(解答例)
2-methylbut-1-ene または 2-methylbut-2-ene が生じる可能性がある。
※ 単に幾何学的に考えて、上の解答のように2つの可能性が考えられる。ただし、反応を実施するときの条件によっては、いずれか一方のみが生成するような場合もある。たとえば、そのために利用できる考え方のひとつとして、生成する可能性のある2種のアルケンを比較してみても、一方では2置換のアルケン、もう一方では3置換のアルケンであるから、その安定性に差があることを§6.6 で学んでいる。
(発展)
ハロゲン化アルキルからの、塩基によるハロゲン化水素の脱離反応における電子の動きは次図の通り。
(解答例)
(E)- および (Z)-3-methylhex-2-ene、2-ethylpent-1-ene、(E)- および (Z)-3-methylhex-3-ene の5種類。
(発展)
水酸基の酸素の孤立電子対(ルイス塩基)に、プロトンが配位すると R-OH から R-OH2+ が生じる。OH- は脱離基としての性質をあまりもたないから、R-OH から R+ が生じる反応は起きにくいが、H2O は脱離しやすいので、R-OH2+ からは容易に R+ を生じる。こうして生じたカルボカチオンがプロトンを失うと(アルケンにプロトンが付加してカルボカチオンが生じる反応の逆反応)アルケンを生じる。
(解答例)
位置選択性については、考慮する必要がない。(もともと二重結合の左右が対称であることと、二重結合の2つの炭素に対し同じ置換基(塩素)が結合していくことの2つの理由から。)
立体選択性については、ブロモニウムイオンのような3員間の中間体を経由するため、一方の面は立体的に遮蔽されるから、逆の面からの攻撃のみが生じる。そのために、アンチ付加となる。
従って、シクロアルケンに対しては、トランス体のみを与える。
(発展)
1,2-dichloro-1,2-dimethylcyclohexane は、シス体、トランス体があり、また、トランス体は光学異性体のペアをもつ。(シス体は、左右対称であるために光学異性体とならない。) ここでは、トランス体の光学異性体については、区別して扱わないものとする。
すなわち、たとえトランス体のみが生じるような条件でも、これらの鏡像異性体が同じ確率で(混合物として)生じているはずである。ただし、鏡像異性体同士は、偏光に対する以外の物性が変わらないので、特に意識して区別する場合以外は断らないことがある。
(解答例)
上図のような反応機構で進行する。中間体のカルボカチオンの中心炭素は、sp2 混成であるから平面構造をもつ。このため、塩化物イオンの反応は、面の上下から(ほぼ)等しい確率でおこるから、生成物において、立体選択性がみられない。
上図において、生成物中の2つのメチル基が、それぞれシス配置にあるものとトランス配置にあるものが生じている。
立体選択性がなく、アンチ付加、シン付加の区別なく両方がおきるため、生成物は、シス体とトランス体の混合物となる、と表現することもできる。
(解答例)
ブロモニウムイオンを経由する(教科書 p213 図7.1を参照)。そのため、立体選択性としては、アンチ付加で臭素と水酸基が、隣接する炭素に付加する。
なお、出発物質の二重結合が左右対称であるから、この問いでは、位置選択性について、考えなくてよい。ハロヒドリンの生成における位置選択性については、次の問いで扱う。
生成物の構造は下図のようになる。
反応機構を、図 7.1 にならいそれぞれ書いてみること。上のヒントにも述べたように、NBS は、それ自身が反応に直接関与するのではなく、臭素(Br2)を少量ずつ系中で発生する試薬である。
上図において、X は、水分子(H2O)で、酸素の孤立電子対が求核性を示す。生じるのは、プロトン化したアルコール(R-O+H2)なので、さらにプロトンを放出すると、中性のアルコール(R-OH)になる。
(発展)
DMSOなどの高極性溶媒中の水分子は、水分子同士の水素結合がない分、求核性が強い。従って、ハロヒドリンを作るときには、水中で低濃度の臭素と反応させるより、DMSO中に水を加えたものを溶媒として選択することがある。
(解答例)
ブロモニウムイオンは、臭素が3員環で結合している2つの炭素のうち、よりカルボカチオンが安定化をうけるような炭素の方に正電荷が非局在化していると考えられる。すなわち、カルボカチオン中間体を仮定した時と同じ生成物を与える。
マルコフニコフ則は、カルボカチオンの安定性により位置選択性がでることを示すのだから、ハロヒドリン生成反応においても同じ配向性であると言える。
(解答例)
オキシ水銀化法では、マルコフニコフ配向性に従うから、3級や2級のアルコールが生じやすい。
(a) pent-1-ene から pentan-2-ol
pentan-1-ol を生じるためには、より不安定な1級のカルボカチオンを通る必要がある。
(b) 2-methylpent-2-ene から 2-methylpentan-2-ol
2-methylpentan-3-ol を生じるためには、より不安定な2級のカルボカチオンを通る必要がある。
(発展)
カルボカチオンは、その一般的な反応として転位反応がある。そのため、硫酸、リン酸などの触媒による水和では、カルボカチオン中間体を経由するために、骨格の転位がおこって、出発物のアルケンから予想しなかったような構造のアルコールが得られることがある。オキシ水銀化法では、図7.3、教科書216ページに示されるように、カルボカチオン中間体を経由しないために、骨格転位は起きない。
この点を除けば、ほぼ同じ反応が進行すると理解してよい。
ただし、厳密には、反応の立体選択性にも差が生じる。カルボカチオンを経由する場合には、問い 7.4 でも扱ったように、立体選択性がない反応である(シン付加、アンチ付加の両者が同程度生じる)のに対し、環状の中間体であるマーキュリニウムイオンを経由する場合には、ブロモニウムイオンを経由した問い7.2のような反応で、アンチ付加となったのと同じ理由により、立体選択性がでてくることになる。ただし、図7.3、教科書216ページにおいて、「有機水銀化合物」として表示されている一方の炭素に -OH、もう一方の炭素に -HgOAc が結合した生成物においてアンチ付加となっている。NaBH4 による最後の反応段階は、ヒドリドイオン H- によって -HgOAc が置換される反応である。教科書の11章でも詳しく学ぶが、このような置換反応においては炭素上の配位子の立体が反転する(脱離する -HgOAc とは逆の方向から H- が攻撃し、あたかも後ろから追い出されるような形で反応が進行する)。そのため、「有機水銀化合物」においてアンチの関係にあった、一方の炭素上の -OH と、もう一方の炭素上の -HgOAc は、この置換反応によって、シンの関係にある -OH と、もう一方の炭素上の -H へと変換される。すなわち、トータルとしてみたときに、「シン付加」で水が付加している関係になっている。
(解答例)
下図で、赤矢印は「オキシ水銀化法」による水和により、マルコフニコフ配向に従って生じるアルコールである。また、青矢印は逆の配向性(位置選択性)をもつ反応によって生じるアルコールである。
§7.5 で学ぶが、「ヒドロホウ素化」は、逆マルコフニコフ配向(図、青矢印)でアルコールを与える方法である。
(a) 2-methylhexan-2-ol
(こたえ)2-methylhex-1-ene または、2-methylhex-2-ene のいずれかから、オキシ水銀化法により合成する。
(b) 1-cyclohexylethanol
(こたえ)vinylcyclohexane からは、オキシ水銀化法により合成することが可能であるが、ethylidenecyclohexane からオキシ水銀化法では合成できない。(ヒドロホウ素化反応を用いれば可能)。
(解答例)
(a) 2-methylpentan-3-ol
(b) 1-cyclohexylethanol
(発展)
授業でも説明したとおり、ヒドロホウ素化反応の位置選択性が、逆マルコフニコフ配向となるのは、2つの理由による。(教科書の第7版では、このうちの1つしか記述されていない。第6版では、2つとも記述されていたが、割愛されたようです。)いずれも、二重結合の π電子からルイス酸であるホウ素への求核攻撃の形式をもつ4員環遷移状態の形成のところで位置選択性が決まる。
1つめは立体的な要因で、より嵩高い R2B- が立体的により混み合いの少ない炭素に結合し、より嵩の小さい -H が立体的に混みあった内側の炭素に結合するからである。
もう1つの理由は、電子的な要因(電荷同士の相互作用によるもの)である。教科書の図7.4に描かれているように、4員環の遷移状態を経由して一段階での付加が起きるのであるが、この部分を、まず BR2H の付加でとめて書くと R2C(+)-CR2B(-)HR2 となる。すなわち、最終的な4員環遷移状態は、二重結合炭素2つのうち、ホウ素の結合しない方の炭素に正の部分電荷 δがあるような電子構造をもつものであると考えられる。ということは、カルボカチオンと同様に、より多置換の炭素上の正の電荷があるほうが有利であるから、立体的な要因と同じ配向性を与えることになる。
ヒドロホウ素化反応の立体選択性は、オキシ水銀化法と同様にシン付加である。オキシ水銀化法では、マーキュリニウムイオンへの水酸基の求核付加の段階で一度アンチ体を生じ、ヒドリドによる置換でシン体に戻る(置換基の入れ替えで立体の反転が起きている)のであるが、実は、ヒドロホウ素化反応ではこの部分に差がある。ヒドロホウ素化反応では、4員環遷移状態となった時点で、シン付加である。ホウ素が酸化的に水酸基に置き換わる反応では、(オキシ水銀化法のときとは異なり)炭素上の立体の反転は起きない(従って、シン−アンチの入れ替えが起きない)。これは、何故かというと、酸化によるホウ素から水酸基への入れ替えは、解答例の (a) に詳しい機構を載せたが、炭素上での置換ではなく、その炭素を含むアルキル基のホウ素から酸素への転位を含む反応で進行するからである。
(解答例)
(a) 3-methylbut-1-ene, (3-methyl-1-butene)
(b) 2-methylbut-2-ene, (2-methyl-2-butene)
(c) methylenecyclohexane
ヒドロホウ素化とそれに続く酸化によって得られるアルコール合成(逆マルコフニコフ配向)は青矢印で、オキシ水銀化法によるアルコール合成(マルコフニコフ配向)は、赤矢印で示した。
(解答例)
逆マルコフニコフ配向での水和により、2,4-dimethylcyclopentanol の2種の立体配置異性体が得られる。
二重結合の炭素は、sp2 混成をしており、平面形3配位の構造を持つ。その面の上下(すなわち、π 電子のでている方向)からボラン(またはジアルキルボラン)がシン付加したのち、立体を保持したままホウ素が水酸基に置き換えられる。この際のメカニズムの詳細については、7.9(a) の解答例を参照のこと。
また、同じ出発物質に対して、カルボカチオン経由の水和反応、またはオキシ水銀化法では、いずれもマルコフニコフ配向での水和となり、1,3-dimethylcyclopentanol の2種の立体配置異性体が得られる。
上のカルボカチオン経由の水和反応では、立体選択性はなく、シン付加、アンチ付加がほぼ等量進行すると考えられる。下のオキシ水銀化法による水和では全体としてシン付加であるが、水素の結合していく炭素上にもともと水素があるから、反応性生物の構造上、シン付加なのかアンチ付加なのかは区別できないので、カルボカチオン経由の水和と同じ生成物の混合物を与える。
(解答例)
(a) 1,1-dichlorospiro[5.2]octane
(b) 1-isobutyl-2-methylcyclopropane
(or 1-methyl-2-(2-methylpropyl)cyclopropane )
出発物質の 5-methyl-2-hexene の立体が E 体だった場合は生成物が trans 体に、逆に出発物質が Z 体だった場合には生成物が cis 体になる(次図)。
(解答例)
(a) 2-methylpentane
(b) 1,1-dimethylcyclopentane
(発展)
この問題に与えられた出発物質からは、水素のシン付加、アンチ付加ともに同じ生成物を与えるから、水素付加反応における立体を区別して考える必要はないが、水素を重水素( D2 )などに替えることにより、この区別を明かにすることができる。たとえば、(b) からの生成物は、次図のように、2つの重水素原子( D ) がシス配置になった生成物のみが生じる。
(解答例)
反応機構は、教科書 p227 の中段を参照。または、下の(発展)の項を参照のこと。立体選択性がシン付加であるから、次の図ように、シス体が得られる。
(上下のいずれで書いてもよい)
生成物は、cis-2,3-epoxybutane, または、 cis-2,3-dimethyloxirane
butane の 2,3 位に酸素が架橋して3員環を形成している。または、オキシラン(oxirane)環(酸素が1位)の2,3 位にメチル基が結合している。(発展の2)
(発展)
反応によく使用される過酸は、過酢酸 CH3CO3H、過安息香酸 C6H5CO3H、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)Cl-C6H4CO3H などである。過酸による反応機構は、教科書 227 ページ中段の図を参照のこと。
なお、カルボン酸は
R-CO2H ←→ R-CO2- + H+
の解離平衡を持つのに対し、過酸では形式的に
R-CO3H ←→ R-CO2- + OH+
と書くことができる。OH+ というイオンは、酸素上に2対の孤立電子対があるがオクテットを満たしておらず、3配位のホウ素(ヒドロホウ素化反応)やカルベン(シモンズスミス反応)と同様にルイス酸である。上の過酸の解離平衡が有意に生じるような極性溶媒中では、OH+ が二重結合に求電子的に付加し、プロトン化されたエポキシドを生じたのち、脱プロトン化するような機構でエポキシドを生成していくような反応経路も考えられる。
また、エポキシドの生成において重要な点は、立体選択性がシン付加である点である。これは、ハロヒドリンを経由した場合もトータルではシン付加となり同じである。すなわち、はじめにハロニウムイオンをシン付加で生じ、これに水が面の逆方向から付加してアンチの付加でハロヒドリンを生じる(すなわち、ハロヒドリンはトランスの位置関係にハロゲン基と水酸基を持つことになる)。水酸基よりプロトンを失ったアルコキシドが分子内でハロゲンの反対方向より炭素を攻撃するために(求核置換反応の起きた炭素上で立体の反転が生じて)、エポキシドはシン付加の形で生じる。
さらに、エポキシドは、もういちど水酸化物イオンの攻撃をうけると、開環して 1,2-ジオールを与えるが、このときに更に立体の反転が生じるから、アンチ付加となる点も重要である。これは、他の方法で OsO4 や、冷アルカリ性過マンガン酸カリウム KMnO4 といった条件でも1,2-ジオールを得ることができるが、シン付加で進行するのと、相補的である(互いに補いあう関係である)からである。
(発展2)
命名において「epoxy」とは、「酸素を含む3員環」のことではなく、「-O- という手の2本ある酸素で架橋された」という意味である。従って、二重結合の位置を示すのには but-2-ene などのように数字を1つだけ用いたのに対し、3員環のエポキシドの構造を示すためには、メチル基などと同じように母体の前の接頭語として、2,3-epoxybutane のようになる。(形式的には、1,3-epoxybutane (酸素を含む部分が4員環)という言い方もできることになる。)
また、含酸素の3員環として oxirane を母体とした命名も可能である。更に、炭化水素のメチレンを酸素で置き換えたときに -oxa- で命名することもできる。これらによると 1,2-epoxyethane は、(無置換の)oxirane という言い方、または、oxacyclopropane という言い方ができる。また、慣用名では、ethyleneoxide とも呼ばれる。その他、詳細については、教科書 18章等を参照すること。
(解答例)
(a) 1-methylcyclohexene から。
1-methylcyclohexane-1,2-diol
反応条件は、KMnO4 (冷・アルカリ性)を用いるか、OsO4 で処理したのち、NaHSO3 で還元する。(教科書 229ページのように、OsO4/NMO でもよい。NMO は、N-メチルモルホリン-N-オキシド)。
この反応では、シン付加のみがおきるという意味で立体選択性はあるが、その付加が面のどちらからおきるかという面選択性はない。そのため、上で示したような2つの光学異性体の混合物になるはずである。
(b) 2-methylpent-2-ene から。
2-methylpentane-2,3-diol
生成物の構造を考えると、立体選択性がシン付加でも、アンチ付加でもよい。そのため (a) と同じ反応条件(シン付加)でもよいし、過酸でエポキシドとしたのちにアルカリ水溶液で加水分解(アンチ付加:発展の項を参照)でもよい。
なお、これらいずれの反応でも面選択性はない。そのため、上図中に、* の記号で表した不斉炭素(4つの結合がいずれも異なる炭素)の持つ4本の結合同士の幾何配置(立体化学)は、あり得る2種類の両方が等量ずつ生じる(ラセミ体)。(←詳細は、9章を参照のこと)
(c) 1,3-butadiene、または、2-butene-1,4-diol から。
butane-1,2,3,4-tetraol
(b) と同様、シン付加でもアンチ付加でもよい。
(以下、読み流してよい。)また、2位、3位の炭素はいずれも不斉炭素となり、特別な条件を用いない限り、これらの炭素上の立体を作りわけることはできない。9章で詳細を学ぶが、(2R,3R)体、(2S,3S)体、meso体の3種の混合物となる。(2R,3R)体と(2S,3S)体は互いに光学異性体で、これら2つに対し meso体はジアステレオマーの関係にある。
(発展)
KMnO4 を用いた場合、酸性ではより酸化力が強く、酸化開裂生成物を与えるので注意すること。(オゾン酸化との生成物の比較でまとめておく。)
なお、trans-1,2-diol を合成するためには、エポキシドを加水分解するとよい。
アルカリ性の加水分解では、エポキシドに対して水酸化物イオンが、また、酸性の加水分解では酸素上にプロトン化をうけたエポキシドに対して水分子が、それぞれ求核攻撃することになる。いずれにしても、3員環の一方の炭素上で、求核攻撃とは逆方向に酸素が抜けていくので、結果的に環が開く脱離により生じる方の水酸基(はじめに3員環を形成していた酸素を含むほう水酸基)は、攻撃してくる基(水酸化物イオン、または水分子)に由来する水酸基とはアンチの方向に結合することになるからである。
なお、エポキシドの加水分解において、生じる化合物がジオールであるから、どちらの炭素上に求核攻撃が起きた結果であるのかを気にする必要はない。
ただし、詳細に検討すると、エポキシ環に対する求核攻撃による開環反応の位置選択性(配向性)は、酸性とアルカリ性では逆転することが知られている。(立体選択性は、ともに等しくアンチ付加である。)
酸性では、エポキシドの酸素にプロトンが配位し、酸素上の形式電荷がより級数の多い方の炭素に広がり、まるでマルコフニコフ配向性のように、級数の多い炭素上で求核置換を受けやすい。これに対し、中性またはアルカリ性のエポキシドは、級数の少ないほうの炭素の方が立体的にすいている理由により、級数の少ない方の炭素上で求核置換を受けやすい。
酸化数=1 | 酸化数=2 | 酸化数=3 | 酸化数=4 | |
---|---|---|---|---|
(1級アルコール) | CH3OH | H2C=O | HCO2H | H2CO3 ( = CO2 + H2O ) |
1級アルコール | CH3CH2OH | CH3CHO | CH3CO2H | - |
2級アルコール | (CH3)2CHOH | (CH3)2C=O | - | - |
3級アルコール | (CH3)3COH | - | - | - |
(解答例)
(a) 6-oxoheptanoic acid
(b) 6-oxoheptanal
(発展)
オゾン酸化では、インプットとアウトプットを対応させておくことが第一に重要です。
R2C=CR2 → R2C=O + O=CR2
ここでは、更に踏み込んで反応機構(的なもの)を解説します。
反応の第一段階では、オゾン(O+-O-O-)がアルケンに対して 1,3-双極子付加してモルオゾニドを与えます。このモルオゾニドは、すぐに分解し、再び 1,3-双極子付加によりオゾニドを形成します。この機構は、授業でも説明したとおりです。(教科書p230)
モルオゾニドから生じた R2C+-O-O- に、水が付加すると、 R2C(OH)OOH になりますが、これは、ヒドロキシヒドロペルオキシドと呼ばれます。(ヒドロペルオキシドは、-OOH の構造を持つ分子のことです。)
ここでは、酢酸中で反応を行っているので、酢酸が付加した形を書いてみました。
ここで、このヒドロペルオキシ基 -OOH をヒドロキシ基 -OH にする反応について考えてみましょう。これは、還元反応になります。ここで還元剤は亜鉛です。酢酸中で Zn2+ イオンと電子にわかれ、この電子がヒドロペルオキシドに流れこむことで還元が生じます。以下、わかりやすいように模式的に示してみました。
もうここまでくれば、あと一歩です。
さて、上の図で、-X が水酸基 -OH であれば、ここから水を脱離させることでカルボニル基を得ることができます。次図では、酸触媒(H+ の付加と脱離がある)での機構を示しています。
同様に、-X がアセトキシ基 -OAc であれば、ここから酢酸を脱離させることでカルボニル基を得ることができます。
(解答例)
(a) 2-methylpropene をオゾン分解。
(b) 3-hexene (E 体、または Z 体のどちらでも)をオゾン分解。
(解答例)
(a)
methyl vinyl ether
(b)
1,2-dichloroethene の幾何異性体(シス/トランス)は、どちらでもよい。
(解答例)
なお、ラジカル種同士が結合して単結合をつくる反応も、停止段階のひとつである。
上の2つの図において、矢印はすべて「電子対」ではなく「1つの電子」の動きを表すので、矢印の頭は斜め線が片方にしかでていない矢印(カタカナの「レ」のような形)であることに注意すること。
(解答例)
(i) 二重結合の対応した位置に、シン付加でエポキシドを与える。
(ii) 酸性 KMnO4 では、ケトンとカルボン酸を、(iii) O3 と、引きつづいての Zn/AcOH の処理では、ケトンとアルデヒドを生じる。
(a) 2,5-dimethylhept-2-ene
(i)
2,5-dimethyl-2,3-epoxyheptane を与える。
(ii),(iii)
acetone とともに、酸性 KMnO4 処理では 3-methylpentanoic acid を、Zn/AcOH 処理を伴うオゾン開裂では 3-methylpentanal を与える。
(b) 3,3-dimethylcyclopentene
(i)
1,1-dimethyl-2,3-epoxycyclopentane ※ を与える。
(ii),(iii)
酸性 KMnO4 処理では 2,2-dimethylpentanedioic acid を、Zn/AcOH 処理を伴うオゾン開裂では 2,2-dimethylpentanedial を与える。
※ 2,2-dimethyl-6-oxa-bicyclo[3.1.0]hexane とも。
(解答例)
(a) 2,3-dimethylpentan-3-ol は3級のアルコールで、水和によりこのアルコールを潜在的に与えることができるアルケンは3種存在する。
3,4-dimethylpent-2-ene は、オキシ水銀化法で3級のアルコール 2,3-dimethylpentan-3-ol を与える。ヒドロホウ素化反応では、2級のアルコール 3,4-dimethylpentan-2-ol を与える。
2-ethyl-3-methylbut-1-ene は、やはりオキシ水銀化法で3級のアルコール 2,3-dimethylpentan-3-ol を与える。ヒドロホウ素化反応では、1級のアルコール 2-ethyl-3-methylbutan-2-ol を与える。
最後に、2,3-dimethylpent-2-ene は、二重結合の炭素がどちらも2つのアルキル置換基をもつから、2種の3級アルコールの混合物を与えてしまう。このため、2,3-dimethylpentan-3-ol を得る目的では、好ましくない。
(b) 3,3-dimethylcyclopentanol は、潜在的には2種のアルケンから合成可能である。
4,4-dimethylcyclopentene は、二重結合炭素のどちらに水酸基が結合しても同じアルコール 3,3-dimethylcyclopentanol を与えるのに対し、3,3-dimethylcyclopentene では、水和により、2種のアルコール2種類を与えてしまう。後者から得られる2種のアルコールはどちらも2級なので、ヒドロホウ素化反応、オキシ水銀化反応のいずれを用いても位置選択性は(ほとんど)生じないと考えられる。
(解答例)
下の写真を見てわかるように、2つのメチル基は二重結合を覆うように突き出している。そのため、ボランが二重結合に求電子的に反応しようとするとき、立体的に空いているほうからのみ近づくことができる。そのため、一方の生成物のみが得られる立体特異的な反応である。
このアルケンの分子模型の写真(side view and top view)
(発展)
本問題で与えられているアルケンは、7,7-dimethylbicyclo[2.2.1]hept-2-ene である。二環系化合物の命名は、問題 4.48 および 4.54 の発展の項を参照すること。
bicyclo[2.2.1]heptane 骨格は、norbornane とよばれ、二重結合を持つ bicyclo[2.2.1]hept-2-ene は、norbornene とよばれる。
なお、ノルボルネンは、開環メタセシス重合によるポリマーの原料として使用される。
以下、外部リンク。
Norbornene, Polynorbornenes → http://en.wikipedia.org/wiki/Norbornene
開環重合 → http://ja.wikipedia.org/wiki/開環重合
メタセシス → http://ja.wikipedia.org/wiki/メタセシス反応
(解答例)
生成物は、trans-4-methylcyclohexane-1,2-diol
これをあたえる原料は、4-methylcyclohexene
また、2つの水酸基がトランスの位置関係で付加するためにはアンチ付加でなければならない。
KMnO4 (冷・アルカリ性)、または、OsO4 で処理したのち NaHSO3 で還元(または、OsO4とNMO)の2つの条件は、いずれもシン付加で、cis-diol を与える。
ここでは、過酸(mCPBAなど)によりエポキシドとしてから、酸またはアルカリ性条件で加水分解する方法により、反応はアンチ付加で進行し、trans-diol が得られる。
(解答例)
(a) 接触水素添加。
位置特異性:考慮の要なし。
立体特異性:シン付加(ただしこの問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらないので考慮しなくてもよい)。D2 の付加になる場合、二重結合にアルキル基等が置換していた場合等では、この立体特異性に気をつけなければならない。
生成物は ethylbenzene 。
(b) 臭素化。
位置特異性:考慮の要なし。
立体特異性:アンチ付加(3員環であるブロモニウムイオンを経由するため。この問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらない)。
生成物は、(1,2-dibromoethyl)benzene
(c) オスミウム酸化。NMO(N-メチルモルホリン-N-オキシド)は、生成する中間体のオスミウム酸環状エステルを加水分解してジオールを与えると同時に、生じるオスミウム酸 OsO2(OH)2 を系中で酸化して OsO4 を与えるための試薬。OsO4/NMO の条件では、OsO4 は触媒量でよい。教科書的には、二重結合に対し1当量の OsO4 を加え、完全にオスミウム酸エステルとしたのち、NaHSO3 で還元的にジオールを得る方法でも等価である。
位置特異性:考慮の要なし。
立体特異性:シン付加(ただしこの問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらないので考慮しなくてもよい)。
生成物は、1-phenyl-1,2-ethanediol
(d) ハロヒドリンの生成
位置特異性:マルコフニコフ配向に従う。ハロニウムイオンの正電荷が、より級数の高い炭素上に多く局在するため、水分子による求核攻撃は級数の高い炭素上で起きる。これは、ハロニウムイオンとの共鳴構造として、開環したような形で描かれるようなカルボカチオンが、より安定となるような炭素上で反応が起きるという意味である。従って、水による求核攻撃はフェニル基の結合した炭素上で生じることになる。
立体特異性:アンチ付加((b と同様に3員環のハロニウムイオンを経由するため。ただしこの問題では、反応の立体特異性により生成物の構造は変わらないので考慮しなくてもよい)。
生成物は、2-chloro-1-phenylethanol
(e) シモンズ−スミス反応
位置特異性:考慮の要なし。
立体特異性:シン付加
生成物は cyclopropylbenzene
(f) 過酸によるエポキシドの形成
位置特異性:考慮の要なし
立体特異性:シン付加
生成物は 1-phenyl-1,2-epoxyethane
または2-phenyloxirane, または慣用名として styreneoxide
生成物の構造を下にまとめてしめす。左より (a) 〜(f)。
(解答例)
(a) 2-methylhexane
2-methylhex-1-ene, 2-methylhex-2-ene, 2-methylhex-3-ene
5-methylhex-2-ene, 5-methylhex-1-ene から合成できる。
(b) 1,1-dimethylcyclohexane
3,3-dimethylcyclohexene, 4,4-dimethylcyclohexene から合成できる。一番右のように、炭素から5本の結合を書いてはいけない。
(c) 2,3-dibromo-5-methylhexane
5-methylhex-2-ene から合成できる。
(d) 2-chloro-3-methylheptane
3-methylhept-1-ene から合成できる。3-methylhept-2-ene からは、より安定な3級のカルボカチオンを経由し、3-chloro-3-methylheptane を与える。
(e) pentan-2-ol
pent-1-ene から合成できる。pent-2-ene からは、同じ程度に安定な2級のカルボカチオンが2種類生じうるから、pentan-2-ol と同時に pentan-3-ol を与える。
(f) spiro[2.5]octane
methylenecyclohexane (methylidenecyclohexane) から合成できる。
(f) について、問い 7.40 にもあるように、使用されるジハロアルカンで、ジヨードメタン以外の 1,1-ジヨードアルカンを用いる例もある。すなわち、生じるシクロプロパン環が置換基を持つものにも拡張可能である(問い 7.40 参照)。従って、単に形式的には、末端の位置でのジハロアルカンではないものの 1,1-diiodocyclohexane と ethene との反応でも目的化合物を与える可能性があるようにも見える。ただし、立体要因等が異なってくるので、これが実際に可能であるかどうかは不明。また、もし可能だとしても、ethene が常温で気体であることを考えると、扱いやすい条件ではない。
(解答例)
(a)
(b) (a)と同じ出発物質と反応させれば、
cyclohexene との反応なので、
(c)
位置選択性は逆マルコフニコフ配向、立体選択性はシン。
(d)
位置選択性はマルコフニコフ配向、立体選択性はシン。
(解答例)
(a) OsO4/NMO
1) OsO4, 2) NaHSO3, H2O と書いても可。
または、冷アルカリ性 KMnO4 でも同じ反応をする。
(b) 1) BHR2, 2) H2O2, OH- (ヒドロホウ素化反応)、
または、1) Hg(OAc)2, H2O, 2) NaBH4 (オキシ水銀化法)など。
(位置特異性を考えなくて良いから、どちらの反応条件も用いることができる。)
(c) CHCl3, NaOH (ジクロロカルベンを生じさせる条件。※)
(d) H2SO4, 加熱 (カルボカチオンを生じさせ、脱プロトン化:二重結合への水和反応の逆反応)、
または、POCl3 / pyridine (ピリジン溶媒中、リン酸エステルに変換し、そのまま脱離させる:教科書17章にこの反応条件が書いてある。)、
または、1) TsCl, 2) base (トシル化後、塩基による脱離反応)
などが用いられる。
(e) 1) O3, 2) Zn/AcOH (オゾン酸化。)
(f) 1) BHR2, 2) H2O2, OH- (ヒドロホウ素化反応:逆マルコフニコフ配向の反応なので。)
ただし、(b) および (f) の答えにおいて BHR2 は、ボラン BH3 または、9-BBN など。
9-BBN(9-BoraBicyclo[3.3.1]Nonane)は、cyclooctadiene とボランにより生成される試薬で、シクロオクタン環の1位と5位を-BH- で架橋した構造をもつ。このシクロオクタン環の部分の立体的要因のため、-BH- 部分によるヒドロホウ素化反応の位置選択性が非常に高いことで知られる。
※ 「NaOH」は、ここでは強塩基であればよいので、同じ塩基(-OH)の「KOH」でもよいです。
(解答例)
反応機構を次図に示した。
ここで、反応中間体はカルボカチオンである。cyclohexene より生じる2級のカルボカチオンより、1-methylcyclohexene より生じる3級のカルボカチオンの方がずっと安定である。これを考慮して、反応のポテンシャルエネルギー曲線を作成すると、定性的に次図のようになると考えられる。
原料のアルケンも、多置換であるほうが若干安定であることを反映させて作図した。反応中間体が安定であるということは、反応の活性化エネルギーが小さいということを示す。すなわち、反応が速く進行する。したがって、HBr の極性付加は、1-methylcyclohexene に対しての反応の方が、cyclohexene に対してよりも速い。
(解答例)
水酸基と重水素(-D)が、シクロペンタン環の同じ面側に結合し、trans-2-methylcyclopentanol の重水素化体を生じる。
立体化学:シン付加
位置選択性:逆マルコフニコフ配向性
(解答例)
2,3-dimethylbut-2-ene
(解答例)
(a) but-1-ene, 末端の =CH2 は、炭酸 H2CO3 を与える。炭酸は、二酸化炭素を水に溶かして生じる酸である( H2CO3 ←→ H2O + CO2 )から、二酸化炭素と同等として考えてよい。(7.16、7.17 なども参照)
(b) 2-methylhex-2-ene
(c) isopropylidenecyclohexane
または、(1-methylethylidene)cyclohexane
(d) 1-ethylcyclohexene
なお、(d) は、生成物中にケトン基とカルボキシ基とを併せもつから、1つの分子より複数の 6-oxooctanoic acid を与えるような答えまで含めると、その可能性はいくつもある。いくつかの例のみ以下に示した。特に、この条件ではアルデヒドがカルボン酸にまで酸化されるために「ケトンとカルボン酸を生じる」のであるから、はじめから分子内にアルデヒドを持つ場合にも、次の3例目のように、カルボン酸にまで酸化される。
(解答例)
(a) 化合物 A(分子式 : C10H16)の不飽和度は、3と計算される。ベンゼン環は、それだけで不飽和度が4必要であり、この分子中にはない。また、与えられた条件より、接触水素化される二重結合が1箇所だけであるから、あとの不飽和度2は、環の構造に由来するはずである。
(b) オゾン酸化でジケトンを生じることから、4置換のアルケンであるが、このことから最低6個の炭素を必要とする。化合物 A、B の構造は、これらのことと、「環を2つもつこと」「ジケトン B が対称であること」などを考慮すると、化合物 A の構造として、次のようないくつかが可能性として考えられる。(歪みの大きい3員環や4員環は除いて考えた。また、ジケトン B の「対称であること」の意味のとり方によっては、一番右の構造のように、「2つのカルボニル基は異なるが、それぞれカルボニル基の左右のアルキル基は対称となる」ものも考えることができるだろう。(これ以外のものからは、「2つのカルボニル基が同じ環境になるようなもの」である。もちろん、これら両方の条件を満たすものもある。)
(c) 上の左端の化合物を例として、反応式を示す。
(解答例)
化合物 A(分子式 : C6H12)の不飽和度は、1と計算される。接触水素化により1モルの水素を吸収するから、この不飽和度は二重結合に由来する。
酸性 KMnO4 での処理により、炭素数6の炭化水素、化合物 A は、2つのフラグメントになり、その一方は、炭素数3のプロパン酸である。従って、もう一方のフラグメント、化合物 C も炭素数が3である。化合物 C はケトンであると指定しているから、炭素数を併せて考慮すると、acetone のみが該当する。
以上を元に化合物 A の構造が確定するので、これをオスミウム処理して生じるジオール B の構造も対応して決まる。
反応式を以下に示した。
(解答例)
それぞれ、反応により生じる生成物が何であるかを調べれば、もとの構造がわかる。
オゾン酸化と、引きつづいての亜鉛処理によって、cyclopenta-1,3-diene からは butanedial と ethanedial の2種のジアルデヒドが生じる。これに対し、cyclopenta-1,4-diene からは propanedial のみが生じる。
なお、酸性 KMnO4 を用いると、それぞれ対応するジアルデヒドの代わりにジカルボン酸が得られる。
(発展)
現代の有機化学では、核磁気共鳴分光法(NMR)などの機器分析をおこなえば、多くの物質の構造を正しく決めることができる。従って、実際問題として、cyclopenta-1,3-diene と cyclopenta-1,4-diene のように単純な構造の物質であれば、その区別を行うのに化学反応の生成物を比較する必要があるわけではない。
しかし、高価な測定装置が無い場合には、分子量、不飽和度などの情報から分子構造を推定しなければならないことがある。この問題は、そのような側面からの原理的な問いであると考えればよい。
つまり、異性体(同じ分子量をもつ異なる物質)の間の比較から、異なる分子量を持つものの間の比較に持ち込むことができれば、区別は格段に容易になるということである。特に、不飽和の長鎖アルケンの中の多重結合の位置を決定するような目的では、酸化開裂の生成物の構造を知ることが有用な情報を与える。(問い 7.44 なども参照。)
また、反応により得られる物質の構造そのものが決められない場合でも、反応により得られる生成物が何種類あるのか(特に、1種類のみが得られるのか、混合物になるのか)といった情報のみからも知見が得られる場合がある。このような情報であれば、高価な装置に頼らなくても比較的実験的に求めやすい。たとえば、沸点の異なるものが2種類混ざっているものを蒸留したときの温度上昇のグラフはどうなるかを考えてみるとわかるだろう。また、クロマトグラフィーを用いれば、成分の数を知るだけであれば、比較的容易であろう。
(解答例)
化合物 B の分子式、 C10H16 の不飽和度は、3と計算される。オゾン開裂により2つの対称なフラグメント(シクロペンタノン)に分かれるということは、化合物 B には二重結合が1箇所のみ。すなわち、残りの不飽和度2は環構造に由来することになる。→ 化合物 B は、環を2つもち、二重結合で対称なアルケン, bicyclopentylidene 。
化合物 A は、希硫酸により脱水できるアルコール。主生成物(より多置換のアルケン)として、化合物 B を与える。
以上を考えると、次のように書くことができる。
A: bicyclopentyl-1-ol ( or 1-cyclopentylcyclopentanol)
B: bicyclopentylidene
(解答例)
カルベンの付加は、シンの立体特異性で進行する。従って
cis-2-butene からは、cis-1,2-dimethylcyclopropane のみが生じ、
trans-2-butene からは、trans-1,2-dimethylcyclopropane のみが生じる。
(解答例)
(a),(b)
(c) 臭素の付加と同じようにマルコフニコフ配向性をもつならば、より置換基の多いほうの炭素(but-1-ene への付加の場合では、2級の炭素:3員環の中間体において、よりカルボカチオン的性質の強い炭素)に付加するのが求核種であるから、N3 の部分の方が負に帯電していることがわかる。
このことは、共鳴構造式からも理解できる。共鳴構造式において1番目と3番目の窒素上に負の形式電荷がある。このことは1番目と3番目の窒素が(ともに)負に帯電していることを示す。
(解答例)
γ-ビサボレンの構造と比較して、10-ブロモ-α-カミグレンの構造中、臭素の結合した位置の隣の炭素上に2つのメチル基が結合していることを考え合わせると、ブロモニウムイオンは、γ-ビサボレンの環から一番遠い位置の二重結合に対して生じているように思われる。
10-ブロモ-α-カミグレンの2つの環のうち、臭素の結合した環が反応により生じたとすると、残っている2箇所の二重結合のうち、ひとつはそっくり手付かずのままであると考えられる。もう一方の二重結合は、前駆体である環状カルボカチオンの正電荷の位置に関する情報を与える。
ところで、二重結合の π電子は H+ や Br+ などに対して求核反応することができる。
また、3員環状のブロモニウムイオンは、Br- や水などから求核反応をうけた。これを統合すると、二重結合の π電子が3員環状のブロモニウムイオンに対する求核反応をすることも可能なように見える。特に分子内の反応の場合、分子間ではおきにくい反応でも生じやすくなることがある。これより、次のパターンが見えてくる。
以上をまとめて、全反応の機構を次図に示す。
(解答例)
cycloocta-1,5-diene
(解答例)
上のヒントとも対応してみてください。
左端は、diiodomethane を用いた Simmons-Smith 反応によって生じる bicyclo[4.1.0]heptane
中央および右端は、1,1-diiodoethane を用いた Simmons-Smith 反応によって生じる 7-methylbicyclo[4.1.0]heptane
7-位のメチル基が、シクロプロパン環を基準面として考えて、シクロヘキサンとシス側(青色で表現)に出ているものと、トランス側(赤色で表現)に出ているものとが区別される。
(解答例)
以下に、与えられた反応条件での主生成物の構造を示す。別の観点から、示された生成物を与えるような反応条件についても考えてみるとよい勉強になる。(ただし、ここまでで学習していない内容を必要としたり、多段階の反応が必要な場合もありうる。)
(a) 次のように反応し、マルコフニコフ配向性で生成物を与える。もし、問いのような生成物が必要な場合は、逆マルコフニコフ配向での付加が必要であるから、ヒドロホウ素化反応をつかって 3-methylbutan-2-ol としたのち、ハロゲン化物へ変換するなどしなくてはならない。
(b) 次のように反応し、シンの立体化学で付加反応がおこる。もし、問いのようにトランス体の 1,2-ジオールが必要であれば、過酸などを用いてエポキシドとしたのち、水酸化物イオンによる求核的な環開裂反応をさせるなどする。(エポキシドについては、教科書18章を参照のこと)
(c) 図のように、モルオゾニド、オゾニドを経由して2分子の propane-1,3-dial を生成する。
(d) ヒドロホウ素化反応は、次の機構で示されるような多段階の反応であるが、トータルとしてシンの立体化学で付加反応がおきる。従ってメチル基と水酸基は互いにトランスの位置関係のものしか得られない。もし、問いのような立体のアルコールが必要な場合は、水酸基をトシル化するなどして脱離基に変換したのち、水酸化物イオンによる SN2 反応をするなどしなければならない。(求核置換反応のひとつである SN2 反応については、教科書11章を参照のこと)
(解答例)
(a) pentan-2-ol
pentan-2-ol は、pent-1-ene または pent-2-ene の水和により生じることができる。
pent-1-ene は、マルコフニコフ配向の水和(オキシ水銀化法、または酸触媒による水和)では、主生成物として pentan-2-ol を与え、逆マルコフニコフ配向の水和(ヒドロホウ素化法)では、主生成物として pentan-1-ol を与える。
pent-2-ene は、二重結合炭素の置換の度合いが同じであるから、いずれの条件でも位置選択性はなく、pentan-2-ol とpentan-3-ol の混合物を与える。
従って、ヒドロホウ素化反応により目的物を選択的に得ることはできない。選択的に得るためには、オキシ水銀化法が適用できる。
(b) 2,3-dimethylbutan-2-ol
2,3-dimethylbutan-2-ol は、2,3-dimethylbut-1-ene または 2,3-dimethylbut-2-ene の水和により生じることができる。
2,3-dimethylbut-1-ene は、マルコフニコフ配向の水和(オキシ水銀化法、または酸触媒による水和)では、主生成物として 2,3-dimethylbutan-2-ol を与え、逆マルコフニコフ配向の水和(ヒドロホウ素化法)では、主生成物として 2,3-dimethylbutan-1-ol を与える。
2,3-dimethylbut-2-ene は二重結合に対して左右対称の構造なので、マルコフニコフ配向性、逆マルコフニコフ配向性のいずれの条件よる水和反応でも、同じ単一化合物、2,3-dimethylbutan-2-ol を与える。
(c) cis-2-methylcyclohexan-1-ol
cis-2-methylcyclohexan-1-ol は、1-methylcyclohexene または 3-methylcyclohexene の水和により生じることができる。
1-methylcyclohexene は、マルコフニコフ配向の水和(オキシ水銀化法、または酸触媒による水和)では、主生成物として 1-methylcyclohexan-1-ol を与える。逆マルコフニコフ配向の水和(ヒドロホウ素化法)では、主生成物として 2-methylcyclohexan-1-ol を与える。ただし、ヒドロホウ素化反応の立体特異性は、シン付加となるから、cis-体ではなく、trans-体が得られる。
3-methylcyclohexene は、二重結合炭素の置換の度合いが同じであるから、いずれの条件でも位置選択性はなく、2-methylcyclohexan-1-ol と 3-methylcyclohexan-1-ol の混合物を与える。また、更に、メチル基が二重結合に対する面選択性に影響を与えるわけではないから、生成物においてcis-体、trans-体のいずれかが優先するということもないため、立体異性体も含めると、計4種の混合物が得られることになる。
従って、ヒドロホウ素化反応により目的物を選択的に得ることはできない。
(d) 1-methylcyclohexan-1-ol
1-methylcyclohexan-1-ol は、1-methylcyclohexene または methylenecyclohexane の水和により生じることができる。
1-methylcyclohexene は、(c) でも述べたように、マルコフニコフ配向の水和(オキシ水銀化法、または酸触媒による水和)では、主生成物として 1-methylcyclohexan-1-ol を与える。逆マルコフニコフ配向の水和(ヒドロホウ素化法)では、主生成物として trans-2-methylcyclohexan-1-ol を与える。
methylenecyclohexane は、マルコフニコフ配向の水和(オキシ水銀化法、または酸触媒による水和)では、主生成物として 1-methylcyclohexan-1-ol を与える。逆マルコフニコフ配向の水和(ヒドロホウ素化法)では、主生成物として cyclohexylmethanol を与える。
従って、ヒドロホウ素化反応により目的物を選択的に得ることはできない。
(解答例)
いずれも二重結合での反応である。
A) 臭素の付加は、アンチの立体化学で進行する。これは、ブロモニウムイオン中間体を経由するからである。
B) 臭化水素の付加は、マルコフニコフ則に従った位置選択性で進行する。これは、カルボカチオン中間体を経由するからである。
C) 四酸化オスミウムを用いた水酸化は、シンの立体化学で進行する。これは、環状オスミウム酸エステル中間体を経由するからである。
D) ヒドロホウ素化反応では、逆マルコフニコフ則に従い水和が進行する。また、反応の立体化学はシン付加となる。
E) Simmons-Smith 反応ではシクロプロパン環ができる。
(解答例)
不飽和度は、1。酸化開裂が起きる位置、1箇所のみ二重結合をもつ。
CH3(CH2)12CH=CH(CH2)7CH3 → CH3(CH2)12CO2H + HOC(=O)(CH2)7CH3
この実験から、二重結合のシストランスを決めることはできないが、別の実験から、この立体がシス体であることが知られている。
慣用名:ムスカルレ muscalure, IUPAC名:(Z)-tricos-9-ene
(解答例)
(解答例)
(解答例)
(解答例)
(解答例)
反応は、ブロモニウムイオンへのアルコールの付加が分子内で起きる。この反応はハロヒドリンの生成と同様に、次の形式で生じる。
従って、ローレジオールよりプレローレアチンを生成する段階の反応機構は、次図のように書くことができる。
この反応では、まず初めの中間体としてブロモニウムイオンを経由し、水酸基による分子内攻撃で8員環のプロトン化された環状エーテルを形成し、最後に塩基によって脱プロトン化する、という順で進行する。
なお、教科書、反応の矢印の下にかかれた「ブロモペルオキシダーゼ」は酵素(すなわち、生体内の反応をつかさどる触媒)を示している。
(解答例)
代表的ないくつかの反応のみを示す。
アルケンは、臭素の付加反応をする。アルカンやベンゼンはこの反応をしない。従って、薄い臭素水(臭素による赤褐色を示す)を加えてよく振り混ぜる。アルケンは反応して臭素水が脱色される(臭素が付加反応により消費される)。ジクロロメタンなどの有機溶媒に臭素を溶かしたものでも、同様の変化を観察することができる。
希過マンガン酸カリウムの溶液(濃度により、深紫色からピンク色)を加えてよく振り混ぜる。二重結合が過マンガン酸カリウムにより酸化(酸化開裂、または、1,2−ジオールまでの酸化)をうけて、過マンガン酸イオンが消費されることにより脱色される。
また、炭素に担持させたパラジウム触媒を用い、水素の吸収がおきるかどうかを確認してもよい。水素の体積が減じれば、水素の吸収が起きていることになるから、分子内にアルケンがあることがわかる。
(解答例)
クロロホルムからのジクロロカルベンの生成は、クロロホルムの水素の酸性度が高い(電子吸引性基である塩素の結合により、その共役塩基であるカルボアニオン、トリクロロメタニドアニオンが安定化されるため。)ことに由来する。
トリクロロ酢酸イオン trichloroacetate ion は、脱炭酸により、同様に安定なトリクロロメタニドアニオンを生成することができる。この脱離反応において、脱離基は安定な中性分子である二酸化炭素である。
トリクロロメタニドアニオンから塩化物イオンの脱離によりジクロロカルベンが生じる反応は、クロロホルム由来、トリクロロ酢酸塩由来のどちらの場合も共通である。
(発展)
ハロホルム反応の最終段階、すなわちメチルケトンのトリハロ化後の、R-CCX3 の塩基による加水分解(水酸基によるカルボニル求核置換反応)でカルボン酸を生じる過程も、トリハロメタニドアニオンが安定で脱離基としてはたらくために起きる。
(解答例)
(a) (22-16)/2 = 3 だから、不飽和度は3。
(b) 水素を2モル吸収する。従って、不飽和度のうち1は、環によるものである。また、オゾン酸化により分子の2箇所が切れて、ジカルボニル化合物が2つできている。従って、二重結合は2箇所あったことになる。
(c)
(解答例)
反応の中間体、または遷移状態の構造が安定である(活性化エネルギーが小さい)ほど、その反応は速く進行するという原理により説明する。
1,2-ジオールの過ヨウ素酸から生じる環状過ヨウ素酸エステル中間体は、炭素−酸素−ヨウ素−酸素−炭素の5員環である。cis-1,2-diol の2つの水酸基は環に対して同じ方向にでているから、容易に5員環の中間体をつくることができる。これに対し、trans-1,2-diol の2つの水酸基が環の上下にでているから、この酸素を含む5員環中間体を形成するためには、炭素の6員環に歪みが生じる。より不安定な(=エネルギーの高い)中間体を経由する過程は、活性化エネルギーが高いということになるわけで、その反応の速度は遅くなる。
過ヨウ素酸エステル中間体の骨格の分子模型図を示す。水素と、ヨウ素から結合した環以外の酸素は省略して示した。赤が酸素、それ以外が炭素およびヨウ素。
ノルボルナン骨格(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン)の中の炭素の6員環部分は舟型の配座だから、cis-体の2つの水酸基は同方向(2つの水酸基の2面角が 0 度)に向いて出ている。従っていずれの環にも余分な歪みを生じずに5員環のエステル中間体を形成することができる。
trans-1,2-diol の2つの水酸基は、環の上下にでている。炭素の6員環部分に舟型の配座を固定したままでは、2つの水酸基は2面角が 120 度で突き出すから、5員環のエステル中間体を形成することができない。2つの水酸基の結合した炭素−炭素結合の軸にそってねじれが生じることにより、2つの水酸基の2面角が小さくなり、はじめて5員環のエステル中間体を形成することが可能となる。
(解答例)
類似の生成物を与える反応として整理しておくならば、アルケンは臭素の付加の中間体としてブロモニウムイオンを経由し、アンチ付加によるトランス体のみを生じる。一方、単純な平面型のカルボカチオン中間体を経由するような、アルケンに対する HBr の付加反応では、立体選択性が生じない。
プロトンの付加の段階では、その反応の位置により考えられる2種のカルボカチオンのうち、より安定なカルボカチオンのみが生じる。ここで、アルケンにプロトンが付加したとき、臭素の結合した炭素の隣接した位置に生じるカルボカチオンは、臭素原子のもつ孤立電子対が空のp軌道と相互作用して3員環のブロモニウムイオンを生じる(上図、青枠)。そのため、同じように第2級であるけれども、臭素から遠い位置に生じるカルボカチオン(上図、右のカッコ内の上部)よりも安定である。
このブロモニウムイオンからは、アルケンへの臭素の付加がアンチの立体で進行するのと同様に、trans-1,2-dibromocyclohexane のみを生じる。
(上図において、より不安定なカルボカチオンからは、ヒドリドシフトにより、より安定なカルボカチオンに転位することができるが、そもそも、右上のカッコ内に示したようなカルボカチオンが生じていると考える必要はないし、そのような不安定なカルボカチオンの生成を仮定することは、単一の生成物を与えるという実験事実に反する。)
(解答例)
この問題では生成物が対称な構造であるから、位置特異性、立体特異性ともに関係しないが、オキシ水銀化法と同様、マルコフニコフ配向性に従った位置特異的な反応であり、また付加は全体としてシンの立体化学で進行する。
(発展)
オキシ水銀化法の変法として、マーキュリニウムイオンに対し、水のかわりにアルコールの求核攻撃させる方法は、エーテルの合成法の1つとして教科書 18章に「アルコキシ水銀化法」として示されている。ただし、水よりもアルコールの方が求核性が弱いので、オキシ水銀化法と同様に酢酸水銀を用いるとアセテートイオンによる求核攻撃が副反応としておきてしまう。これを避けるため、一般的にアルコキシ水銀化法では、酢酸水銀のかわりにトリフルオロ酢酸水銀を用いると収率が上がることが知られている。
(解答例)
出発物質である置換ドデカトリエン酸のエステル、 methyl 3,7,11-trimethyldodeca-2,6,10-trienoate には3箇所の二重結合があるが、2 位の二重結合(次図中、緑での囲み)は隣接した位置に電子吸引性基であるエステル残基が結合しているから、π 電子密度は他の2つの二重結合よりも下がっていると考えられる。6 位、10 位の二重結合は電子的にはほぼ等価であると考えられるが、6 位の二重結合(水色での囲み)は分子の中央近くにあるのに対し、これに比べて、10 位の二重結合(赤色での囲み)は分子の末端近くにあるから、立体的に邪魔が小さいと予想され、ここで求電子的な反応が起きると考えることができる。
従って、オキシ水銀化法と同様に、酢酸水銀が赤で囲んだ 10位の二重結合に対して求電子的に付加してマーキュリニウムイオン中間体を生じるところから、一連の反応が開始される。
生じた3員環のマーキュリニウムイオン中間体は、より級数の多い方の炭素(11 位の炭素)上で求核攻撃を受ける。分子内の二重結合が求核種としてはたらき、6員環を形成してカルボカチオン(上の反応機構の図、上段右端)を生じる。更に 2 位の二重結合が求核種としてはたらいて、このカルボカチオンに求核付加すると、デカリン骨格をもつカルボカチオン(上の反応機構の図、下段右端)を生じる。このカルボカチオンにおいて、青色で示した 2 位の水素は、隣接位置にエステルのカルボニル基がある。つまり、カルボニル基の β 位の水素であるから、他の位置の炭素に結合した水素よりもずっと酸性度が高い。この酸性水素が脱離して二重結合を生じ、問いに与えられた最終生成物である水銀化合物(下段中央)を生じる。
オキシ水銀化法の最後の段階で、有機水銀化合物を NaBH4 を用いたヒドリド還元してやることで、炭素−水銀結合を、炭素−水素に変換することが可能である。分子内のエステルや二重結合は NaBH4 では還元されないから、2,5,5,8a-tetramethyl-3,4,4a,5,6,7,8,8a-octahydronaphthalene-1-carboxylic acid methyl ester (下段左端)の構造へ容易に誘導することも可能であると予測できる。
(解答例)
ブロモニウム中間体に対し、水が(分子間の)求核反応するとブロモヒドリンを生じるが、分子間の反応よりも(5、6員環を生じるような、”ちょうど良い位置”に分子内の求核グループである水酸基がある場合は)分子内の反応の方がずっと速く起きる。このためブロモヒドリンは生じずに、2-(bromomethyl)tetrahydrofuran のみを生じる。
ブロモニウムイオン中間体に対する求核反応は、(正電荷をもつ3員環なので、プロトン化をうけたエポキシドなどと同じように)環がひらいて完全なカルボカチオンになっているわけではないが、安定なカルボカチオンと同じ位置、すわなちマルコフニコフ配向にしたがってより置換基の多い方の炭素、に求核攻撃が起きることに注意すること。
(解答例)
アルケンへのプロトンの付加によりカルボカチオンを生じる過程で、プロトンはルイス酸として働いていると捉えることができる。また、この反応は、ヒドロホウ素化反応のはじめの段階、すなわちアルケンに対し、ルイス酸性をもつ BH3 が配位していく過程と類似であると考えることができる。
反応温度の高い条件では、この BH3 の二重結合への配位(付加)が可逆であると考えることができるとすると、次の図に示すような形で二重結合が転位することが可能になる。
次に、この転位が何故おきるのかについても説明しなければならない。上の過程が可逆で、それにより平衡が成立したとしても、2-methylpent-2-ene からの転位により生じるアルケン、4-methylpent-2-ene および 4-methylpent-1-ene は、それぞれアルキル2置換、アルキル1置換のアルケンであるから、アルキル3置換の 2-methylpent-2-ene に比べて不安定であるから、アルケンの安定性のみを考えた場合、出発原料である 2-methylpent-2-ene が主となるはずだからである。
ヒドロホウ素化反応における中間体、有機ホウ素化合物 organoborane の安定性について考えると、ヒドロホウ素化反応においての位置選択性が、より立体障害の小さい炭素にホウ素が結合したことからも類推されるように、第1級の有機ホウ素化合物が一番安定である。この観点から見ると、上図中で organoborane 3 が一番安定である。従って、上図に示された3つのアルケンと3つの有機ホウ素の間で平衡が成立している中から、この organoborane 3 を経由するヒドロホウ素化反応が優先して進行するようになり、4-methylpentan-1-ol を主として生成する。
(解答例)
(a) アルケンへの Br2 の付加は、アンチの立体化学で進行する。アルキンに Br2 が付加すると、trans-体の 1,2-ジブロモアルケンが生じる。(もう1等量の臭素が付加すると、1,1,2,2-テトラブロモ体が生じる。)
(b) Pd / C を触媒とした接触水素化では、アルキンは2等量の水素を吸収してアルカンまで還元される。Lindlar 触媒を用いると、1等量の水素との反応でアルケンを生じる。接触水素化反応はシンの立体化学で進行するから、末端の位置でないアルキンからはシス体のアルケンとなる。
(c) HBr の付加は、アルケンの場合と同様、アルキンに対してもマルコフニコフ配向性の位置特異性で進行する。
(解答例)
オスミウム酸エステルの形成を経由するヒドロキシ化は、シンの立体化学で進行する。従って、but-2-ene のシス体から出発した場合とトランス体から出発した場合では、生成物の立体が異なる。生成物の Newman 投影式(反応式に書いた構造を、右からの視点で示したもの)を併せて示した。