。)このエノール体は、アルケンとしての反応性として、プロトン化を受けてカルボカチオンを与えることができる。水酸基の結合した炭素上に生じるカルボカチオンは、プロトン化したカルボニル基と共鳴構造の関係にある。ここから脱プロトン(厳密には、脱ジュウテロン)することにより、重水素化されたアセトンを再生する。
一般名 | 1H | 2H | 3H | |
原子( H ) | hydrogen | protium | deuterium | tritium |
陽イオン( H+ ) | hydron | proton | deuteron | triton |
陰イオン( H- ) | hydride | protide | deuteride | tritide |
原子団( -H ) | hydro | protio | deuterio | tritio |