(解答例)
電気陰性度の数値の大きい方が、より陰性な原子である。
(a) H
(b) Br
(c) Cl
(d) C
(解答例)
(a) H3Cδ+-Clδ−
(b) H3Cδ+-Nδ−H2
(c) H2Nδ−-Hδ+
(d) H3C-SH
(e) H3Cδ−-Mgδ+-Br
(f) H3Cδ+-Fδ−
(d) について、炭素と硫黄の電気陰性度は同じ値であるから、ほぼ非極性の(分極していない)共有結合であると考えられる。
(解答例)
結合に関する極性が小さい方から大きくなる順に、
H3C-OH (1.0) <
H3C-MgBr (1.3) <
H3C-Li (1.5) 〜
H3C-F (1.5) <
H3C-K (1.7)
(カッコ内数値は、図2.2 より読み取った電気陰性度の差の値)
(解答例)
C-Cl 結合に関しては、CとCl の電気陰性度からも予想される通り、Cδ+-Clδ− のように分極している。
この分極により、静電ポテンシャルマップにおいて、塩素原子の周囲が赤くなっていると考えてよい。しかし、この静電ポテンシャルマップをよくみると、塩素原子の周囲が均等に赤くなっているわけではないことに気付くはずである。これは、この静電ポテンシャルマップが分子全体としての(すべての結合や孤立電子対からの分極の寄与の和としての)電荷の偏りを表していることによる。
塩素原子は、炭素との結合以外に、3対の孤立電子対をもつ。この孤立電子対は、メタンの正四面体構造との類推からも予測できるように、メチル基 −CH3 における水素と同じように、炭素との結合の逆方向の軸を中心とした周囲に広がっている。そのため、頭のてっぺん(塩素において、炭素との結合の反対側)にあたる部分の電荷密度が若干下がって静電ポテンシャルマップにおいては赤みが減っていると考えることができる。
(解答例)
C−O 結合は炭素原子と酸素原子の電気陰性度からも予想されるように、Cδ+-Oδ− のように強く分極している。
もし、炭素−炭素結合の軸に沿った自由回転が上の3次元模型に示した角度に固定されていると、分子内の2つの C-O 結合に起因する結合の分極は、互いに同じ大きさで全く正反対の向きであるため、互いに打ち消し合ってしまうことになる。(ベクトルの和をとるのと、同じように考える。)そのため、分子全体としては双極子モーメントを持たない。
単に、分子の構造が「対称だから」という表現では正しくない。左右対称だが、それぞれの結合に由来する双極子が打ち消されないような例として、たとえば水分子のような構造を考えてみること。もしどうしても「対称」ということばを使いたいなら、「点対称」とするべきである。
(発展)
エチレングリコールのような分子は、炭素−炭素結合の軸に沿った自由回転をすることができる。もし、この回転を止めることができるとするならば、そのときの角度(酸素−炭素−炭素−酸素の二面角)により、分子は0ではない双極子モーメントを持つことができる。たとえば、2つの水酸基が同じ方向を向いている場合、この炭素−酸素の結合の分極は打ち消されずに残ってしまうからである。
炭素−炭素結合軸に沿った自由回転があるので、全体としては、その分子のコンフォメーションごとの存在量に応じた寄与をし、平均的な値の双極子モーメントを示すことになる。そのため、エチレングリコールの双極子モーメントは0ではない値をもつ。
(解答例)
(a) 双極子モーメントを持たない。C-H 結合の分極は相殺されるため。
(b)〜(d) 図のように双極子モーメントを持つ。
図中、赤の矢印が結合に由来する分極、青の矢印が分子全体での双極子モーメント。
(解答例)
窒素は第2周期の元素であるから、その価電子殻は L 殻である。L 殻は副殻に 2s と 2p を持ち、8つまでの電子が入る。すなわち、窒素が化合物をつくる際に持つことのできる「共有結合と孤立電子対の数の合計」は4が最大となる。
従って、ニトロ基 −NO2 において、窒素と酸素の間の結合が両方とも二重結合になることはない。(もし、窒素と酸素の間がともに二重結合であれば、窒素は5本の結合をもたなければならない。)
ニトロ基の窒素と酸素の間は「二重結合と単結合」または「どちらも単結合」のいずれかであることを前提とし、また、ニトロ基は電気的に中性の官能基であることから、各原子のもつ形式電荷の和がゼロになるように考慮して描いた構造を次図に示す。ただし孤立電子対は青で、形式電荷は赤で示した。
図左は、形式電荷を考慮した一般的なニトロ基の構造の描き方で、窒素と酸素の間が二重結合と単結合で表され、窒素上に正の形式電荷を置くものである。問いでもこの構造が与えられている。
図中央は、その窒素と酸素の間の二重結合に使われていた π 電子が窒素上の孤立電子対の形になっており、その結果、正の形式電荷は酸素上に移動している。形式的にはこの形も可能なものであるが、窒素と酸素を比較すると、酸素の方が電気陰性度が高いので、正の形式電荷を酸素の上には置くのは不自然である。(赤字部分の類似の例として、>C=O という二重結合の π 電子を炭素または酸素のいずれか一方の原子上に担わせるにしても、この結合は、電気陰性度を考えると、>Cδ+-Oδ- のように分極しているのは明らかだから、>C--O+ というイオン対の構造は、>C+-O- というイオン対の構造よりも不自然である。)
図右では、左の構造において窒素と酸素の間の二重結合に使われていた π 電子を、酸素上の孤立電子対の形で描いたものである。そのため、両酸素の形式電荷は−1、窒素上で+2となっている。これは、形式的には可能なものではあるし、電気陰性度の観点から見て、中央の図より適切であるものの、中央の窒素上の形式電荷2+は、極端に電子不足であるので、やや不自然である。
以上の考察により、教科書に与えられた構造(上図の左)が最も適切であるといえる。(上下の2つの酸素で役割を入れ替えて、窒素と下の酸素との間が二重結合、上の酸素が負電荷を担う構造も、等価である。)
次に、この構造における形式電荷の計算法について、再確認しておこう。
窒素原子:
中性原子として数える場合の価電子の数:5
共有結合が4本なので、窒素の価電子のうち結合に使用されると数えられる電子の数:8/2=4
孤立電子対にある電子の数:0
従って、形式電荷は 5−4−0=+1
二重結合している酸素原子:
中性原子として数える場合の価電子の数:6
共有結合が2本なので、酸素の価電子のうち結合に使用されると数えられる電子の数:4/2=2
孤立電子対にある電子の数:4
従って、形式電荷は 6−2−4=0
窒素と単結合している酸素原子:
中性原子として数える場合の価電子の数:6
共有結合が1本なので、酸素の価電子のうち結合に使用されると数えられる電子の数:2/2=1
孤立電子対にある電子の数:6
従って、形式電荷は 6−1−6=−1
(発展)
リン(P)や硫黄(S)は、第3周期の元素の場合、副殻として 3s, 3p, 3d をもつ M 殻が最外殻(outermost shell)となるから、化合物をつくる際、この殻には最高で 3s(2個)+ 3p(6個)+3d(10個)の電子が入ることが可能であるように見えるが、同じ周期の希ガスであるアルゴン(18Ar)の電子配置が、( (1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6 )であることからも判るように、3s(2個)+ 3p(6個)の電子が入った時点で閉殻構造を示す。(組立原理にも反映されているように、3d に電子をいれるよりも、先に4sに電子が入る。)そのため、原子価殻(valence shell)である M 殻に8個の電子が入った状態、すなわちオクテットを満たした状態が一般的に安定であると考えてよい。
(解答例)
(孤立電子対の表示は省略する。)
(a) H2C=N(+)=N(−)
(b) H3C-C≡N(+)-O(−)
(c) H3C-N(+)≡C(−)
(解答例)
「(P)=O」の酸素上には形式電荷は存在しない。2つの「(P)-O」の酸素上に、−1の形式電荷が存在する。
(発展)
問い 2.7 の発展でも書いたように、第3周期の原子であるリンに対しては5本以上の結合を書く場合がある。
なお、問題の図に与えられた構造とは形式的に異なるが、図中の「(P)=O」結合を単結合に開き、この酸素上にも−1の形式電荷を与えたのち、リン(P)上に+1の形式電荷を与えれば、リン(P)上の結合の数が4本となり、オクテットを満たす形で示すことが可能である。
(解答例)
電子の動きは、曲がった矢印で描く。このとき、電子対の動きを表す矢印は通常の矢印を用い、電子1つの動きを表す矢印は片矢印(頭の部分の折り返しが片側だけのもの)を用いる約束がある。
(a)
常に酸素のひとつがリンとの間で二重結合になるように電子を動かすと上図のようになる。また、問い 2.9 の発展の項に書いた構造は、次のような電子の動きで表現される。上の3つの極限構造式との関係についてもよく見比べてみること。
(b)
(c)
(d) ベンゼン環部分での共鳴構造は、下図、緑色の矢印のような電子の動きにより、6員環の中の二重結合の位置が入れ替わる形の極限構造をもつ。また、カルボン酸イオン部分の共鳴では、下図、青色の矢印のような電子の動きにより、それぞれの極限構造において2つの酸素原子の上の電荷が入れ替わる形となる。
(解答例)
HNO3(酸) + :NH3(塩基) → NO3−(共役塩基) + NH4+(共役酸)
酸がプロトン(H+)を放出して生じたイオンが共役塩基である。(放出した場所に)もう一度プロトンを受け取ることが可能であるから塩基の名が付く。
塩基がプロトン(H+)を受け取って生じたイオンが共役酸である。受け取ったプロトンを再度放出することが可能であるから酸の名が付く。
くどくなるが、次のように書いてもよい。
HNO3は、酸として働くことができ、その結果生じる共役塩基は NO3− である。
:NH3は塩基として働くことができ、その結果生じる共役酸は NH4+である。
更にいうならば、
NO3− は、酸−塩基反応の中で塩基の役割を果たすが、その共役酸は HNO3である。
NH4+ は、酸−塩基反応の中で酸の役割を果たすが、その共役塩基は :NH3である。
という表現もできる。
簡潔にすると、
HNO3の共役塩基は NO3− である。
:NH3の共役酸は NH4+である。
NO3− の共役酸は HNO3である。
NH4+ の共役塩基は :NH3である。
なお、硝酸イオンの構造については、2-10(b)の答えを参照すること。
(発展)
ただし、ある物質が Brønsted-Lowry の酸であり、同時に Brønsted-Lowry の塩基であるということもできる。たとえば次の式を考えてみよう。
1) HO- + HCl → H2O + Cl-
2) H2O + HCl → H2O + H3O+
上の式は、水酸化ナトリウムなどと塩酸が中和する式。塩基、HO- が、プロトン(H+)を受け取ることにより、共役酸、H2O になる。
下の式は、塩酸が酸として解離するときの一般的な式。水中では、遊離のプロトン(H+)と Cl- になるより、水分子がプロトン(H+)をうけとってオキソニウムイオンになると考えられている。すなわち、この式においては、水が塩基として働く。その共役酸は H3O+ である。
すなわち、ある物質が Brønsted-Lowry の枠組みの中で「酸である」「塩基である」という言い方ができるのは、適当な「酸−塩基反応」を考えたときにのみ有効であり、その反応の種類によっては同じ物質が酸としても働き、塩基としても働くことができる場合がある。
(キャッチボールの例でいうなら、1人ではキャッチボールにならない:相手の物質の存在が想定されて、はじめて酸−塩基の反応式になる。)
Ka = | [ H+] | [ A−] |
[ HA ] |
(解答例)
より小さな pKa を持つフェニルアラニンのほうが強酸である。
(解答例)
アンモニア NH3 は、アミドイオン NH2- の共役酸である。また、水 H2O は、水酸化物イオン OH- の共役酸である。
ここで、より弱い塩基の共役酸である水の方が、酸として強い。
塩基がより弱い
↓ ↑
塩基は、プロトンを受け取りにくい
↓ ↑
共役酸は、プロトンを放出しやすい
↓ ↑
共役酸は、より強い
そのため、アミドイオン NH2- は、水酸化物イオン OH- よりも強い塩基である。
なお、ここで「アンモニアは塩基として働くから」または「アンモニアは水より塩基性が強いから」と説明するのは誤りである。アンモニアや水の塩基性の強さから議論されるのは、その共役酸としての NH4+ や、H3O+ の酸としての強さだけである。(これに関連した平衡は以下の通り)
NH3 + H+ ←→ NH4+
H2O + H+ ←→ H3O+
× 「AH が酸としてより弱いということは、(AH が)塩基として強い」
○ 「AH が酸としてより弱いということは、その共役塩基(A− が)塩基として強い」
(解答例)
強い酸が酸解離してプロトンを与え、相対的に弱い酸の塩や共役塩基がそのプロトンを受け取ることにより、弱い酸が遊離するような反応が起きる。逆に、弱い酸が酸解離してプロトンを与え、相対的に強い酸が遊離するような反応は起きない。
(a) HCN(pKa=9.31)は、CH3CO2H(pKa=4.75)より弱い酸である。従ってこの反応は進行しない。(右辺から左辺への反応は、より弱い酸が生じるので、進行する。)
(b) CH3CH2OH(pKa=16.00)は、HCN(pKa=9.31)より弱い酸である。従ってこの反応は進行しない。(右辺から左辺への反応は、より弱い酸が生じるので、進行する。)
(解答例)
酸としてくらべた場合、アセトンとアンモニアではアセトンの方が強酸である。したがってこの反応は進行し、強酸(アセトン)がプロトンを放出し、弱酸(アンモニア)の共役塩基である NH2− がプロトンを受け取り、より弱い酸であるアンモニア( NH3 )が遊離する。
(解答例)
10−9.31 = 4.9 × 10−10
指数・対数の関係がある場合の有効数字については、以下のように計算して確認すること。
pKa が 9.31 であると記述するのは、pKa が±0.01程度の範囲内の値を持つことを示している。従って、Ka の値は、およそ
10−9.30 = 5.012 × 10−10
10−9.31 = 4.898 × 10−10
10−9.32 = 4.786 × 10−10
の間の範囲にあることが判る。この確認より、指数が 0.01 変化するだけで結果は小数点以下1位が変化するので、小数点以下1位まで程度の精度で表しておけばよいことが判る。
(小数点以下2桁目以下の部分の数字は、あきらかに信頼できないが、小数点以下1桁目の部分は、4.8 か 4.9 か 5.0 程度の範囲であることを示すために意味がある。一桁少なく丸めた 5 × 10−10 という答えでは、(4.5〜5.5)× 10−10 の範囲を示すことになり、正しい精度で示していることにならない。)
(ちょっと補足)
y = 10x の関係があったとき、両辺の対数をとると
log( y ) = log( 10x ) となる。右辺を整理すると
log( 10x ) = x log( 10 ) = x となる。( log10 10 = 1 であるから。)
ここで、y という文字を Ka という文字で置き換えてやることにすると
pKa = −log( Ka ) = −log( y ) = −x なわけだ。だから、
y = 10x = 10−pKa なのです。
(解答例)
まず、一般的な式として H-Cl 分子、H-O- イオンとの反応の形式を以下に示す。電子の動きを表す赤い曲がった矢印と、反応の前後で移動したり、消滅、生成した電子対や結合などの対応をよく見ること。
左側:孤立電子対をもった原子(ここでは Y と表示した)がルイス塩基として働き、ルイス酸との間に新たな結合を生成する。ここでは、プロトン(H+)そのものではなく、Cl- の脱離によってプロトンを与える塩酸分子 H-Cl をルイス酸として扱っている。(ヒントにも赤字で述べたように、プロトン供与酸を Brønsted 酸としてのみ扱い、ルイス酸としては扱わない場合もある。その場合は、塩酸分子の酸解離後に生じるプロトン(H+)のみを描けばよい。)
右側:水酸化物イオンの酸素原子は3対の孤立電子対と負の電荷を持つ。この部分がルイス塩基として働き、ルイス酸との間に新たな結合を生成する。ここではルイス酸は A で示している。
新たな結合の生成や切断に応じて変化する各原子の形式電荷の変化に注意すること。
(a)
(b)
(解答例)
発展の項にも述べているように、イミダゾール窒素は2つとも sp2 混成をとる。孤立電子対には2通りあり、5員環の平面内にある(C-H 結合などと同じように放射方向に広がった)sp2 混成軌道内にあるもの(下図において赤で示した)と、環に垂直な方向(π 結合を形成している p 軌道と同じ方向)にある p 軌道内にあるもの(青で示した)とがある。このうち、より強いルイス塩基性を示すのは、赤で示したような sp2 混成軌道内の孤立電子対であり、共鳴構造を考える際に環上の他の二重結合と協奏的に動いていくのは青で示したような p 軌道内の孤立電子対である。
(a) 水素の結合していない方の窒素がより塩基性。イミダゾールが酸によりプロトン化を受ける反応式を示す。
電気陰性度の高い原子である窒素に結合した水素が最も酸性。イミダゾールが塩基(B-)と反応して脱プロトン化を受ける反応式を示す。
(b)
プロトン化の生成物についての共鳴構造式は、赤色の曲がった矢印で示したような電子の動きで、次図のように書くことができる。
ただし、図の下半分の3つのような極限構造式は、緑色の曲がった矢印で示すような電子の動きに従えば描くことが可能であるが、構造式中で隣接した2つの原子に正と負の電荷を書かざるをえなくなるために不自然な構造である。従って、一般的に共鳴構造を考える際には、寄与の大きい極限構造として上図の上の2種のみを考えればよい。
脱プロトン化の生成物についての共鳴構造式は、赤色の曲がった矢印で示したような電子の動きで、次図のように書くことができる。
ただし、図の下半分の3つのような極限構造式は、緑色の曲がった矢印で示すような電子の動きに従えば描くことが可能であるが、負の形式電荷を窒素よりも電気陰性度の高くない炭素上に書かざるをえなくなるために不自然な構造である。従って、一般的に共鳴構造を考える際には、寄与の大きい極限構造として上図の上の2種のみを考えればよい。
(発展)
イミダゾール の3次元模型
上のリンクからも確認できるように、イミダゾールは平面型の分子である。すなわち、イミダゾール環に含まれる2つの窒素は、平面型3配位の sp2 混成である。構造式からも判るように、中性のイミダゾールの2つの窒素原子は、いずれも3本の結合と1対の孤立電子対を持つ。炭素と二重結合をとる窒素においては、p 軌道は炭素との二重結合に使用され、孤立電子対は sp2 混成軌道のうちの1つも入っていると考えられる。もうひとつの窒素は水素と結合しており、2つの炭素ならびに水素との結合に3つある sp2 混成軌道が使われ、この3配位に垂直な p 軌道中に孤立電子対が入っている。
すなわち、5員環を形成している5つの原子(3つの炭素と2つの窒素)は、いずれも sp2 混成であり、計5つの p 軌道が同じ方向(環に対して垂直な方向)を向く。この中には2本の二重結合に使われている4つ、および孤立電子対として描かれている2つの電子が入っているような 6π 電子系の化合物、つまり、芳香族化合物であるといえる。(芳香族性については、15章を参照すること。)
(解答例)
ビタミンC は親水性で水に溶けやすい。ビタミンA は疎水性で脂に溶けやすい。
(発展)
通常の食生活をしている分には問題ないが、ビタミンが体にとって必要なものであるからといってビタミン剤などを摂り過ぎると、過剰摂取による障害が現れることがある。水溶性のビタミン群は、尿などによって体外に排泄されやすいので過剰摂取による障害が現れにくいとされるが、脂溶性ビタミンは肝臓をはじめとする体内に蓄積されやすいため、過剰摂取による障害が現れやすい。(たとえば体を作っている細胞の細胞膜などは脂質などからできているため、脂溶性の物質を蓄積しやすいと考えられる。)
(解答例)
以上の3つの共鳴構造を描くことができる。
注意!!
は、間違い。二つの環に共通している炭素の結合が5本になっている。
(解答例)
イブプロフェン C13H18O2, 2-(4-isobutylphenyl)propanoic acid
なお、中央のベンゼン環の中に3つある二重結合の位置は、単結合と交互になるように書いてあればよく、2通りの描き方(一方はもう一方を鏡に写したような位置関係)があり得る。
(解答例)
塩素原子は炭素原子よりも大きな電気陰性度を持つ(教科書 P36, 図2.2)ので、炭素−塩素結合は分極している。その分極(電荷の偏り)のベクトルを、赤の矢印で表すと、分子全体の双極子モーメントは、その和となり、青の矢印となる。
cis-1,2-dichloroethene では、同じ方向の C-Cl 結合に由来する分極の和として、双極子モーメントが生じるが、trans-1,2-dichloroethene では、逆を向いた C-Cl 結合に由来する分極が打ち消し合うために双極子モーメントは生じない。
(発展)
問題 2.5 と本質的に異なるのは、エチレングリコールの場合には炭素−炭素結合の軸に沿った自由回転が可能であった(そのため、問題の前提事項に誤りがあり、エチレングリコールの双極子モーメントは実際には0ではない、という事態が生じた)のに対し、1,2-ジクロロエタンの場合は炭素同士間が二重結合であるから、通常の条件では結合の軸に沿った回転は起きないため、分子の形が固定されているということである。
問題 2.5 でも「trans-1,2-ジクロロエテンと同じような形(:問題2.5のヒントにリンクで示した3次元モデルが示す形)に固定されている」という限定条件下で考えれば、分子全体として双極子モーメントを持たないとして良い。
(解答例)
分子モデル図より分子式を読み取ると、アデニンは C5H5N5、シトシンは C4H5ON3 である。これらの不飽和度は、それぞれ、アデニンは6、シトシンは4となる。
(不飽和度の計算:下の発展の項を参照)
アデニン:(5*2+2 +5 -5)/2 = 6
シトシン:(4*2+2 +3 -5)/2 = 4
分子モデル図より、環状構造を数えると、アデニンで2、シトシンで1であるから、上の不飽和度のうち、分子中に存在する多重結合に由来する不飽和度は、アデニンで4、シトシンで3となる。
(a)
(二重結合の位置は、上の共鳴式に表されている2つの極限構造式のどちらでも可。)
(b)
(発展)
炭素、酸素以外に、窒素および酸素などを含む分子の不飽和度の計算の仕方
窒素は3本の結合、酸素は2本の結合、ハロゲンは1本の結合を持つことを考慮すると、
C-H 結合が C-NH2 となると、分子の中の水素の数は1つ増える。
C-H 結合が C-O-H となっても、分子の中の水素の数は変化しない。
C-H 結合が C-Br などとなると、分子の中の水素の数は1つ減る。
以上より、炭素の数 m 、窒素の数 n 、酸素の数 o 、ハロゲンの数 p に対し、不飽和度は {(2m+2) +n -p -(水素の数)}/2 で求めることができる。この計算において、酸素の数は不飽和度に影響しない。
(解答例)
省略された元素もすべて表記すると、次のような構造式となる。
(a)
(b)
従って、
(a) 水素の数は17個、分子式はC11H17ON
(b) 水素の数は21個、分子式はC17H21O4N
(解答例)
(a) F
(b) F
(c) O
(d) O
(解答例)
カッコ内に2つの原子の電気陰性度の差を表した。矢印が極性の向き(+→−)
(a) H3C → Cl (0.5) > Cl − Cl (0.0)
(b) H3C ← H (0.4) < H → Cl (0.9)
(c) HO ← CH3 (1.0) > (CH3)3Si → CH3 (0.7)
(d) H3C ← Li (1.5) < Li → OH (2.5)
(解答例)
電気陰性度の異なる原子間の結合(C-H 結合は無視し、C-Cl 結合のみに注目した)の電荷の偏り(分極)のベクトルを、赤の矢印で表すと、分子全体の双極子モーメントは、その和となり、青の矢印となる。
(a) phenol | (b) benzene-1,2-diol catechol |
(c) benzene-1,3-diol resorcinol |
(d) benzene-1,4-diol hydroquinone |
ベクトルの和(青矢印) | |||
構造より予測される双極子モーメントの相対的な大きさ | |||
1.00 | 1.73 | 1.00 | 0.00 |
(解答例)
(a) HClが完全にイオン性であるものとして、その双極子モーメントを計算すると、μ = Q × r において、r( 水素−塩素の原子間距離 )は 136 × 10−12 m、Qは電気素量( 1.60 × 10−19 C )として計算すると、μ = 2.176 × 10−29 C m となる。3.336 × 10−30 C m が 1 D であるから、換算すると、6.52 D となる。
(b) 実測値は 1.08 D であるから、 1.08 / 6.52 = 0.1656… となり、16.6 % のイオン性を持つことが計算される。
(a) については、まっとうに計算するのではなく、教科書 p38 にも示されている数値として、電気素量の電荷が 100 pmで 4.80 D になるという関係を覚えて用いてもよい。すなわち、HClが完全にイオン性であるものとして、電荷間の距離が 136 pm であるということは、この時の双極子モーメントは 4.80 × 1.36 として計算される。
(解答例)
H-C 結合においては、H → C の向きに分極している(電気陰性度の差は 0.4 )のに対し、C-Cl 結合においては、C → Cl の向きに分極している(電気陰性度の差は 0.5 )。下図では、これらの結合に由来する分極を赤の矢印で、そして、2つの赤矢印の合成により生じる分極を青矢印で示している。
ホルムアルデヒドやホスゲンの C=O 結合の分極(図中の黒矢印)にこれらの分極(図中の青矢印)を足し合わせることにより分子全体としての双極子モーメントが得られるが、この足し算の結果、ホルムアルデヒドでは結合の分極どうしが同じ向きなので、分子の双極子モーメントが大きくなる方向に寄与するのに対し、ホスゲンでは結合の分極どうしが打ち消しあって分子の双極子モーメントが小さくなる方向に寄与する。
(発展)
なお、ホスゲン Cl2C=O は、二酸化炭素を水に溶解させた時に生じる「炭酸」(HO)2C=O の酸塩化物に相当する化合物である。
(解答例)
双極子モーメントを与える式は、μ = Q × r で与えられるから、Q が同じでも、r が小さければ、双極子モーメントは小さくなる。フッ素の方が塩素に比べて原子半径が小さいから、C-Cl 結合よりも C-F 結合の方が短いはずである。この結合の長さが異なることが影響していると考えることができる。
問い 2.28 でも見たように、H-Cl も 100% のイオン性を持つわけではないから、イオン性の割合(=分極の度合い)が異なることを理由に挙げたくなるかもしれない。しかし、それは「電気陰性度の差が大きいほどより強く分極する」という原則からはずれてしまう。実際に、このイオン性の割合を計算してみると、以下のようになる。
原子半径のデータ(「現代化学の基礎」学術図書出版社、p44より、炭素 77 pm、フッ素64 pm、塩素 99 pm )を用ると、C-Cl の結合長は 176 pm、C-F の結合長は 141 pm となる。100%のイオン性であれば、双極子モーメントはそれぞれ、(4.80 × 1.76=)8.45 D、(4.80 × 1.41=)6.77 D となるはずであるから、問いにあたえられた双極子モーメントの実測値がすべて炭素-ハロゲン結合に由来すると仮定すれば、クロロメタン CH3Cl では(1.87/8.45 =)22%の、フルオロメタン CH3F では(1.81/6.77 =)27%のイオン性を持つという計算になる。すなわち、電気陰性度の差が大きいほど分極の大きさ(イオン性の割合)が大きくなるという予想と矛盾していないことがわかる。
(解答例)
メタンチオールの双極子モーメントが結合の分極より予想されるよりも大きな値を示すのは、主に硫黄上の孤立電子対に由来する。
非常に大雑把であるが、少しばかり定量的な考察を加えてみよう。表 2.1(教科書 p39)によれば、双極子モーメントの大きさは、水で 1.85 D、クロロメタンで 1.87 D、メタノールで 1.70 D、メタンチオールで 1.52 D である。各結合の分極の大きさが図 2.2 より読み取った電気陰性度の差(下図中、赤色の小さなフォントの数字)に比例するものと近似して、各結合に由来する分極を図中に描き表すことにする(下図、ピンク矢印)。また、正四面体のメタン CH4 において、その対称性より C-H 結合に由来する分極が結果的に打ち消されることを考えてみると、メチル基の3本の C-H 結合の分極の合計として生じるベクトルを、H-C 結合に由来する1本の結合のもつ分極と同じ大きさとして作図(下図、赤矢印)をすることができる。
もし、ここでメタノールおよびメタンチオールの双極子モーメントが、主にすべて原子間の結合の分極に由来すると考えるならば、下図より読み取れるように、メタンチオールの双極子モーメントはメタノールに対しておよそ 1/3 程度になると予想される。
しかし、「水分子では H-O 結合が短い(すなわち、μ = Q * r の式において、r が小さい)ことを考えてもなお、クロロメタンと同程度の双極子モーメントを持つ」ための説明として、2組の孤立電子対に由来する分極を考えた(教科書 p39)。これを下図では緑の矢印で表示した。同様に、硫黄も2組の孤立電子対を持つから、(その大きさは、電気陰性度の異なる酸素上と硫黄上で同じ効果をもつとは言えないが)、これに由来する分極(下図、緑の矢印)を考えることができる。(なお、同様に、ハロゲンも3対の孤立電子対を持っているのだから、同様の効果があるものとして考えることができる。)
(解答例)
形式電荷は、カッコ内に示した。計算式は省略。同じ原子種がある場合は左から。
(a) O(+1)、B(-1)
(b) C(-1)、N(+1)、N(0)
(c) O(0)、N(+1)、N(-1)
(d) O(0)、O(+1)、O(-1)
(e) C(-1)、P(+1)
(f) N(+1)、O(-1)
各自が導出した答えの数値があっているか確認するために数値のみ挙げていますが、宿題のノートに「計算式は省略」と書かれているのは、不可です。当然、皆さんは所定の計算をしたから答えの数値がノートに書けるわけですから。
(解答例)
(a) 共鳴形ではない。左の構造式中の4員環のシグマ結合が右の構造式中では切れている。
(b) 共鳴形である。
(c) 共鳴形である。
(d) 共鳴形である。
特に、(c) および (d) に至る電子の動きを矢印で図示すると、次のようになる。
なお、次図のような電子の動きは、結果として同じものを与えているが、正しくない。
孤立電子対や結合の電子対を、離れた位置に跳ばしてはいけない。(上図では、赤で書いた矢印が、酸素上の孤立電子対を(隣ではなく)1つ置いた離れた炭素にまで跳ばしている。)「孤立電子対は、孤立電子対のまま他の原子の上に移動する」のではなく、孤立電子対は、隣接する原子との間の共有結合(π結合)になる。また、π結合に使われている2つの電子が、隣の結合を、単結合から二重結合にするような形で移されることはあるが、この2つの電子が(結合の両端のうちの一方の)ひとつの原子上に置かれ、新たに孤立電子対となることもある。
(発展)
ところで、の共鳴として描かれている のような構造は、孤立電子対をもつ炭素の形式電荷が
この後者の共鳴構造における孤立電子対は、この極限構造式のみに注目して考えると、この炭素の sp3 混成軌道のうちの一つに入っていると考えることになる。
しかし、もともと sp2 軌道を使って3本のシグマ結合があり、同時に p 軌道を使ってパイ結合(二重結合)していたと考えると、共鳴では原子の位置が動かないのだから、炭素の混成状態は sp2 のままで、 p 軌道に電子が一つよけいに入って非結合性の電子対となっているという見方もできる。
もともと共鳴構造(極限構造)は、教科書p44「規則1」にあるように仮想的な構造ではあるが、実際の構造はこの2つの共鳴構造の中間の形であるとして理解できるのであるから、このような詳細な議論に意味がないわけではない。
また、これらの共鳴の電子の動きがあきらかになるように、関係する電子の入っている軌道をあらわに描くと、次のようになる。
この図中の4つの電子の位置(2つは孤立電子対となり、残りの2つは π 結合に関与している。)に注意せよ。
(解答例)
電子の流れを表す矢印は、すべて非共有電子対または多重結合のπ電子から発し、隣接する原子や結合に流れ込む。
(a)
×をつけて示したような、5本の結合をもつカルボニル炭素のように、ある原子の価電子が8を越えてしまうような共鳴構造は存在しない。(左端の構造から、非共有電子対から発するひとつの矢印にそって電子を動かしただけでは、形式的にこのような構造となってしまうため、カルボニル炭素=酸素二重結合のπ電子は、電気陰性度の大きい酸素上に非共有電子対として収納されることになる。)
(b)
なお、「孤立電子対が、ひとつ置いて離れた炭素上に動く」のではなく、隣の炭素との間のπ結合になることに注意。図は、2.33の答え解説を参照のこと。
(c)
(d)
(e)
(解答例)
もしこの2つの構造が共鳴であるならば、p44 「規則2」より、原子の位置は同じはずである。また、「規則1」より実在の構造は2つの仮想的な共鳴形の中間の構造を持つはずである。二重結合の位置がことなる共鳴構造で描かれるベンゼンのように、実際には単結合と二重結合の長さに区別がなく(言ってみれば1.5重結合のように)単結合と二重結合の中間の距離をもった結合が並んでいることになるはずである。
すなわち、このような共鳴で表されるならばシクロブタジエンは正方形の分子でなければならない。しかし、実際は問題文で与えられているように長方形の分子であり、共鳴で表されるという仮定に一致しない。
(解答例)
(a) CH3OH + HCl → CH3OH2+ + Cl-
(b) CH3OH + NaNH2 → CH3ONa + NH3
上の2つの反応は、関与しないイオンを除いて次のように書くとわかりやすいかもしれない。(酸としてはたらいて放出されたプロトンを下線付きで表した。)
(a') CH3OH + H+ → CH3OH2+
(b') CH3OH + NH2- → CH3O- + NH3
(解答例)
酢酸の共役塩基であるイオン CH3CO2− は、次に示すような共鳴により安定である。より安定であるということは、プロトンを相対的に受け取らないのだから、塩基として弱い。共役塩基が弱塩基であるということは、もとの酸が強酸であることを示す。
※ (酢酸イオンではなく)酢酸に対しては共鳴式はかけない。もし書けたとしても、それが酢酸の酸性度の説明にはならない。
(発展)
上記の解答以外に(問題文の「共鳴を用いて」という条件には合致しないが)、「炭素にくらべて酸素の方が電気陰性度が高いので、酸素に結合した水素は、炭素に結合した水素より酸性である」と述べることができる。このことは、アルカンにくらべてアルコールの方が比較的強い酸であることを説明する。しかし、アルコールに比較してもカルボン酸はずっと強い酸であることを示すには、上記の解答例のような説明が必要である。
(解答例)
(a) AlBr3 : Lewis 酸
(b) CH3CH2NH2 : Lewis 塩基 :N が非共有電子対を持つ。
(c) BH3 : Lewis 酸
(d) HF : プロトン供与体であるから Brønsted 酸であるが、狭義の Lewis 酸ではない。もちろん、Lewis 塩基でもない。
(e) CH3SCH3 : Lewis 塩基 :S が非共有電子対を持つ。
(f) TiCl4 : Lewis 酸
(解答例)
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
(f)
(解答例)
酸は赤で示した。
(a) CH3OH + H2SO4 → CH3OH2+ + HSO4-
(b) CH3OH + NaNH2 → CH3ONa + NH3
(c) CH3NH3+Cl- + NaOH → CH3NH2 + H2O + NaCl
なお、(b),(c) の反応式を、反応に関与しないイオン( H+ のやりとりに関与しないイオン。ここでは、 Na )を省略して書くと次のようになる。
(b') CH3OH + NH2- → CH3O- + NH3
(c') CH3NH3+ + OH- → CH3NH2 + H2O
また、「(誤)酸-塩基反応では(いつも中和反応が進行して)水を生じる」と誤解していると、(a) に関する誤答として、
(d) NaOH + H2SO4 → NaHSO4 + H2O
の類推から、
(a") CH3OH + H2SO4 → CH3HSO4 + H2O
と書きたくなるらしい。
2.36 のヒントにも書いたとおり、CH3OH が塩基としてはたらくときには、アレニウスの定義の塩基としてはたらいて OH- を出すのではなく、Brønsted 塩基としてはたらいて H+ を受け取るだけである。これは、水酸化ナトリウムが Na+ と OH- に解離することが容易であるのとは異なり、
(×) CH3OH → CH3+ + OH-
のようには解離しないためである。このような解離が起こらない理由の一つは、ナトリウムや炭素のイオン化エネルギーや、あるいは電気陰性度からも推測できるとおり、 炭素よりナトリウムの方が陽イオンになりやすい、すなわち、Na+ に比べると CH3+ が安定ではないからである。
なお、後日学習することになるであろう内容ではあるが、同じようにアルコールであっても3級のアルコールの場合は、
R3C-OH + H+ → R3C-OH2+
R3C-OH2+ → R3C+ + OH2
の2段階で水を脱離することが可能である。これは、1級のカルボカチオンである CH3+ にくらべて、3級のカルボカチオンである CR3+ の方がより安定であるためである。ただし、その場合でも
(×) CR3OH → CR3+ + OH-
のような反応は生じない。電気的に中性である水 H2O であれば脱離が可能であるのに対し、水酸化物イオン OH- がそのままで脱離することができないのは、上の議論と同様に、「 H2O の方が OH- より安定であるからである」と言ってよい。これについては、 H2O は、H3O+ の共役塩基であり、また、OH- は H2O の共役塩基であることを考えると、より強い酸である H3O+ の共役塩基 H2O 方がより安定である(塩基性が低い)ことを容易に推測できるはずである。
(解答例)
この問いでは、炭素と水素に関してはすべて形式電荷0である。その他の部分は、
(a) N(+1)、O(-1)
(b) N(-1)、N(+1)、N(0)
(c) N(0)、N(+1)、N(-1)
なお、(b) と (c) は互いに共鳴形である対である。
(解答例)
表 2.1(教科書 p39)より、炭素に結合したカルボキシ基は、 1.7 D 相等の分極を示す。また、カルボキシ基は単結合で結合(下図、緑で表示)しているから自由に回転することができるため、そのカルボキシ基が持つ部分構造(カルボニル基 C=O や、水酸基 −OH など)に由来するような分極は、結局のところ平均化されてしまうため、カルボキシ基が示す分極の方向は、単純に次図に示すように(緑で表示した)結合の方向で考えてよい。(なんらかの理由により、カルボキシ基の自由回転が起きないような系である場合には、この考え方が正しくないかもしれない。(註))
次図のように、この分極のベクトルを、赤の矢印で表すと、分子全体の双極子モーメントはその和となり、青の矢印となる。
すなわち、cis-but-2-enedioic acid (慣用名:マレイン酸)では、同じ方向に結合したカルボキシ基に由来する分極の和として、双極子モーメントが生じるが、trans-but-2-enedioic acid (慣用名:フマル酸)では、逆向きの分極が打ち消し合うために双極子モーメントは生じない。
(註)2つのカルボキシ基が同方向に結合しているマレイン酸では、その2つのカルボキシ基が水素結合して自由回転が制限されると予想される。しかし、上の議論(フマル酸において、分極が打ち消されて双極子モーメントを示さない)において、骨子は変わらない。
Ka = | [ H+] | [ A−] |
[ HA ] |
(解答例)
pKa の値が小さいほど、酸として強い。
アセトン(pKa=19.3) < フェノール(pKa=9.9) < 2,4-ペンタンジオン(pKa=9.0) < 酢酸(pKa=4.75)
(解答例)
水酸化物イオン OH-の共役酸である水(pKa=15.74)よりも pKa の小さな(より強い)酸は、水酸化物イオンと反応する。したがって、フェノール(pKa=9.9) 、2,4-ペンタンジオン(pKa=9.0)、酢酸(pKa=4.75) の3種類は、水酸化ナトリウムと(ほぼ)完全に反応する。
ここで「ほぼ完全に反応する」という言葉の意味については、下の(発展)の項を読むこと。
(発展)
HA + OH− ←→ A− + H2O
という平衡の、平衡定数 K は、次式で与えられる。
K = | [ A− ] | [ H2O ] | = | [ H+] | [ A−] | × | [ H2O ] | = | Ka(HA) | |
[ HA ] | [ OH−] | [ HA ] | [ H+] | [ OH−] | Ka(H2O) |
Ka = | [ PhO−] | [ H+] | = 10−9.9 |
[ PhOH ] |
[ PhO−] | = | Ka | = 1 |
[ PhOH ] | [ H+ ] |
[ PhO−] | = | Ka | = 10−2 |
[ PhOH ] | [ H+ ] |
[ PhO−] | = | Ka | = 102 |
[ PhOH ] | [ H+ ] |
(解答例)
アンモニア(NH3)は、アンモニウムイオン(NH4+)の共役塩基、
メチルアミン(CH3NH2)は、メチルアンモニウムイオン(CH3NH3+)の共役塩基である。
メチルアンモニウムイオンは相対的に弱い酸であるから、その共役塩基であるメチルアミンは、アンモニアより強い塩基である。
× 「pKa がより大きいほうが強塩基である」
→ Ka や pKa は、あくまでも酸の強さを規定するのみで、塩基としての強さは全く別ものである。(相関がある場合もあるが、酸の強さ、塩基の強さは、独立のパラメータであり、酸として弱く(たまたま)塩基としては強いケースもあれば、酸として弱く同時に塩基としても弱いケースもある。たとえば、メタン CH4 は アンモニア NH3 よりも弱い酸であるが、メタンはアンモニアよりも塩基としても弱い。)
× 「AH が酸としてより弱いということは、(AH が)塩基として強い」
× 「メチルアミンの方が pKa が大きく弱酸であるから、メチルアミンは塩基として強い」
→ pKa の大きいほうが弱酸であるというところまでは合っているが、そのことによって塩基としての強さを議論することはできない。たとえば、水が酸として働くときは共役塩基 OH- を生じるのだし、水が塩基として働くときは共役酸 H3O+ を生じる。前者の反応が起こりやすい、起こりにくいからといって、後者の反応が起こりやすいかどうかを議論することはできない。
○ 「AH が酸としてより弱いということは、その共役塩基(A− が)塩基として強い」
○ 「メチルアミンの共役酸の pKa の方が大きいので弱酸だから、その共役塩基であるメチルアミンは塩基としてより強い」
(解答例)
水中で作ることはできない。
tert-BuO- + H2O ←→ tert-BuOH + OH-
という式を考える。tert-BuOH(pKa=18)と H2O(pKa=15.74)では、水の方が強い酸であるから、水がプロトンを放出して反応は右へ進行する。
(解答例)
ピリジン酢酸塩(C5H5NH+・CH3CO2-)が生じる。下の式に従って生じる陽イオンと陰イオンからなる塩である。
(解答例)
(a) Ka = 10-19.3 = 5.01 × 10-20
(b) Ka = 10-3.75 = 1.78 × 10-4
(解答例)
(a) pKa = − log10(5.0 × 10-11) = 10.30
(b) pKa = − log10(5.6 × 10-5) = 4.25
Ka = | [ HCO2−] | [ H+] | = 10−3.75 = | ( C α ) | ( C α ) | = | C α2 |
[ HCO2H ] | C ( 1 − α ) | 1 − α |
(解答例)
ヒントに従って解くと、解離度 α は、0.0596 となるから、[ H+] = 2.98 × 10-3 mol/L である。従って、pH = − log [ H+] = 2.5 となる。
(発展)
上の(ヒント)に解説した扱いは、求めた pH が、酸の溶液の場合ではおよそ 6 以下、塩基の溶液の場合ではおよそ 8 以上である場合に正しい。(言い換えると、中性付近では正しくない。)もしこれよりもずっと稀薄で、中性付近の pH をもつ水溶液について考えなければいけない場合には、水の解離により生じる水素イオン濃度の影響が無視できないため、正確な pH を求めるためにはやや複雑な扱いをしなければならない。(これは、「分析化学」の範疇となる。)
(解答例)
酢酸(pKa=4.75)
問い 2.43 に示された酸を、一般的に HA と書くものとし、
HCO3- + HA ←→ H2CO3 + A-
という式を考える。H2CO3(pKa=6.37)よりも強い酸 HA は、HCO3- にプロトンを与え、自身は A- となり、反応は右へ進行する。従って、pKa が 6.37 より小さな酸のみが炭酸水素ナトリウムと反応する。
(発展)
なお、炭酸水素ナトリウム( NaHCO3 )は、塩基として反応するとき、炭酸よりも強い酸である物質よりプロトンをうけとり、より弱い酸である炭酸( H2CO3 )となる。炭酸は水に二酸化炭素が溶けたものであるから、強酸を炭酸水素ナトリウムで中和すると、二酸化炭素の気体が発生する。これは、次の平衡反応が「ルシャトリエの原理」に従い、炭酸( H2CO3 )の濃度が上がることにより右へずれることによるものと理解できる。
H2CO3 ←→ H2O + CO2
塩基として炭酸ナトリウム( Na2CO3 )を用いても、強い酸と反応して炭酸(結果として二酸化炭素の気体)を発生する。この時の反応は、第1段階目として、炭酸イオン CO32- がプロトンをうけとって炭酸水素イオン HCO3- を生じ、次に第2段階として、炭酸水素イオン HCO3- (炭酸水素ナトリウム)がもうひとつのプロトンをうけとることで進行する。したがって、酸−塩基反応の起こりやすさを考える場合には、
炭酸ナトリウム( Na2CO3 )
←→
炭酸水素ナトリウム( NaHCO3 )
←→
炭酸( H2CO3 )
の2段の反応として、それぞれを別個に評価してやる必要がある。(言い換えると、炭酸の2つの水素は、第1段階目と第2段階目で異なる酸性度定数 pKa を持つ。)
(解答例)
2.51 に示したように、酢酸のみが炭酸水素ナトリウムと反応して二酸化炭素を生じる。フェノールは反応しない。
ここで、気体(二酸化炭素)を発生する反応は、見た目で容易に判断できる。(気泡が確認できる。)
(解答例)
酸は赤で、塩基は青で示した。ただし、右辺は左辺に対する共役酸や共役塩基である。
(a) CH3OH + H+ → CH3OH2+
(b) CH3C(=O)CH3 + TiCl4 → CH3C(=O+:Ti-Cl4)CH3
(c) C6H10O + Na+・H- → C6H9O-・Na+ + H2
(d) C4H8ONH + BH3 → C4H8ON+(H)(B-H3)
(b), (d) は Lewis の定義による酸−塩基反応なので、右辺の各生成物に対して左辺の成分に対しての共役酸であるとか、共役塩基であるという言い方はしない。
(a) も、左辺の反応が Lewis の定義による酸−塩基反応として考えるなら、「右辺の CH3OH2+ は、左辺 CH3OH の共役酸である」という言い方はしない。
また、厳密な意味で (a) を Brønsted の酸−塩基反応として考えるなら、「 H+ は酸である」という言い方は間違いである。( H+ そのものが酸なのではなく、H+ を与えるものが Brønsted の酸である。そのため、酸 HCl や、酸 CH3CO2H に対しては、その酸の強さを示す指標の数値として酸性度定数 Ka を定めることができるが、H+ そのものに対して Ka を定めることはできない。)しかし、よくなされる省略として、 H+ が H3O+ のことを表しているものであると解釈してしまうと、H+ を Brønsted の酸として扱ってしまうことが可能となる。(明示的には示されないが、その場合の H+ (H3O+)の共役塩基は、溶媒である H2O ということになる。)
(c) の右辺にある H2 にしても、「H2 は、ヒドリドイオン H- を塩基として考えた場合の共役酸である」という文は正しいが、 H2 は酸としては非常に弱いので、単に「H2 は酸である」という言い方をした場合は(文脈にもよるが)正しくないことになるケースが多い。(この曖昧さは、「H2 は酸である」という文章が命題ではないことに由来する。「アリは細菌よりも大きい」という相対的な比較での文脈であれば正しいが、単に「アリは大きい」と言っても厳密には真偽を決めることが出来ないのと同じである。また、感覚的には「アリは大きい」といわれると偽だと感じるのである。)
(閑話休題)
Brønsted の表記は Brönsted となっている教科書もある。
なお、 ø は、「ギリシア文字のファイ: φ (html での表記 φ)」ではなく、「アクセント記号つきアルファベット letter o with stroke: ø (html での表記 ø)」である。
(解答例)
(a) 共鳴構造である。
(b) 共鳴構造ではない。水素原子の位置が左右で異なっているため。
(c) 共鳴構造ではない。水素原子の位置が左右で異なっているため。
(d) 共鳴構造である。
(解答例)
(a)
(b)
(c)
(b) や (c) において、×で示した構造は、電気陰性度が高い窒素や酸素原子から電子対を奪われて価電子が6個になったもの(青字で示した原子)を含み、重要ではない。
(解答例)
カルボカチオン H3C-CH(+)-CH=CH2 は、次式で示すような共鳴の寄与により、正電荷は2つの炭素に非局在化していると考えられる。そのため、水分子とも、2箇所で反応が起きる。
上図において、構造 I と構造 II は、共鳴の極限構造であるから、これらの異なる構造が実在するわけではない。このカルボカチオンは、この2つの極限構造式の中間のような性質をもつただひとつの構造であり、すなわち正電荷が2つの炭素上に部分電荷として存在しており、構造 III のように描くことができる。この構造 III のカチオンの異なる2箇所の炭素上に水が攻撃することで、アルコール IV およびアルコール V が生じる。
(解答例)
ここでは、単に結合の分極から生じる双極子モーメントの向きのみを問題にする。実際には、同じ「炭素−酸素」結合でも、アルコールのように単結合の場合と、カルボニル基の二重結合の場合では、分極の度合いが異なる。(単結合の σ電子にくらべ、二重結合の π電子は分極しやすい。)
(解答例)
メタノールを酸として考えたときの共役塩基であるメトキシドイオン CH3O- は、特に共鳴構造を描くことができない。
これに対してフェノールの共役塩基、フェノキシドイオン(C6H5O-)は、以下で示すような共鳴効果により安定である。共役塩基(フェノキシドイオン)が安定ということは、その共役塩基そのもの(フェノキシドイオン)がプロトンを受け取りにくく、弱塩基であるから、(元の酸である)フェノールは、アルコールと比較してより強い酸であると結論できる。